- 日 時
2017年7月10日（月）/ 16:30～18:00 - 会 場
早稲田キャンパス3号館10階第一会議室 - 講演者
Dr. John-Paul Salter（Visiting Lecturer in Public Policy, King’s College London） - 司 会
中村英俊（早稲田大学政治経済学術院教授、地域・地域間研究機構欧州研究ユニット長、イギリス政治外交研究所長） - 言 語
英語
講演内容
日・EUフレンドシップウィークシンポジウムは、2001年以降毎年、現代政治経済研究所が主催している。今年度は、ロンドン・キングズカレッジを拠点とする大型研究プロジェクト（The UK in a Changing Europe）において研究を行っている若手研究者のサルテール博士を招聘した。7月6日に主催された第1部「イギリスとEUの新たな関係：2017年6月8日総選挙後の離脱交渉」では、2017年6月8日総選挙の分析、選挙後の離脱交渉の行方などBrexit全般に関して講演をしていただいた。第2部では規制政治(Regulatory Politics)を専門とし、シティーの銀行での職務経験もある同氏にEU離脱後の金融規制制度について、より専門的な講演をしていただいた。
「EU離脱後のイギリスにおけるガヴァナンスと政治：金融規制に関するイギリスモデルの行方」と題したサルテール博士の本講演では、まずイギリスの金融市場に関する背景を説明した後に、EUにおける金融規制・パスポーティング制度・同等性評価制度についてそれぞれ焦点を当てて分析がなされた。そしてそれらを合わせた上で起こりうる結果について述べられた。イギリスの金融に関する背景としては、シティー・オブ・ロンドンのイギリス経済における重要性について、その雇用人数の多さ、イギリスGDPへの貢献度、英国最大の納税セクターであることに触れ、説明がなされた。さらにEUにおいても、ユーロ建てOTC取引の多さ、英国にある銀行のユーロ建て資産の多さからシティが重要であることが説明された。
EUにおける金融に規制に関しては、まず、現在のEUの立法機構は一連の規制から指令を担い、規制基準を明らかにする存在であることに触れられた。そして規制をめぐる協力は制度化されており、規制的な同質性は「金融サービスパスポート」に集結されている。このパスポーティングとはあるEU加盟国の企業がEUの他の加盟国でもいかなる事務手続きを踏むことなく運営できる制度である。Brexitにより、パスポーティングが失われ、大陸で運営されている英国企業の支店は「第三国」の企業となることから企業が英国から出ていくことが予想される。しかし、同時に、中途半端な企業の移転を是としないEUのレギュレーター（EUの諸規制の担当者）やシティに匹敵する都市がないことから、企業がイギリスに留まる可能性もある。パスポーティング制度の代替オプションとして考えられるのが「同等性評価制度」である。この制度があればEUおよびグローバル企業はロンドンで今まで通りの運営が可能となると考えられる。しかし、この前例のない制度はとても複雑で不確実であり、なによりも不完全であるため、この制度が有効な選択肢ではない可能性がある。結論としては、「パスポーティングなしの暗い将来」から、「同等性評価プラスαの制度の適用によるマシな将来」までの幅広い可能性が考えられる、と述べられた。
講演後、参加者からイギリス政府の見解、フランスやドイツなどの反応、シンポジウム当日に大枠合意がなされた日EU経済連携協定の影響などといった様々な論点について質問や意見が多く出た。その中で、サルテール博士は、将来、イギリスがEUに働きかけ、完全な同等性評価制度の完成を促し、「同等性評価プラスαの制度」が適用される可能性が最も高いとの見解を述べた。本シンポジウムでは第1部よりも金融規制に焦点が当てられ、より深い議論がなされた。
