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イベントレポート

早稲田大学演劇博物館 イベントレポート

ハンター・ハートビートメソッド・ワークショップ


シェイクスピア劇を用いて自閉症の若者たちとの演劇活動を学ぶ

日時:2019年8月7日(水)- 9日(金)各日10:00 - 17:00
会場:早稲田大学構内
講師:ケリー・ハンター(フルート・シアター芸術監督)、キム・アビラ・コンデ(フルート・シアター団員)
通訳:山田カイル(抗原劇場 / 若葉町ウォーフ)
対象:俳優、教師、社会福祉士など
主催:早稲田大学演劇博物館、新宿から発信する「国際演劇都市TOKYO」プロジェクト実行委員会
助成:bunkacho_logo平成31年度 文化庁 地域の博物館を中核としたクラスター形成事業

イベントレポート

 
2019年8月7日~9日の3日間、早稲田大学演劇博物館の主催で「ハンター・ハートビートメソッド・ワークショップ」を開催しました。ワークショップの講師にはイギリスの劇団「フルート・シアター」の芸術監督のケリー・ハンター氏とその劇団員のキム・アビラ氏をお迎えし、日本の俳優、教師、社会福祉士を対象に、自閉症の若者のためのシェイクスピア劇の創作方法「ハンター・ハートビートメソッド」を指導しました。

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初日の講義の様子

初めにハンター氏は、写真や映像を交えながら、講義形式で「ハンター・ハートビートメソッド」の概要説明を行いました。ワークショップが行われる空間の中央には円が描かれていて、俳優や若者たちはその円の上に座り、原則自閉症の若者1人につき俳優1人が担当しました。彼女によると、ハンター・ハートビートメソッドは「一連の感覚ゲーム」で構成されていて、誰もが簡単に遊ぶことができ、「ゲーム」であることが重要との事。それは、ゲームは短く繰り返しがあり、それゆえに自閉症の若者が反復の中で簡単にその遊び方を習得できるからだと言います。
シェイクスピア劇は英語で書かれていますが、彼女はシェイクスピア劇を「脱構築」する―― つまり、物語全編を最初から最後まで丁寧に上演するのではなく、その一部をゲームという形で抽出することで、自閉症の若者をはじめとする非英語話者がゲームに参加できるよう工夫されています。これについて、シェイクスピア劇の台詞一行を理解することができれば、その劇の全体を理解することができると力説されました。つまり自閉症の若者は、身体を使用してその物語の一部を経験することを通して物語全体に触れる事になり、たとえ自閉症の若者が体験するゲームが1つだけだったとしても、ハンター・ハートビートメソッドにおいてそれは問題にならないのです。
初日午後、ハンター氏は実技指導のために会場の中央にテープで大きな円を用意し、参加者をその円の上に座らせました。その円は演技空間(舞台)を示すと同時に、「テンペスト」においてはプロスペローの住む孤島を示唆します。
次に参加者たちは、「テンペスト」の劇に基づくゲームを体験し、繰り返し練習しました。初日午後から3日目午前中にかけて紹介されたのは、以下の15のゲームです。
 
1. 心臓の鼓動の円(The Heartbeat circle) 「こんにちは」バージョン
2. 顔投げ(Throwing the face)
3. 痙攣(Cramps)
4. エアリエルのトランス(Ariel’s trance)
5. ああ、あなたは素晴らしい(Oh you wonder)
6. ソード・ファイティング(Sword fighting)
7. キャリバンにことばを教える(Teaching Caliban to speak)
8. こんにちは、近い、さよなら(Hello, too close, goodbye)
9. さあ、この手を(Here’s my hand)
10. ヒキガエル、ゴキブリ、コウモリ(Toads, beetles, bats)
11. トリンキュロー/ステファノー(Trinculo / Stephano)
12. この島の化け物(A monster of the isle)
13. シャドー・ボクシング(Shadow boxing)
14. 目を閉じて名前を呼ぶ(Calling the name)
15. 心臓の鼓動の円(The Heartbeat circle) 「さよなら」バージョン

 
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2. 顔投げ(Throwing the face)の稽古

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3. 痙攣(Cramps)の稽古

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5. ああ、あなたは素晴らしい(Oh you wonder)の稽古

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7. キャリバンにことばを教える(Teaching Caliban to speak)の稽古

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8. こんにちは、近い、さよなら(Hello, too close, goodbye)の稽古

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13. シャドー・ボクシング(Shadow boxing)の稽古

各ゲームを説明するにあたって、ハンター氏は初めにゲームの手順を解説しました。その際に参加者には日本の自閉症の若者を想定し、ゲームの中で使用される英語の台詞を日本語に翻訳しました。続いて実際に自閉症の若者がゲームに参加した場合にどのようなことが起こる可能性があるかを例示しました。そして、3日目の午後、見学者を交えて劇の発表を行いました。

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ハンター氏とアビラ氏が、自閉症の若者がゲームの中で実際にどのような行動をとり対応するかという例を挙げている様子

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発表会の様子

3日間のワークショップを経て、アンケートを行ったところ、参加者からは次のようなコメントが挙がりました。

・ 円になって座るところからスタートするワークショップは初めてだったので、その場からシェイクスピアの劇の世界に入る、という体験が新鮮でした。

・ 役者の身体にどれだけ委ねることができるのか、というのはすごく感じたんです。役者の肉体がどう立っているかというのが一番大事で、役者の身体が物語をどう運ぶのかということが、すごく今回痛感したというか、学べました。

・ 自閉症の方がどのようなことを難しく感じているのかを知ることができました。そして、どのようなゲームで、そこにアプローチできるのかを、具体的に学べました。

・ ワークショップを自分自身の情熱や深い心の声にしたがって、オリジナルの新しいものとしてつくってゆく大きな勇気と力を、ケリーさんの存在から与えていただきました。

・ シェイクスピアにこだわらず、日本の物語に置き換えてもいいかもしれないと思いました。どの物語にも応用可能なゲームばかりだったので、自閉症の若者に届けるのは大いに可能だったと思います。多くの参加者が、この3日間のワークショップが本当に楽しかったと述べてくれている。そう感じることができたのは、ハンター氏やアビラ氏の人柄と情熱があってこそだっただろう。

・ とてもとても素晴らしい体験であり、役者として、子供たちの前に立つ人間として、人生において大切なことをいくつも考え直したり体に取り込む時間でした。ケリーやキムの人柄、エネルギーにつつまれた愛の溢れる時間を本当にありがとうございました。

アンケートから、参加いただいた方々の満足度が大変高かった事を伺う事が出来ました。
今回のワークショップの成功を受け、バーミンガム大学で2020年3月4日~5日に開催される予定の「早稲田デー」では、ハンター氏と演劇博物館の本企画担当者による報告を行うことになりました。報告では、今回のワークショップの成果と、参加者たちが現在、ハンター・ハートビートメソッドを自分の活動の中でどのように活用しているかについてお話しする予定です。
今後、このプロジェクトが国内でどのように発展していくかが非常に楽しみです。
 
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集合写真

参考
ケリー・ハンター(2018)「シェイクスピアの心臓の鼓動」
|早稲田大学文学学術院・バーミンガム大学シェイクスピア研究所主催 日英国際シンポジウム「現代のシェイクスピアの翻案と上演をめぐって」より
開催日:2018年11月26日(月)
会場:早稲田大学小野記念講堂
WEB:https://www.waseda.jp/inst/sgu/news/2019/04/11/5117/

 

飛田勘文(演劇博物館助教)

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