研究科長挨拶

アジア太平洋研究科長・教授 浦田 秀次郎

urata_shujiro世界で重要性を増すアジア太平洋地域
–更なる発展に不可欠な高度人材の育成–

アジア太平洋地域は、第二次大戦後、半世紀以上に亘って高成長を遂げてきており、世界の成長センターとして、世界経済をけん引してきました。その結果、世界経済に占めるアジア太平洋地域の割合は50%以上と極めて大きくなっています。経済成長を決定する主要な要因である人口動態を考慮した予測によりますと、少なくても21世紀末までは、アジア太平洋地域は世界経済の中心的位置に留まる可能性は極めて高いと思われます。このことは、アジア太平洋地域は経済だけではなく、政治や社会の面においても世界に大きな影響を与える可能性が高いことを意味します。

高成長を長期間に亘って持続してきたことから、アジア太平洋地域の人々の所得も大きく上昇してきました。所得の上昇は、人々の生活を物質面で豊かにしたことは間違いないと思われますが、貧困問題、所得格差、ジェンダー格差、環境問題、領土問題、安全保障問題など人々の生活に深刻な影響を与える多くの問題が解決されていません。これらの問題の背景には、経済、政治、社会、文化、歴史など、様々な要素が絡み合っています。また、国内問題と思われる場合においても、ヒト、モノ、カネ、情報などが国境を活発に移動するようになったグローバル化された現在では、国際問題となっています。

早稲田大学大学院アジア太平洋研究科(GSAPS)では、上述したような問題について強い関心を持つ学生に対して、問題解決能力を養成するための教育を提供しています。19世紀から20世紀にかけて多くの優れた業績を残したイギリスの有名な経済学者であるアルフレッド・マーシャルの言葉に「経済学者は冷静な頭脳と暖かい心を持たなければならない」というものがありますが、この言葉の内容は経済学者だけではなく、全ての研究者に当てはまるのではないかと思います。私自身、アジア太平洋研究科での教育を通じて、優れた分析能力を持つだけではなく、人々に対する思いやりの心を持つ人材を育成することに努めています。

我々の直面する多くの問題は、上述したように、様々な分野の要素が絡み合っています。したがって、問題の分析および解決にあたっては、一つの学問分野だけではなく、学際的なアプローチが必要になります。学際的アプローチの重要性は改めて強調するまでもありませんが、学生の皆さんには、経済、政治、社会などの学問分野の中で自分の得意とする、競争力のある専門分野を確立してもらいたいと思います。また、同じ問題でも、国や地域などによって、捉え方や解決方法などが異なる場合が多いことから、多様性を認識するだけではなく受容することは重要であると思います。

GSAPSにおいて育成される望ましい人材像について私見を述べてきましたが、GSAPSでは、そのような目的を実現するにあたって、以下に記すような特徴を持つプログラムを実施しています。

第一に、日本語と英語によるバイリンガルな学習環境を実現しています。ほとんどすべての講義科目は日本語と英語の両方で提供されています。日本語のみ、または英語のみで学位所得は可能ですが、日本語と英語の双方を用いて学習することが奨励されています。

第二に、世界50カ国以上から優秀な人材が集まり、修士課程に300人弱、博士後期課程に150人弱の大学院生が在籍しており、400人以上からなる国際色豊かな知的コミュニティを形成しています。そのうち日本人は約20%、留学生は約80%(北東アジア、東南アジア、中央アジア、北アメリカ、ヨーロッパ、アフリカなど)となっており、日本にいながら多文化体験ができます。また、日本政府の支援による文部科学省国費留学生のほか、人材育成支援無償(JDS)奨学生、アフガニスタン「未来への懸け橋・中核人材育成プロジェクト(PEACE)」奨学生、「アフリカの若者のための産業人材育成イニシアティブ(ABE)」奨学生、国際協力機構(JICA)長期研修生、世界銀行奨学生などの留学生とともに学ぶことになります。日本人についても、国際協力特別推薦入試を通して、国際機関・大使館・国際NGO・青年海外協力隊などで実務経験をもつ大学院生が在籍しています。

第三に、充実した講義科目を用意しています。アジア太平洋地域の国々や領域における歴史や現状などを把握するための「地域研究」、国家間の国際関係や、NGOや民間企業などの非国家的行為主体の間の国境を越えた関係を分析する「国際関係」、アジア太平洋地域および地球規模の課題を解決するための「国際協力・政策研究」という三つの領域において多様な講義科目および演習を履修することができます。また、研究を実践へと繋げるための実践的な講座を設けており、国際協力・外交・ジャーナリズムなどの実務経験者が講義します。さらに、インターンシップによる単位取得も可能です。

第四に、学位取得を目指す大学院生は、研究テーマの近い研究指導教員を持つことになります。研究指導教員は、大学院レベルでの教育に重点を置いており、研究指導する大学院生全員を集めて、演習を開催します。

第五に、在学中に数ヶ月間、海外で学習・研究・調査することを奨励しています。在学中の1学期間、英語で教育を行う海外の名門大学院に留学することができます。また、東南アジアに関連した調査に対しては、原口記念アジア研究基金によるフィールド・リサーチ補助金制度による支援があります。

第六に、東アジア共同大学院(East Asian University Institute: EAUI)の構想を東アジアの提携大学院4校と一緒に進めています。アジア太平洋地域および地球規模の課題を解決するために必要とされる国際協力および地域協力を進める高度人材は、早稲田大学だけで育成するには限界があります。そこで、従来の交換留学プログラムを進化させて、東アジア5カ国の大学院が共同で教育・研究を行うための新しい枠組みを構築しています。まず、アジア地域協力および地域統合に関わる講義科目を十分に提供できるよう相互補完的に整備してきました。そして、二校間の交換留学を奨励することに加えて、5カ国の大学院生が一緒に学べる多校間サマースクールやウィンタースクールを新しく立ち上げました。

最後に、GSAPSの修了生は、どのように社会で評価され、どのような道に進んでいるのでしょうか。GSAPSは、国際関係大学院連合(Association of Professional Schools of International Affairs: APSIA)による評価を受けたのち、準加盟大学院となっています。その点で、GSAPSの大学院プログラムは国際的に高く評価されており、その修了生も国際的に認められていると言えます。実際、大学や研究所での研究職、民間企業、ジャーナリズムのほか、国際連合、東南アジア諸国連合(ASEAN)、欧州連合などでの国際公務員、世界各国の国家公務員や地方公務員、公益団体職員(JICA、日本貿易振興機構、国際交流基金など)、NGO職員(赤十字国際委員会、日本ユニセフ協会、セーブ・ザ・チルドレンなど)として職を得た修了生がいます。

皆さんが、GSAPSでの学習・研究を通じて分析能力を養い、アジア太平洋地域および地球規模での課題の解決に向けて貢献できる高度人材となることを期待しています。