Waseda Weekly早稲田ウィークリー

早稲田の学問

「肩の力を抜いて行こう」。 世界を駆けるデザイナー佐藤オオキの仕事スタイル(後編)

早稲田大学大学院修了直後に仲間とデザイン会社「nendo(ネンド)」を立ち上げ、デザイナーとして活躍する佐藤オオキさん。常時、約400もの案件を同時進行させておりその半分以上が海外からの依頼だという。世界から注目される理由はどこにあるのか。前編に続く後編では仕事観に加え、人生観についても語ってもらった。

デザインオフィスnendo代表/チーフデザイナー 佐藤 オオキ(さとう・おおき)

1977年カナダ生まれ。早稲田大学高等学院、理工学部建築学科卒業、2002年早稲田大学大学院理工学研究科建築学専攻修了。同年、デザイン事務所「nendo」立ち上げ。クライアントに、エルメスやタグ・ホイヤー、スターバックスほか。プロダクトからファッション、空間、グラフィックまで幅広い分野で活躍。最近では、NHKのドラマ『運命に、似た恋』の監修や、早稲田大学ラグビー蹴球部のユニフォームのデザインを行っている。英デザインウェブマガジン「dezeen」の2016年プロダクトデザイナー部門で1位に選出されるなど、受賞歴多数。

ゲームマニアが徹夜でゲームをしている感覚。

――多くのクライアントから仕事が舞い込む状況ですが、nendoの何が評価されていると感じますか?

単にアウトプットを出すだけでなく、そこまでのプロセスを大切にする姿勢ではないでしょうか。

デザインの世界には、巨匠と呼ばれる人々がいます。それぞれ「代表作」があって、仕事を依頼する側はその個性やテイストに期待して、お願いするというのが一般的でした。

ただ最近はデザインに対するニーズが多様化しています。例えばビジネスの世界では、ロゴや商品など形あるものだけでなく、経営といった会社の根幹部分にもデザインが取り入れられるようになっている。デザインの可能性が広がる中、強い個性ではなく、柔軟な発想が求められる場面が増えています。

固まった個性より柔軟性が求められている。

僕たちnendoは、会社や事業がどんな壁にぶつかっているか、課題抽出から取り組みます。常にクライアントに寄り添ってアイデアを考えるため、案件ごとに独自のデザインが生まれます。だから、nendoには代表作がないんです。言い訳っぽいですかね(笑)。

「chocolatexture」 味ではなく、あえて形にのみ注目したチョコレート。「toge-toge」「subesube 」など食感をそのまま商品名に(写真:吉田 明広)

実際、クライアント自身が見えていなかった経営課題や潜在的な可能性を発見することも珍しくありません。そのため、一つの仕事がきっかけで新しいプロジェクトに発展したり、長期的なお付き合いになったり、単発で終わらないことが多いですね。デザイナーなので最後は形にするのですが、だからこそプロセスが評価されるのは、nendoの独自価値かもしれません。

――たくさんの仕事を同時進行されていますが、佐藤さんにとって何が原動力になっていますか?

仕事の大小や内容に関係なく、クライアントが現状から1ミリでも何かを変えたいと考え、nendoに期待をしてくれているなら、挑戦せずにはいられない性格です。もちろん忙しくなると体は疲れるのですが、精神的に行き詰まることはないですね。アイデアを考えている時は僕にとって至福の時間。例えるなら、ゲームマニアが徹夜でゲームをしている感覚です。

「ILLOIHA OMOTESANDO」フィットネスジム。「表参道で ロッククライミング」をテーマに、鏡や花瓶といっ たインテリア的な要素で壁面をデザインし、競技が身近に感じられるよう工夫。「JCDデザイン賞 /金賞」受賞(写真:阿野 太一)

楽な道より、大変な道を選ぶべき。絶対に。

――情熱を注げる仕事を見つけることが大事ですね。最後に、後輩である早稲田大学の学生たちにメッセージをお願いします。

僕は、常にニュートラルでいることが、思わぬ可能性を開くポイントだと思っています。大学を卒業して仲間たちとnendoを立ち上げた時も、「できる」という確信はないけど、「できない」とも思わない、そんな感覚でした。

それに、今はインターネットなどの情報環境が充実しているおかげで、海外は遠くて眩(まぶ)しい存在ではなくなっています。海外と日本の境界線もあいまいで、僕よりずっと若い学生の皆さんはなおさら、「グローバル」を意識することなんてないんじゃないでしょうか。それくらいフラットに構えて、何でも挑戦してみてほしいと思います。

とはいえ、勝負の場面では絶対に負けないという強い意思も大切です。僕にとって「負け」とは、人の期待に応えられないことを意味します。でも僕は卒業後すぐに独立してしまったため、師匠からホームランの打ち方を教わったわけでもなければ、チームを運営するノウハウもありません。いつも崖っぷちの手探り状態でした。だからこそ、全力でバットを振り続ける。それは今も変わりません。

楽な道と大変な道、二つあったら、ぜひ後者を選んでください。効率性や確実性を求めれば、可能性を狭めることになります。成功する保証なんてなくても、突き進む。それが自分の納得できる生き方につながるのだと思います。

2016年のミラノサローネで「50 manga chairs」と題したnendoの個展を開催。毎年、160カ国・30万人以上の来場者数を集めるビックイベントで、存在感を発揮した(写真:太田 拓実)

>> 前編はこちら

(『新鐘』No.83掲載記事より)

※記事の内容は取材当時(2016年)のものです。

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