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【2018年1月27日 第3回ORIS若手シンポジウム報告】 民衆の世界史/移行期正義の政治学

  • 日 時
    2018年1月27日(土)/ 13:00~17:30
  • 会 場
    早稲田キャンパス3号館203教室
  • 言語
    英語(同時通訳無)

講演内容

学術的労働の分業化が急増する今日、方法論が異なる歴史学と政治学が対話を持つことはまれである。当シンポジウムはこの溝を埋めるべく二つの研究パネル(「新しい社会史」の伝統に基づくパネルと統計調査法を駆使する政治学のパネル)を企画し世界の民衆史及び移行正義のテーマをめぐって発表・議論を行った。

パネル1
  • 講演者
    ・Titas Chakraborty(University of Texas at Austin)
    ・Jesse Olsavsky(University of Pittsburgh)

最初のパネルは二つの対照的な発表によって構成された。Titas Chakraborty(テキサス大学オースティン校)は大英帝国時代のベンガル運送業者に焦点を絞る実証的に緻密な労働史を発表した。前資本主義経済から植民地支配下の資本主義的発達への移行において労働者階級の主体性が担った中心的役割を証明し、賃労働のカテゴリーは労働者がじっさいに闘争した状況の特殊性に沿って問題化されるべきことをChakrabortyは明らかにした。
Jesse Olsavsky (ピッツパーグ大学)は19世紀アメリカの奴隷制廃止運動の思想的概観を示し、とりわけその反帝国主義的国際連帯の言説に着目した。奴隷制廃止運動の先駆性はその反レイシズムの政治だけではなく、富の蓄積と経済開発のために奴隷制を不可欠なものにした帝国主義制度をラディカルに批判したことに由来するとOlsavskyは主張した。ミクロ社会的観点そしてマクロ思想的観点からそれぞれ行われた二つの発表は「民衆史」をグローバルに発展する異なった可能性を示唆し、そのうえで資本主義や帝国主義を歴史的限界のある生産様式・権力構造として根源的に問い直す必要性を強調した。

パネル2
  • 講演者
    ・Elsa M. Voytas(PhD student, Princeton University)
  • 討論者
    ・Barry Hashimoto(Assistant Professor, American University of Sharjah)
    ・豊田紳(日本学術振興会 特別研究員PD)

パネル2では移行期正義をテーマに、プリンストン大学から招聘したElsa Voytas氏による研究報告が行われた。Voytas氏は、チリ・サンティアゴ市の移行期正義博物館を舞台にフィールド実験を行い、博物館における展示が訪問者の和解的思考をどのように促進するかを検証した。Voytas氏は、博物館への訪問者が展示を見ることによって、軍事独裁による政治システムを拒絶し、また独裁後の被害者補償政策などの移行期正義の取り組みをより評価するようになるという2つの仮説を構築した。フィールド実験を基に分析を行った結果、仮説が支持されたと同時に、博物館による影響が一定期間後も持続しうることが分かった。
討論者のBarry Hashimoto氏は、研究のフレーミングから分析手法の詳細に至るまで、さまざまな重要な指摘を行った。また、豊田紳氏は、チリ以外の事例として、靖国神社に併設されている遊就館を取り上げることを提案した。Voytas氏も、自身の研究の外的妥当性を問題として挙げていたため、豊田氏の提案に非常に関心を示していた。
移行期正義というテーマは、これまで主に歴史的・規範的な側面から議論がなされてきた一方で、科学的・実証的なアプローチで語られることは少なかった。その点で、今回のVoytas氏による発表は、討論者、参加者いずれにとっても斬新であり、多様な視点からの実りある議論へとつながった。

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