本研究部門は、現代社会におけるさまざまな境界を、その流動性や変化に着目しながら領域横断的に分析・考察していく研究プロジェクトである。
現代社会を特徴づけるキーワードのひとつに多様性(ダイバーシティ)が挙げられる。人種、エスニシティ、国籍、性別、性的指向、障害の有無、経済的格差など、人々のあいだに存在するさまざまな差異を考慮しながら制度や規範を構想していくことの社会的意義は、これまで以上に認識されるようになりつつある。
同時に、排除というキーワードを挙げることもできるだろう。世界各国で見られる移民排斥の運動、排外主義的なナショナリズムの高揚、フェミニズムやセクシュアルマイノリティの社会運動に対するバックラッシュは、人々の差異を序列化するものであり、公正性や平等といった現代社会の基本的な価値観を切り崩しているようにも思える。
人々のあいだの差異をめぐるこのような諸問題に対するアプローチとして重要になってきているのが、差異の間に引かれる境界線の自明性を疑い、その成り立ちや変容可能性を模索するものである。障害の有無を身体的特徴に還元せず社会構造と連関させていく障害学の社会モデル、多様なセクシュアルマイノリティのあり方を出発点に、性をめぐる諸アイデンティティの流動性に着目するクィア・スタディーズ、宗主国と(旧)植民地の文化的な混淆に着目するポストコロニアル研究など、明確で強固な境界、という前提そのものを疑う研究は、それぞれの対象に応じてさまざまな研究領域において生成・発展している。
しかしながら、これらのさまざまな研究領域は、まさに研究領域間の境界の強固さによって、互いに創発的な影響を与えるほどにまでは交流が進んでいないことも事実である。そこで本研究部門は、早稲田大学文学学術院の研究者をつなぎ、境界についてのさまざまな研究間の相互参照を可能にするネットワークとして自らを規定することによって、境界を越える知を学問分野の境界を越えることでさらに深化させる、という営みをおこなっていく。
具体的には、定期的な研究会開催などによって、部門構成員間の研究交流を進め、境界へのアプローチの方法と発想をそれぞれの構成員が発展させていく機会を提供する。その上で、より具体的な共同研究、あるいはシンポジウム開催などのアウトリーチ活動によって、個々の構成員だけでなく本研究部門それ自体を、諸境界の横断と再構想に関する早稲田大学の拠点とすることを目指す。
なお、上記の活動の性質に鑑み、本研究部門は社会学、歴史学、人類学、教育学、心理学、国際関係論、文学、哲学など、可能な限り多くの学問領域の専門家から構成することが望ましいと考えている。
研究報告
2022年度の活動
- 公開研究会 シリーズ「戦後優生政策の国際比較」第3回(2022年4月22日) 開催報告書
2021年度の活動
2020年度の活動
- 講演会「Building a Queer Feminist Life: Research and Community across Borders」(2020年6月19日)
2019年度の活動
- 公開読書会 「Robert McRuer, Crip Theory: Cultural Signs of Queerness and Disability (NYU Press, 2006) Introduction」(2020年1月7日)
- 公開研究会「クィア理論と障害理論」(2019年10月8日)
2018年度の活動
- 定例研究会(2019年3月25日)
- 定例研究会(2019年2月19日)
- 講演会「Telling Life Stories : Gender and Empowerment in Contemporary Women’s Photography」(2018年11月15日)
- 公開研究会企画 「「強制不妊手術」と優生政策について考える」 (2018年10月13日)
- 部門発足記念イベント「文キャン教員、ワールドカップを語る!?」(2018年6月9日) 開催報告書