新設の「早稲田アリーナ」の屋上に設置された「戸山の丘」の評判がすこぶるいいようだ。開放的になった戸山キャンパスに入り、植栽の坂道を上ると、天然芝の通称「古墳の丘」に辿(たど)りつく。学生たちが緑の芝生に寝そべりながら談笑する姿を見ると、ここが早稲田かという感慨を覚える。丘の周囲には水路が配置され、何とメダカが泳いでいるではないか。メダカは環境の変化で日本中の川や池で激減したといわれ、親しんだ子供の頃から50年近く目にしなかったのであるが、まさか大学で遭遇するとは思いもしなかった。
戸山キャンパスのメタセコイアも、記念会堂解体のための強剪定(せんてい)で無残な姿に変わり果てていたが、ようやく威容を取り戻しつつある。この太古の化石木は1945年に中国で自生しているのが発見され、早稲田には1968年に校友の小汀利徳氏(元中外商業新報社社長 ※現日本経済新聞社)から日中友好を期して寄贈されたそうだが、シンボルツリーとして見事に復活した。
強剪定といえば、早稲田通りの鈴懸け(プラタナス)の街路樹は整えられすぎて、この木本来の特徴が生かされていないように思われる。プラタナスは古代ギリシアの学苑のシンボルツリーで、プラトンのアカデメイアやアリストテレスのリュケイオンの学生もこの木陰で学んだ。ゴッホが南フランス・アルルで描いたあの生命感溢(あふ)れる並木や、大学都市エクスの名所ミラボー通りの樹木も実はこのプラタナスであり、ダイナミックに躍動する樹姿(じゅし)は、見るものを圧倒するほどの迫力がある。早稲田の新しい「緑化」のシンボルツリーにもなりうる木なのだが。
(M)
第1054回