ウタゴエ株式会社 代表取締役社長・博士(情報科学) 園田智也(そのだ・ともなり)
厳しい寮生活で学んだ“社会”の在り方

そのだ・ともなり 1975年生まれ。1998年早稲田大学理工学部卒業。在学中に開発した「歌声による曲検索システム」で国内外の特許を取得し、2001年、早稲田大学 大学院理工学研究科博士後期課程に在学中、うたごえ有限会社を設立。2003年8月に株式会社へ改組。現在はスマートフォンアプリ「瞬間日記」のサービス 提供を主力事業とする。
2001年1月、早稲田大学発のベンチャー企業として「うたごえ(現「ウタゴエ」)」を設立した園田智也さん。理工学 部在学中、音声認識の研究に取り組み、世界初の歌声による曲検索システムを開発。特許を取得した後、学生起業家として「歌声検索」をサービス化した華々し い経歴の持ち主だ。
園田さんが起業を決意したきっかけは学生時代に価値観を変える物事や人々に出会ったこと。洗礼を受けたのは田無寮[※1]に入ったときだ。
「寮生は原則として寮の行事に参加することを前提に入寮が許可されるのですが、当時はこの仕組みを不条理に感じることもありました。ただ、徐々に気付くん ですよね。寮でケンカや盗難が一切起きないのは厳しい入寮条件があり、それを皆が守ることによって保たれる秩序のおかげなのだと。それからは寮を社会の縮 図として受け入れ、良くも悪くも簡単には変わらない社会に対し、自分が少しでもいい影響を与えられるようになろうと思うようになりました」。
その言葉を体現するように、上級生となって寮長[※2]を買って出た園田さんは、寮生活の向上のために奔走。そこで培われた思いが、後に「生活を豊かにする」というウタゴエの経営理念につながっていった。
IT の世界で起業を決意 目指すは“世界初”の技術!
早稲田大学の恵まれた学習環境も園田さんの起業に大きな影響を与えた。ワークステーションなどの高性能コンピュータに触れ、最新のITツールを 使って学ぶ日々。程なくして、自分たちのITスキルが社会の数年先を進んでいることを実感し、将来的にそのアドバンテージを生かすことで社会貢献を行うことを思い立つ。
「可能性が無限に広がるITの世界なら、自分が誰にも作れないものを生み出せるかもしれないし、開発したソフトウェアを全世界に配布し、直接人々の役に立てるかもしれない」。
大学3年次、学生時代に最も影響を受けた人物という村岡洋一理工学術院教授(2012年度定年退職)の研究室 に入ったのも将来を見据えてのことだった。そして、村岡教授の指導が園田さんの人生を決定付ける。「先生から『君の相手はこの学校でも、日本でもなく、海 の向こうの学生たちだ。世界に通用する人間を目指しなさい』とアドバイスされたんです。そこで、世界初の技術を模索し始めました」。
園田さんは卒業する先輩から、歌声から楽曲を探し出すという音声認識の研究を引き継ぎ、“世界初”の技術開発に取り組んだ。泊まり込みで 研究を続けること半年。1998年、ついに歌声による曲検索システムを開発し、国内外で特許を取得。その快挙は『ニューヨーク・タイムズ』でも報じられ、 世界中から投資のオファーが舞い込んだという。けれども…。
「全て断りました。投資は正直ピンと来なかったし、何より自分の計画通りに将来を決めたいという思いがあったんです」。
園田さんは在学中に起業を決意して以来、人生の節目における目標をノートにしたためていた。そこに書かれていた最初の目標は、「300万円を貯めて2001年4月に起業する」という地に足の着いたものだった。
非公開型日記サービスで全ての人の居場所をつくる
起業から12年。ウタゴエは現在、早稲田大学インキュベーションセンターに本社を構える。主力事業は歌声検索からスマートフォン向けの非公開型日記アプリ「瞬間日記」へと変わった。
「今はSNS全盛ですが、一般公開型だと感情の出し入れがうまくできない人もいる。そこで、個人の新たな居場所を提供するべく、非公開型の日記サービスを作ったのです」。
主力事業が歌声検索から日記に変わっても、根底にあるものは変わらない。在学中に生まれた「社会の役に立ちたい」という姿勢だ。
「将来的には全世界の人々の一生を記録できるサービスにしたい。それでキャッチフレーズを『100億人の100年を瞬間日記に』としました」。
早稲田の研究室から世界初を生み出した園田さんは、今度は早稲田から“世界一”を発信しようとしている。
※1 2008年度からは施設を一新し、学生部が管理・運営する「田無学生寮」として新規に開設された。
※2 2008年度以降、寮長としての業務は学生部から委託された提携会社スタッフが行っている。