スポーツ科学学術院 教授 村岡 功(むらおか・いさお)
早稲田大学教育学部卒業、順天堂大学大学院修士課程修了。博士(医学)。専門は運動生理学。著書に、『スポーツ生理学』、『高地トレーニングの実践ガイドライン』、『スポーツ指導者に必要な生理学と運動生理学の知識』(いずれも編著、市村出版)などがある。
健康の指針のひとつとして重要視される全身持久力。その評価指標である酸素摂取能力を測り、健康に生かす。
呼気分析装置は、呼気ガスに含まれる酸素(O2)と二酸化炭素(CO2)の濃度を分析し、同時に呼気量(換気量)を計測することで、体内で摂取されるO2の量を求める装置です。大気中に含まれるO2とCO2の濃度は、それぞれ20・93%と0・04%(残り79・03%は窒素で、他にごく微量のさまざまなガス成分が含まれています)で、口や鼻から吸い込んだ大気の中から、肺の肺胞と呼ばれる所でO2を血液中に取り込み、一方、代謝の結果生じたCO2を血液中から肺胞・呼気へと排出しています。その結果、大気に比べて呼気中のO2濃度は減少し、CO2濃度は上昇することになります。
このようにして、われわれは大気中のO2を用いてエネルギー(アデノシン三燐酸:ATP)を生み出し(有酸素的代謝といいます)ており、有酸素的代謝は生存するための基本的なエネルギー産生経路となっています。それゆえ、われわれは一生涯にわたってO2を摂取し続けなければなりません。安静状態でのO2摂取量は、1分間に約200〜250 mℓ、体重当たりで3・5〜4・0 mℓ/分程度を示します。また、1ℓのO2は約5kcalのエネルギーに相当することから、O2摂取量を測定することでエネルギー消費量を間接的に求めることもできます。

出典:『スポーツ生理学』市村出版P.36
O2の摂取は運動を持続する際に極めて重要であり、運動強度に伴って直線的に上昇するO2摂取量は、最大運動時には一般成人男性で約40〜45mℓ/kg/分なります(大O2摂取と呼びます)。このように、一般人では最大運動時には安静時の10数倍まで上昇しますが、世界的なマラソンランナー(最大O2摂取量は80mℓ/kg/を超えることが多い)では、安静時の20数倍に達し、一般人の約2倍のO2摂取能力を示します。
O2摂取能力は持久的な能力(全身持久力)を示す重要な指標であることから、特に持久系種目に関わるスポーツ選手の体力を知るために測定が行われます。また、全身持久力は健康関連体力としても重要視されており、運動不足や加齢に伴うこの減少は生活習慣病の発症と深く関わっていることが知られています。そのため、この呼気分析装置を使ったO2摂取量の測定は、スポーツ選手の体力測定だけではなく、一般人の健康づくりのためにも重要であるといえます。

最大酸素摂取量の測定風景。前方右側の中央にあるのが呼気分析装置。呼気ガスをマスク・蛇管を介して装置に取り込んで分析する。下肢にはペダルにかかる踏力などを測定するためにさまざまなコードが取り付けられている
(『新鐘』No.81掲載記事より)
※記事の内容、教員の職位などは取材当時のものです。