政治経済学部 4年 今井 翔一(いまい・しょういち)
大学生を対象に、ラジオ番組や映像作品などを募集し、各部門で日本一を決する大会「NHK全国大学放送コンテスト」(通称、Nコン)。第28回大会ラジオドラマ部門にて、FM waseda(公認サークル)に所属する今井翔一さんの作品『仮初めの面』が、頂点に立った。メッセージ性が強く、現代人への問題提起が高く評価された『仮初めの面』。監督・脚本を担当した今井さんに作品に込めた想いを語ってもらった。
ストーリーは、主人公と謎のお面屋との出会いから展開していく。なりたい人物になれるお面をもらった主人公は、ヒーローのお面をつけて次々と悪者を倒したり、イケメンタレントのお面をつけて女子にモテモテになったりと、不思議な体験をし、次第にお面を手放せなくなっていく…。今井さんが作品の原案を思いついたのは大学3年生の春。就職活動を始めたころのことだった。「面接では誰もが素顔を隠して良い子の仮面をかぶっています。それは就職活動に限ったことではなく日常生活でさえ、接する相手によって違う仮面をかぶります。素顔の方がずっと魅力的なのに、本音を語らずにいてよいものなのか、そんな疑問からこの作品は生まれました」
(写真左)コンテスト終了後、サークルの仲間たちと。後ろの石像を真似して、ハイポーズ
(写真右)編集の際にいつも使用しているミキサー卓

NHK全国放送コンテスト会場
就職活動中に抱いた疑問からストーリーをつむぎ出し、脚本を書き上げた今井さん。「音声のみで展開していくラジオドラマの難しいところは場面転換です。場面が変わるたびにナレーションで説明するのではなく、自然に場面が切り替わったことを知らせる工夫が必要です。分かりやすい例だと、学校のシーンに場面転換するときは、チャイムの効果音などを使用し、主人公が学校にいることを表現したりします。作品の時間は5分に限られているため、短い時間の中でメッセージを伝えるところも難しい点です。予選落ちした前回大会の反省を踏まえ、聴く人に分かりやすい演出を心がけました」
作品は無事に予選を通過し、本選へと進むことに。今井さんたち「FM waseda」のメンバーは京都の本選会場で固唾をのんで審査の行方を見守った。
お面を外した主人公は、周りの人に素顔の自分を忘れ去られていることに気付き恐怖を覚える—。素顔を隠しがちな現代人へ警鐘を鳴らすかのような結末を迎える作品は、「テーマやメッセージがしっかり伝わってくる」と審査員の評価を得た。「“素顔のあなたを隠したまま生きていると、周りの人も素顔のあなたを忘れてしまう”、そんなメッセージをしっかり受け止めてもらえて最高にうれしかったです」
4年生となり、本格的な就職活動を経験している今井さん。今も素顔の自分でいられていますか? 「面接でもなるべく本音を話したいと思っていましたが、正直難しいですね。目的を達成するには、本音だけでなく建前も必要だと今は思っています」
素顔を大切にしたいと願う今井さんが社会人を目前にした今、思うこととは? 「社会へ出るとますます素顔でいることが難しくなると思います。でも何年か後には、誰の前でも堂々と本音を語れる強い人間になっていたいですね。そのために素顔の自分をしっかりと心にとどめ、謙虚な気持ちで社会に飛び込んでいきたいと思います!」飾りのないキラキラした眼差しは、未来の自分を純粋に見据えているかのようだった。

コンテスト遠征の際に立ち寄った清水寺