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脚本家・金沢達也 手持ちの“カード”をどう増やす?「無駄な時間」は一切ない

2022年度入学記念号

早稲田はいろんな種類のカードを増やせる環境

脚本家 金沢 達也(かなざわ・たつや)

4月といえば新入生、新天地、新生活、新ドラマ…また、新たに何かを始める人も多い季節。2022年4月13日に放送開始となる民放連続ドラマの脚本を手掛ける金沢達也さんは、早稲田大学人間科学部の卒業生だ。在学中はサッカーに明け暮れ、卒業後は萩本欽一さん主宰の「欽ちゃん劇団」で役者人生を送り、その後は放送作家に転身…という紆余(うよ)曲折の末、現在は映画やドラマの脚本家として活躍しつつ、ドキュメンタリー作品の監督も務めるなど、自身が想定もしていなかった人生を歩んでいる。そのドラマチックなキャリアを通して気付いた、早稲田らしい生きざまとは?

サッカー漬けの大学時代。サッカーで生まれた仕事の縁

「演劇をやりたい」…そんな目標を掲げた高校時代の金沢さん。早稲田大学は演劇でも有名だと知り、中でも公認サークル・演劇研究会に入って演劇に打ち込もうと、受けられる学部は全て受験し、結果的に人間科学部に合格。いざ、演劇研究会で演劇漬けの日々がスタート…とは事が運ばなかった。

「早稲田キャンパスにある演劇研究会の部室を何度か訪ねたのですが、間が悪かったのかいつももぬけの殻。途方に暮れて所沢キャンパスに戻ってみると、誰も使っていない天然芝のグラウンドが広がっていることに気が付いたんです。聞けば、公認団体であれば使えるよ、と。そこで、自分も経験のあるサッカーでサークルを立ち上げてみたところ、所沢キャンパスは、体育各部であるア式蹴球部にこそ入らなかったものの“脚に自信あり”、という人材の宝庫だったんです」

サッカーサークルを立ち上げた金沢さんは、初代キャプテン兼幹事長に就任。「10年後に同好会日本一になろう」と目標を掲げ、練習と運営にどっぷり漬かる日々。いつの間にか、「演劇をやりたい」という当初の目的とは異なる学生生活を歩んでいた。

「真面目にサッカーに打ち込んでいて相当の熱量だったからか、ア式蹴球部の当時の監督から、特例での途中入部という話をいただけたんです。でも、立ち上げたサークルに新入生も入ってきてくれた中、幹事長が抜けるわけにはいきませんから。結局そのまま、サークルで活動を続けました」

写真左:大学時代の金沢さん
写真右:サッカーサークルメンバーと。金沢さんは後列右から2人目

一見すると、当初描いていた演劇とはカスリもしない日々。でも、無駄なように思えた時間は無駄じゃなかった、と金沢さんは振り返った。

「冷静に考えれば、サッカー漬けの無駄な時間を過ごしたとも言えます。ただ、それを後悔するのではなく、いかに貴重かと自覚することが大事。夏目漱石も伊集院静さんも、そしてわが師・萩本欽一も、皆さん“道草”や“遠回り”の大切さを説いていますから」

実際、このサッカーに打ち込んだ日々が、その後の人生設計でも大きなきっかけになったという。

「『10年後に日本一になろう』という目標通り、初出場からちょうど10年後、後輩たちが同好会最高峰のリーグ・新関東フットボールリーグで優勝し、関西王者との間で行われる東西対抗戦も制し、事実上の同好会日本一に。その時のキャプテンである神戸佑介がJリーグ・鹿島アントラーズのスタッフになり、彼の相談を受けていた流れで、鹿島のドキュメンタリー作品の監督をする機会をいただいたんです。そもそも脚本家になる前、放送作家になれたのは、助っ人で参加したTBS『スーパーサッカー』のサッカーチームで活躍したことがきっかけ。大切なことは全てサッカーが教えてくれた…は言い過ぎかな(笑)」

©KASHIMA ANTLERS

早稲田色に染まって、自分だけのカードを

時計の針を今一度、金沢さんの大学時代終盤へ。気付けば就職活動期、周囲がリクルートスーツを着て企業訪問するようになると、金沢さんは「早稲田に入った理由」を思い出した。

卒業式でご両親と。当初は演劇への道を反対していたものの、欽ちゃん劇団への入団を喜んでくれたそう

「そうだ、演劇をやりたかったんだと、大学4年になる前、芸能プロダクションのオーディションを受けまくったんです。その中で唯一、合格できたのが欽ちゃん劇団。でも、僕に演劇的な素養があったとかそんな理由ではなく、当時の欽ちゃんの口癖が『これからの笑いは大卒だ』だったから。実際、卒業後の見習い時代の1年間、僕のことはずっと『おい、ワセダ』と呼んでいましたから」

それでも、3カ月ごとに半分が退所を言い渡される厳しい見習い期間を乗り越え、晴れて正規の劇団員へ。当時の記憶がないほど、1年のうち364日は浅草の舞台に立ち続けるようなハードな日々を過ごしたという。

「でもある日、急に『もう舞台には立ちたくない』と思ってしまって…。そこで『舞台の台本を書かせてもらえますか?』とお願いしたところ、欽ちゃんが『じゃあ作家になればいいよ。うちはもともと放送作家の事務所なんだから』とチャンスをいただけたんです」

まずは、欽ちゃん劇団の座付き作家(※)に。その後はフリーの放送作家として、いくつもの人気番組に携わるようになった金沢さん。日本で開催された2002FIFAワールドカップでは、フジテレビで中継されたグループリーグ「日本vsロシア」戦の番組構成を担当。視聴率はテレビ史上3位となる66.1%を記録した。ところが、放送作家になって10年後、安定した生活を捨ててまで、脚本家に転身するという大きな賭けに打って出た。

(※)劇団の専属として台本を書く作家のこと

「確かに生活は潤っていましたが、大きな番組だと放送作家は5人も6人もいて、その評価は良くも悪くも自分だけのものではありません。もっとダイレクトに評価される仕事がしたいと、脚本一本で勝負することに。そこから10年、なんとかやってこれました」

4月13日スタートの間宮祥太朗主演の新ドラマ『ナンバMG5』で脚本を担当©フジテレビ

役者から放送作家、そして脚本家へと転身を続けてきた金沢さん。その多様性に満ちた経験で生きた、大学時代の価値について教えてくれた。

「大学時代って、自分の持ち札・カードを増やす時間だと思うんです。『早稲田出身』というのが既に一つの重要なカードだし、学部で学んだこと、恋愛、失敗談だって1枚のカードになり得ます。そして卒業式が終わった日の夜、そのカードが一人一人にあらためて配られて卒業後の人生の切り札になる。だから、とにかくいろんな経験を積んでほしい。何一つ無駄なカードにはなりませんし、早稲田ほどいろんな種類のカードを増やせる環境はそうないはずです」

そしてもう一つ、新入生だけでなく在学生にも伝えたいことがあるという。

「僕の卒論テーマは、Jリーグを事例にユニホームの“色”から考察するスポーツ社会学。その意味でいうと、早稲田って国内外からいろんな“色”を持った人が集まる場所だと思うんです。でも、外から見ているとその色が最近ちょっと薄くなっているんじゃないかなと。もっと早稲田らしい色、臙脂(えんじ)色をハッキリと意識するくらい早稲田に染まってほしいです。その臙脂をベースにして、もっと濃くしたり、ラインを重ねたりと自分らしさを演出していけば、きっと楽しいと思いますよ」

取材・文:オグマナオト(2002年、第二文学部卒)
撮影:小野奈那子

【プロフィール】

脚本を務めた映画『暗殺教室』のロケ地にて(隣は妻でタレントの大堀恵さん)。地元・群馬県の「ぐんま特使」を務める縁で、群馬県内のロケ地誘致にも関わった

1971年、群馬県生まれ。東京農業大学第二高等学校卒業。早稲田大学人間科学部卒業後、欽ちゃん劇団に入団。その後、脚本家に転身し、映画『暗殺教室』シリーズなど、数々のドラマ・映画の脚本を務める。最新作としては、2022年4月13日スタートのフジテレビ系ドラマ『ナンバMG5』の脚本を担当。また、配信中のJリーグ・鹿島アントラーズ長編ドキュメンタリーシリーズ「FOOTBALL DREAM 鹿島アントラーズの栄光と苦悩」の監督を務めている。

早大生のための学生部公式Webマガジン『早稲田ウィークリー』。授業期間中の平日は毎日更新!活躍している早大生・卒業生の紹介やサークル・ワセメシ情報などを発信しています。

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