Waseda Weekly早稲田ウィークリー

特集

自分にぴったりの本は?本の目利きが教える 厳選ブックガイド

暑かった今年の夏も過ぎ、落ち着いて本と向き合うのに最適な気候となりました。
国立青少年教育振興機構が昨年行った調査によると、子どもの頃の読書活動が多い大人ほど、未来志向や社会性といった意識・能力が高いそうです。今からでも遅くありません。この機会に、あらためて本と向き合ってみてはいかがでしょうか。

文学学術院 准教授 文芸批評家 市川 真人 (いちかわ まこと)

雑誌『早稲田文学』編集委員。批評ユニット「前田塁」としても活動するほか、テレビ番組『王様のブランチ』(TBS系)のブックコメンテーターなども務める。著書に『芥川賞はなぜ村上春樹に与えられなかったか』(幻冬舎新書)、『紙の本が亡びるとき?』(青土社)など。

活字嫌い あるいは読書に不慣れな人
レベル 1

家でも学校でも、時に友人からも「本を読め」と言われるけれど、今まで読み慣れてこなかったし、何から読ん でいいか分からない!──そういう人も多いはず。「ネットの文章じゃダメなの?」 と思うかもしれません。

「本」だからこその特徴は、一 冊全体であれ、一つの章や文であれ、「まとまりが長くて、物語も理論もじっくりアタマに入ること」です。そのぶん、読書に慣れない うちや、普段学んでいるのと違うジャンルの本だと、とっつきづらく感じることもあるでしょう。そんなアナタは、“手軽に読み始められるけ ど、話題に引っ張られて気付けば一冊読み終えている”、そんな疾走感が助けてくれる本を試してみませんか?

例えば『サンド ウィッチは銀座で』①。名エッセイストの文章と、海外でも評価の高い漫画家の絵が組み合わさって、食欲に引きずられるまま巻末 まで一気に読めちゃいます。銀座行きの電車に飛び乗るまでもあっと言う間かも。理系に興味がある人には『空想科学読本』②。 ハリウッド映画やロボットアニメなど、人気のフィクション作品を現実にするには科学的にどんなハードルが? 早稲田の卒業生による人気エッ セー『困ってるひと』③は、難病と戦う日々を描いた一冊。病気と戦う著者の明るさに、爆笑と切なさが同居する不思議な読書体験が味わえますよ。

① 『サンドウィッチは銀座で』

平松洋子、画・谷口ジロー/578円/文藝春秋
各社の社員食堂を食べ比べ、中国東北地方の味を探しに池袋へ赴き、絶品サンドウィッチを求めて銀座を探訪̶「オール讀物」で連載された食べ歩きエッセーをまとめた一冊。

 

 

 

 

② 『空想科学読本』シリーズ

柳田理科雄/メディアファクトリー※価格は巻により異なる
漫画やアニメの世界、つまり人間の想像力が生んだ「空想科学」の出来事が、科学的にどこまで正しいのか検証した本シリーズは、既刊13冊の他、続編、ベスト版多数。写真はシリーズ最新刊。

 

 

 

 

③ 『困ってるひと』

大野更紗/672円/ポプラ社
大学院に進学しビルマ難民の研究を始めた矢先、難病を発病。先進国であるはずの日本で自らが医療難民に̶描かれている現実は重いが、ユーモアあふれる筆致でぐいぐい引き込まれる。

読書にちょっと飽きた気もする人
レベル 2

本は好きなはずなんだけど、最近どうもハマらない。っていうか、なんかノラないんだよね……という人は、すでに読んだ物語やよく知っているつもりの世界を、違う切り口で捉える本はいかが?

『文学的商品学』④ は、日本文学の名作を、ストーリーやテーマではなく作中出てくる服装や食べ物や経済感覚など、さまざまな角度から斜め読みする読書指南書です。昨日までの小説の読み方と、きっと違った世界が開けます。文学作品がそんなふうに読めるなら、社会や歴史も同様に斜め読みできるはず。『ラーメンと愛国』⑤は日本の現代史を「国民食」ラーメンの歴史で見てゆきます。中華の血を引く食べ物がこれほど定着した国で、「愛国」だの「排外」だのってオカシくね?…そんな身近な疑問もすっきり解決。

結局、読書の醍醐味(だいごみ)は、“昨日までの自分になかった視点や考え方を手に入れる”こと。読書に飽きたり迷ったりしてたのは「必ず泣ける」「~さん絶賛!」なんて紋切型のユルい刺激ばかり与えられてたせいだと気付けたら、あなたももう立派な読書家です。

そんな新たな視点とともに読めば、下宿を始めた大学1年生が「辞書強盗」に巻き込まれる『アヒルと鴨のコインロッカー』⑥の不思議な謎とストーリーも、主人公以上に面白く体験できるはず!

④ 『文学的商品学』

斎藤美奈子/630円/文藝春秋
川端康成から村上春樹まで延べ70人、82作品に登場する「モノ」の描写に着目した文芸評論。本書に並ぶ「モノ」は食べ物、バンド、野球など種々雑多。興味が湧く本にきっと出会えるだろう。

 

 

 

 

 

⑤ 『ラーメンと愛国』

速水健朗/798円/講談社
ラーメンの始まりは戦後の食糧不足と米国の小麦戦略にあった–では屋台や店頭で提供されるラーメンだけでなく、インスタントラーメンも含めた日本のラーメンの歴史がひも解かれる。

 

 

 

 

 

 

⑥ 『アヒルと鴨のコインロッカー』

伊坂幸太郎/680円/東京創元社
広辞苑を奪うための強盗計画に巻き込まれた椎名。一方、ペット殺しの犯人と関わりを持ってしまった琴美。二つの物語の接点とは?時制を巧みに操る構成と伏線の妙。ミステリの魅力が凝縮された一冊。
写真:©KAZUYA YOSHINAGA/W2 装幀:岩郷重力+WONDER WORKZ。

新刊のチェックを欠かさない読書家
レベル3

いまさらこんな記事読まなくても日々に書店に通っているし、読みたい本は自分で探すよ、という人もいるはず。だったら、現代だけでなく過去の本も集めた大学図書館だからこその、隠れた名作・奇作はいかがですか?

村上春樹に『パン屋再襲撃』⑦という作品集があります。「再襲撃」があるなら「襲撃」も?と思うのが人の常ですが、その本の中にも、どの単行本にも見つかりません。実は「パン屋襲撃」は、デビュー2年後の春樹が雑誌「早稲田文学」に発表した幻の短篇だったんです。同作は5年後に「パン」と改題されて糸井重里との共著『夢で会いましょう』に収められ、さらに近年ドイツの画家とコラボした『パン屋を襲う』で「再襲撃」と一冊になりましたが、オリジナルを見られるのは初出の「早稲田文学」1981年10月号だけ。探しに行くと、単行本未収録の掌編「鹿と神様と聖セシリア」⑧(同6月号)にも出会えます。

村上春樹と並んで現代日本文学を代表する小説家・大江健三郎にも、雑誌「文學界」1961年2月号に「政治少年死す(セブンティーン第二部)」⑨という、政治的理由から単行本化されなかった幻の作品があります。古書は古書店やネットで探せますが、それでも出会えない作品たちを、当時の時代をそのまま残す大学図書館のバックナンバー書庫に探しに行ってみませんか?

⑦ 「パン屋襲撃」

村上春樹/「早稲田文学」1981年10月号収録/早稲田文学会
空腹のあまり包丁を手に押し入ったパン屋で、「僕」と相棒は共産党員でワグナーを好む店の主人に思わぬ申し出を受ける。そこから、「僕」たちとパン屋の主人との奇妙な交換条件の応酬が始まり……。

 

 

 

 

 

 

⑧ 「鹿と神様と聖セシリア」

村上春樹/「早稲田文学」1981年6月号収録/早稲田文学会「僕」は編集委員を務める「早稲田文学」向けに『森の生活・鹿の生活』という作品を書く。主人公(=「私」)が森の奥に住んで、冗談好きの鹿と付き合う話であったが、友人から酷評を受けて……。

 

 

 

 

 

 

⑨ 「政治少年死す(セブンティーン第二部)」

大江健三郎/「文學界」1961年2月号収録/文藝春秋
1960 (昭和35)年に起こった浅沼稲次郎・社会党委員長刺殺事件の犯人である右翼の少年をモデルに、閉鎖された社会の中で一直線に極右の世界に溺れていく少年の姿が強烈な筆致で描かれる。

図書館を利用しよう!

早稲田大学図書館には書店にない本や資料、貴重書を含め560万冊が所蔵されています。お目当ての本は、「蔵書検索システムWINE」で検索が可能。ぜ ひ活用してください。

図書館活用術①研究書庫に行ってみよう!

中央図書館地下の研究書庫に入ったことはあるでしょうか?研究書庫には200万冊を超える本があり、明治時代に出版された本や「早稲田の 四尊」の一人でシェイクスピア研究で有名な坪内逍遙のコレクションから、最新の研究書に至るまで、分野別に一覧できます。研究書庫の書棚 を眺めながら、記録された人類の英知に触れてみましょう!

図書館活用術②レファレンスサービス

「探したい資料が見つからない」「どのように探したらよいか分からない」といった方のために、早稲田大学図書館で は、レファレンスカウンターを設けています。また図書館に所蔵されていない本で、読みたいものがある場合は、「購入希望」を出す ことも可能。Waseda-netポータルからもこれら図書館の利用やサービスに関する質問を受け付けています。

蔵書検索システムWINE

WINEはタイトルや著者名、キーワードから検索できる検索エンジンですが、利用者記録の照会や貸出期間の延長、資料の予約の機能もあります。

早稲田大学図書館についてもっと知りたい方は、下記各ページをご覧ください。また、スタンプラリー形式の「中央図書館セルフツアー」への参加も随時受け付けています。参加者には図書館オリジナルクリアファイルをプレゼントしています。

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