Organization for Regional and Inter-regional Studies早稲田大学 地域・地域間研究機構

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ORIS研究者紹介 シリーズ第1回 吉野 孝機構長

地域・地域間研究機構で活躍する研究者を紹介する研究者インタビュー。
シリーズの第1回目は、吉野 孝機構長(政治経済学術院教授)です。

研究者になりたいと思ったのはいつ頃からですか。なぜ、そのように思ったのか、
きっかけ等も教えて下さい。

政治学を面白いと感じたのは、学部の4年生の春ごろです。私は早稲田大学の政治経済学部のゼミで、フランスの政治思想家アレクシス・ド・トクヴィルについて勉強しました。彼の著書の日本語訳がひどかったため、神保町の北沢書店で初めて700頁以上の分厚い英訳原書を購入しました。それを読む過程で、アメリカ政治研究の面白さを知りました。大学院に進んだあと,助手採用試験に受けて,そのまま政治経済学部に残りました。

研究の楽しさや面白さを教えて下さい。

今はインターネットで調べると、大抵のことはある程度分かります。しかし、かつてとくに外国のことはその国に行かなければ分からないことが多かったものです。大学院でアメリカ政党を研究テーマに決め、助手のときに,ウィスコンシン州立大学(マディソン)の政治学大学院に2年間(1984~1986年)留学しました。アメリカの政党政治を研究する過程で、州予備選挙に関する法規を詳細に調べました。アメリカの政党政治を理解するためには、民主・共和2大政党に特権的地位を与えている州予備選挙の仕組みを知る必要があったものの、日本では、それに関する資料や50州の州法規定を詳細に調べることは不可能でした。そこで、大学や州の図書館で資料や文献を調べると、日本にいたときには謎に包まれていた部分が「そういうことだったのか」と理解することができました。この瞬間がとても嬉しかったという記憶があります。当時、早稲田大学の大学院の指導教授から「そんな小さなことをやって何が面白いの」と言われたこともありましたが、若くまた時間がある場合には、分からないことを徹底的に調べ、疑問を解明するという作業は重要です。ある疑問を解明することは楽しいことであり、それが次の疑問の解明に繫がります。

研究をしていて感動した事や印象に残った出来事を教えて下さい。

 

世界の研究者から得た知識が詰まった著書の数々

2度目にアメリカに留学したとき、2年間(1991~1993年)、ジョンズ・ホプキンズ大学高等国際問題研究大学院(SAIS)に客員研究員として滞在しました。1992年は大統領選挙の年であり、入場許可証を入手して民主・共和両党の全国党大会の会場に入り、指名演説を聞き、多くのイベントを見学しました。そして、4年に一度の全国党大会が、3色の風船が上から落ちてくる政党支持者のお祭りであることを実感しました。続いて、メリーランド州の7名の連邦下院議員の首席補佐官のインタビューを行いました。民主党議員の補佐官の対応は親切であり、共和党議員の補佐官の対応は事務的であったという記憶があります。
研究を続けると、同じ用語で呼ばれる組織も、国ごとに研究者は異なるイメージをもつということが分かりました。たとえば、アメリカ政党の研究者は、政党を州予備選挙法で規定され、党員概念が曖昧な、非実体的機構と捉えます。ドイツ政党の研究者は、政党を政党法に規定され、党員概念が明確な、実体的組織と考えます。また、政治のイメージも国ごとに異なります。私が会ったメキシコ人研究者の「日本人とアメリカ人は働きすぎ」という発言は印象的でした。彼によると、メキシコやラテンアメリカ諸国の政治文化には「楽しみ(joy)」が含まれています。このような差異の発見は非常に面白いものです。

これから一番力を入れて取り組みたい研究分野は?

アメリカ政治に関していえば、これから取り組みたいのは、①バイデン政権がどのような政策刷新を行い、どの程度にまでアメリカ政治の分極化を緩和することができるのか、②共和党はどの程度にまで脱トランプに成功するのか、という問題です。アメリカ政治をコントロールするのは、結局、2大政党なので、それらがアメリカの国民全体のためにどのような新しい意味ある対立争点をつくりだすのかは重要な問題です。
地域・地域間研究機構に固有の関心からいうと、これから取り組まなければならないのは、アメリカ、西欧、アジアといった地域がどのようなルールのもとで共存できるかという問題です。欧米諸国への移民の流入とそれに反対するナショナリズムの台頭、米中の覇権競争の深刻化、リベラルデモクラシーの魅力の低下などの要因により、地域間の軋轢が深まっています。政治と経済以外に地域を遠ざけたり近づけたりする要素として、ジェンダーがあるでしょう。女性がそれぞれの国で地位向上を目指す運動を起こせば、地域にかかわりなく、世界は同じ方向に向かう可能性があります。また、技術も重要です。現在、世界に広がっている新型コロナウイルス感染に対抗するより効果的なワクチンが開発され、それが新興国にも提供されるなら、政治や経済によって引き起こされた地域間の軋轢が緩和される可能性が出てきます。この意味でジェンダーや技術がどのように地域間の軋轢を緩和するのかを研究することは、きわめて面白い試みであると思われます。

最後に、未来の研究者にメッセージをお願いします。

領域や世代により研究者の理想像は異なるものの、若い研究者は最先端の研究をやってもらいたいと思います。現在、社会科学の方法は日々新しくなっており、政治学、とくに政治分析の領域では計量的手法の応用が主流になりつつあります。若い研究者の頭脳は柔軟なので、新しいことにチャレンジしてください。たとえば、数学には,40歳以下の研究者に与えられるフィールズ賞—数学のノーベル賞と言われる—というものあります。受賞者に年齢制限が設けられているのは、若い頭脳は発展途上であり学問的刷新が期待されると考えられているからです。最近、ビッグデータを処理するデータサイエンスが盛んです。ビックデータを処理するには、集中力と気力という意味での若さが必要です。
しかし、ある年齢を超えたら、研究の視野を広げるのもいいと思います。例えば、専門分化した学問領域を統合するためにはどうしたらいいのか、この分野を別の視点から見るとどになるか、といった発想です。私は学部で現代政治分析という授業を担当していますが、10年ほど前から、最後のまとめで、政治分析と政治思想をどのように統合するべきかという話をしています。また、50歳を過ぎた頃から、妙に歴史が面白く感じられるようになり、かつてはその意義を理解することができなかった政治史研究に目を開かされるときもあります。アメリカ、西欧、アジアといった地域がどのようなルールのもとで共存できるかという発想も、基本的には同じです。若いときは先端的研究を行い、年齢と経験を積んだあとは統合に目を向けるのが、研究者の1つの世代間役割分担でしょう。

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吉野 孝  1954年長野県生まれ。日本の政治学者。専門は政党論、アメリカ政治、英米政治学。

1978年、早稲田大学政治経済学部卒業。1988年、同大学院政治研究科博士課程退学。1988年、早稲田大学政治経済学部講師、1990年、早稲田大学政治経済学部助教授。フルブライト・プログラムにて、ウィスコンシン大学(マディソン)留学。1995年、早稲田大学政治経済学部教授。2004年、早稲田大学政治経済学術院教授。早稲田大学総合政策科学研究所研究員、早稲田大学日米研究機構長、新宿区議会議員政治倫理審査会会長。元ジョンズ・ホプキンズ大学高等国際問題研究大学院(SAIS)客員研究員。

著書に『現代の政党と選挙』、『危機のアメリカ「選挙デモクラシー」』、『政治を学ぶための基礎知識 論点 日本の政治』などがある。

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