Waseda Weekly早稲田ウィークリー

特集

誰もが平等な学びの機会を得られるように 早稲田の合理的配慮を考える

皆さんは、「合理的配慮」という言葉を聞いたことはありますか? 2024年4月1日に施行された改正障害者差別解消法では、障がいのある人への不当な差別的取扱いを禁止し合理的配慮を提供することが、事業者に義務付けられています。大学にも、障がいがあることで授業などのさまざまな場面で困難が生じている学生からの申し出があった場合、大学のポリシーや授業の本質を変更しない範囲で、その障壁(バリア)を除去し、他の学生と同じように学ぶ機会を得られるよう環境を整える義務があるのです。

早稲田大学では、「早稲田大学障がい学生支援に関する基本方針基づき、合理的配慮を提供しています。 修学上の合理的配慮の円滑な実施に必要な調整およびリソースの提供を行う早稲田大学アクセシビリティ支援センター(以下、ARC)」では、どのような活動をしているのでしょうか。今回、ARCの支援ボランティア学生や支援を受けている学生(以下、利用学生)の声を通して、早稲田大学の合理的配慮への取り組みを知るとともに、自分にも何かできることはないか、一緒に考えてみましょう。

ARCは何をしているところ? ARC支援ボランティア学生と利用学生に聞いてみました!

(左から)松本さん、草間さん、川口さん、成田さん。戸山キャンパス 33号館にて

文化構想学部 3年 松本 真太朗(まつもと・しんたろう)
基幹理工学部 4年 草間 暁(くさま・あきら)
基幹理工学部 4年 川口 舞己(かわぐち・まいき)
文化構想学部 4年 成田 ゆかり(なりた・ゆかり)
――皆さんがそれぞれARCとどのように関わっているかを教えてください。

成田:大学1年生の時に学内の組織を紹介する授業でARCのことを知り、支援が必要な学生の授業をサポートできることに興味を持ち、支援ボランティア学生に応募しました。現在は、聴覚障害がある学生のために授業で先生が話したことをタイピングして書き出すPC通訳や、車椅子の学生のためにドアの開閉などをする移動支援、板書を写すのが難しい学生の代わりにノートをとる代筆支援などを行っています。

写真右は、大学院のゼミでPC通訳をする成田さん(中央)。授業内で聞こえる発話や音声情報をリアルタイムで打ち込み字幕にすることで、利用学生に情報保障を行っている。通常3~4人体制で連携して字幕を作り、利用学生は別のタブレットで確認できるそう

松本:私はASD(自閉スペクトラム症)と呼ばれる発達障がいを持っています。授業中に板書を写すのが難しいといった困難があるので、授業の内容が見返せるように、ARCにて内容を検討の上、各授業の先生方に対応していただいています。 また、支援を受けるだけでなく、自分も障がいを持つ人たちに何かできればという思いがあり、支援ボランティア学生として車椅子を使う利用学生への授業の移動支援を行うこともあります。

草間:私も松本さんと同じくASDで、人とのコミュニケーションが難しいことに加えて、ADHD(注意欠如・多動症)のため、周りの人と比べて活動に集中しにくかったり、ミスが多かったりします。発達障がいと診断された大学2年生の時にARCに相談して、それぞれの授業毎に配慮をしていただいています。

写真右は、ARC職員と面談をしている草間さん。ARCには「身体障がい部門」と「精神・発達障がい部門」があり、専門職の職員が障がいのある学生と定期的に面談を行っている

川口:私は聴覚障がいと発達障がいがあるので、ARCを通じて支援を受けています。聴覚に関しては、両耳に補聴器をつけていないと声を聞き取れず会話ができないレベルで、補聴器をつけていても、人混みや体育館のような音が反響する場所ではさらに聞き取りづらくなります。そのため、授業に関してはPC通訳をお願いしたり、資料動画に字幕を付けていただいたりしています。あと、グループワークでは一緒に参加する学生に、補聴器に声がつながるパスアラウンドマイクという機器を持って話してもらうのですが、そのマイクもARCから貸し出してもらっています。

――学内の合理的配慮への取り組みについて、どのように感じていますか?

川口:支援を必要としている学生と先生の間にARCがあるのは、学内の合理的配慮の提供を進めていく上で、とてもありがたいと思っています。私たち障がいのある学生が「こういう配慮が必要です」と先生に直接お願いしても、どこまでが支援として“合理的”なのか、あるいは学生全体にとって公平なのか、判断しにくいこともあると思うんです。そんなとき、ARCが客観的に支援の必要性を説明してくれることで、不自由なく大学で学ぶ環境を得られているんじゃないでしょうか。

川口さんが手にしているのはパスアラウンドマイク。川口さんが聞き取りやすいように話す人がこのマイクを持ち、今回のインタビューを行った。写真右は、川口さんがPC通訳を利用し、自身のPCに反映された文字情報を見ながら授業を受ける様子

草間:「支援してほしい」と私たちの立場から直接お願いするのは、なかなか難しいですよね。でも、困難を抱えているのに誰にも言わないで、一人で抱え込むのは良くないと思います。私自身、それで体調を崩してしまった時期がありましたし…。自分の障がいに向き合って、こんな障がいがあるから、こんな風に助けてもらえませんか? と周りに働きかけることが大切です。そんな声はまだまだあるはずなので、学内の合理的配慮についてもこれから改善できるところがあると感じています。

松本:2024年から法律により事業者の合理的配慮の提供が義務化されましたし、今後はもっとさまざまな場面で、障がいを持つ人に対する配慮が提供できるようになっていけばいいですね。例えば、学外者も対象としたイベントなどで、障がいを持つ来場者に対してもどんな配慮ができるのか、より深く検討していくことになるのではないでしょうか。

ARCの利用学生として、また支援ボランティア学生としても活動する松本さん。写真右は、自分で筆記することが困難な利用学生の代わりに、ノートをとる代筆支援をしている場面

成田:早大生以外への取り組みでいうと、2024年8月のオープンキャンパスでは、模擬授業に参加された障がいのある来場者の方々に、ARCが普段行っている支援を実際に提供しました。これから大学で学ぼうとしている人たちに、障がいを持っていても早稲田では安心して学べることを体験していただけたのは、とても良い機会になったと思います。

――早大生に意識してほしいことは何ですか?

成田:例えば、学内で支援を受けている学生を見たり、SNSで障がいについて知るコンテンツを見たりすることで、障がいのある人との接し方についてさまざまな視点が増えるのは良いことだと思います。でも、それだけで障がい者のことを理解したと思うのは良くないとも考えています。支援とはこういうものだと頭で考えるだけでなく、実際に困っている人が身近にいたら、何を必要としているのか直接聞いてみるのもいいのではないでしょうか。対話して初めて分かることもあると思うので。

松本:障がいの有無にかかわらず、できないことや苦手なことは誰にでもあるはずです。自分たちが抱えている困難を周りに共有することでお互いに気遣い配慮し合う環境を、私たち学生が積極的に築けるようになればいいなと思います。

草間:自分の体験から言えるのは、障がいを抱えている人には、誰でもいいからまず話を聞いてもらった方がいいということです。全力で学びたいと頑張っている学生を嫌う人は大学にはいないはずなので、授業や学生生活で困っていることがあったら友達や信頼できる人に相談してみてください。また、もし周りに障がいがあることで苦しんでいる人がいたら、そばにいてもらえるだけでもうれしいので、寄り添ってあげてほしいです。

川口:草間さんの言うように、困っていることを誰かに相談するというのは本当に大事なことですし、僕自身も心掛けていきたいと思っています。そして学生の皆さんには、障がいや特性を抱えた人たちへの支援をもっと身近なものに感じてほしいです。目が見えにくい人が眼鏡をかけるのと同じように、私のように耳が聞こえにくい人は補聴器をつけている。それくらい当たり前に、身近にいろんな特性を抱えた人がいるんだってことを知ってほしいです。

成田:もしかしたら、「障がい」「特性」「支援」って聞くと、支援する側とされる側は違う立場だと明確に分けられているように感じてしまうのではないでしょうか。ARCで開催される支援ボランティア学生と利用学生の交流会では、クイズなど誰でも参加できるゲームを通して、障がいがあるかないかなんて忘れるくらいみんな仲良くなるんですよね(笑)。そうしたコミュニティーの広がりもあるので、支援活動への参加に興味を持ってもらえたらうれしいです。

川口:たしかにARCって、学生生活をサポートしてくれる以外にも、楽しい所だと私も思います。早稲田キャンパス3号館にある身体障がい部門の窓口では、お菓子を食べながら職員の方や学生とおしゃべりもできますし(笑)。居心地がいい場所なので、支援を必要としている人や支援ボランティアに興味がある人は、一度ARCに足を運んでみてください。

 

取材・文:吉田 けい
撮影:小野 奈那子

合理的配慮申請に関する詳細は、以下から確認ください。
【アクセシビリティ支援センターWebサイト】https://www.waseda.jp/inst/dsso/

【次回フォーカス予告】11月18日(月)公開「ラグビー特集」

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