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核問題をテーマにドキュメンタリーを制作 世界を舞台に核廃絶に取り組む

「ドキュメンタリーを通して、人々の心に届く情報発信をしたい」

社会科学部 2024年9月卒業 古賀 野々華(こが・ののか)

早稲田キャンパス 6号館にて

2024年7月14日の「上映会・被爆証言〖-世代・国境をまたぐ被爆証言とは-〗」 にて上映した、核問題についてのショートドキュメンタリー『あのプラタナスの木のように』の監督・古賀野々華さん。他にも、監督を務めた同テーマの映像作品 『She became a poet』が「国際平和映画祭(UFPFF)2024」 でファイナリストに選ばれるなど、核問題について世界中の人々に向けて発信しています。そんな古賀さんに、核問題をテーマとしたドキュメンタリーを撮影するようになったきっかけや自身の作品への思い、今後の展望などについて聞きました。

――古賀さんが核問題に興味を持ったきっかけは何ですか?

高校3年生の時の米国留学で、留学先が偶然にも長崎に落とされた原子爆弾(以下、原爆)を作っていた町だったことがきっかけです。日本では原爆投下はあってはならないという考えですが、リッチランドでは原爆が戦争を終わらせたという主張もあり、原爆投下に対する日本の見方と真逆だったんです。「自分の祖父が原爆開発に尽力したおかげで町が栄えた」と言う人もいて、国が違うと、こんなにも見方が違うのだということをじかに感じたことから、核問題について考えるようになりました。

高校3年生の時、米国・ワシントン州リッチランドに留学した際、学校の友人と撮った写真。リッチランドは原爆を作った町で、留学先の高校の校章はきのこ雲だった

――では、ドキュメンタリーを撮影しようと考えた理由は何でしょうか?

元々メディアに興味があり、ジャーナリストになりたいと考えていました。執筆と映像のどちらにしようか迷ったのですが、映画監督の是枝裕和さん(1987年第一文学部卒・理工学術院教授)の作品が好きだったので、ドキュメンタリーに挑戦しようと思いました。

核問題をテーマにしようと思ったのは、高校3年生の時の留学先での経験もありますが、2022年2月のロシアによるウクライナ侵攻の影響も大きかったです。当時、私はテレビ局でアルバイトをしていたのですが、戦争はこんなにもあっけなく始まるものなのかとショックを受けるとともに、何もできない自分に憤りを感じました。でも、そのテレビ局でウクライナ問題を必死に報道している記者の方々の姿を見て、私も何かアクションできたらと強く思い、核問題をテーマにしたドキュメンタリーを作り始めました。

――ドキュメンタリーを撮影する中で、自身の成長につながった点や苦労した点はありますか?

映像の編集を専門に勉強していなかったので、大学ではドキュメンタリーを視聴して内容や映像、報道姿勢について学ぶ授業「ジャーナリズム演習ベーシック」(2021年度GEC設置科目)を受講したり、他大学でドキュメンタリー制作の実践ができるゼミに参加しました。他にも、映画サークルで映画を作っている友人にアドバイスをもらいながら、独学で制作してきました。

シナリオがある劇映画とは違い、 ドキュメンタリーは予め自分で構成を考えていても、いざ現地に行き取材対象者に話を聞くと、「自分が想像していたことは単なる偏見でしかなかった」という気付きから内容が変わることもあるので、その都度構成を練り直すというのが難しかったです。でも、取材対象者がいてこそのドキュメンタリーなので、一人で作るというより、出演していただく方たちと信頼関係を築き共同作業をしているような感覚になるところが、とても勉強になりますし、楽しいです。

――監督を務めた『あのプラタナスの木のように』と『She became a poet』はどのような作品ですか?

『あのプラタナスの木のように』の主人公は、6歳の時に広島市の天満小学校で被ばくした後東利治さんです。これまで被ばくの話を口にしてこなかった後東さんが被ばく証言を始めようと思ったきっかけや、証言に至るまでの過程に密着したショートドキュメンタリーになっています。

2024年7月に広島のカフェ「樹と鯉」で行われた上映会では、主人公である後東さんをスペシャルゲストに迎えた。英語字幕を付けたことで、広島大学の留学生も見に来てくれたそう

『She became a poet』は詩人で被ばく者でもある橋爪文さんの証言映像で、橋爪さんが経験した原爆被害や原爆によって負った心の傷、言葉では言い表すことができない原爆の恐ろしさ、長くは生きられないと言われる中で詩を詠み始めた経緯について語ってもらいました。

また、この作品は、平和や SDGs をテーマにしたショートフィルムの祭典「国際平和映画祭(UFPFF)2024」(以下、「UFPFF2024」)のファイナリストに選出されました。まさか選ばれると思わなかったので率直にうれしかったですし、核問題について、日本だけではなく世界の関心が高まっているように感じました。

核兵器を保持していない日本国内で発信、活動しているだけでは核廃絶は叶えられません。核兵器を持つ国やそこに住む人々にこそ、核兵器について考えてもらうメッセージを発信していかなくてはいけないと思っています。

写真左:『She became a poet』の主人公、橋爪文さん。英語字幕を付けた被ばく者の証言映像で、原爆がいかに恐ろしい兵器であるかを米国の生徒たちに学んでほしいという思いで制作した。今後は、留学先でお世話になった高校の授業で使ってもらいたいそう
写真右:「UFPFF2024」の参加者全員での記念撮影。古賀さんは前列右から4番目

――社会科学部を選んだ理由と、どのような勉強をしてきたかを教えてください。

進学前から大学では、養子縁組や里親制度などについて勉強したいと思っていて、大学2年生の時に福祉社会研究ゼミに入りました。でも、ロシアのウクライナ侵攻が起きたことで核兵器が使用される危機感を感じ、再び核問題について興味を持つようになりました。これまで原爆投下は過去に起きた負の歴史としてしか捉えていなかったのですが、ロシアのウクライナ侵攻で現実味を帯び、核と人類の距離は1945年から何も変わっていないことに気付かされたんです。

ゼミの指導教員である寺尾範野准教授(社会科学総合学術院)には、被ばく者補償や米国の歴史調査の仕方などについて指導していただきました。卒論は米国の核被害について執筆し、ドキュメンタリー制作のために行った米国の被ばく者へのインタビューが役に立ちました。

写真左:鴨川セミナーハウスでのゼミ合宿では、一人ずつ卒論で取り組みたいテーマの発表を行い、教授や他の学生からフィードバックをもらった
写真右:米国・ワシントン州リッチランドにて、冷戦中のハンフォードでの核開発中に、故意に大気中に放出された放射能によって被ばくした故トムベイリーに取材した際の写真。後にこの取材は卒論執筆にも活用した

――今後の展望を教えてください。

「UFPFF2024」で同じくファイナリストに選ばれたイスラエル出身の学生から、今イスラエルとパレスチナで起きていることについての体験を聞く機会がありました。その時に、テレビや新聞でよく見る戦争のニュースって、例えば死亡人数などの被害状況を形式的に伝えがちであまり人の心に届いていないんじゃないかと感じたんです。実際にその戦禍にいる彼女の話を聞いて、自分の感情が揺さぶられるような体験ができたので、情報をただ発信するだけのジャーナリストではなく、大きな主語に黙殺される小さな声を拾いながら、ドキュメンタリーや物語を通して人の心に訴えるような仕事をしたいと思うようになりました。

そして、2024年10月11日に日本原水爆被害者団体協議会がノーベル平和賞を受賞したことは、大きな希望になりました。被ばく者の高齢化が進む中、この受賞を無駄にしないように、被ばく者から受け取ったバトンをどのような形で世界に広げられるか考え、行動に移していきたいです。

今後は、被ばく者は日本だけでなく世界中にいることを伝えるために、海外の被ばく者のドキュメンタリーを作り、グローバルヒバクシャという概念を広めようと思っています。チェルノブイリの原発事故やスリーマイル島での被ばく者などを取り上げることで、核問題を世界全体の問題として共有できるようにしたいです。

第883回

取材・文・撮影:早稲田ウィークリーレポーター(SJC学生スタッフ
人間科学部 2年 西村 凜花

【プロフィール】

福岡県出身。明光学園高等学校卒業。自然とコーヒーが好きで、趣味はアウトドアやカフェ巡り。最近はあんこの美味しさに気付きあんみつにハマっていて、和菓子屋さんによく足を運ぶそう。

早大生のための学生部公式Webマガジン『早稲田ウィークリー』。授業期間中の平日は毎日更新!活躍している早大生・卒業生の紹介やサークル・ワセメシ情報などを発信しています。

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