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イベントレポート

早稲田大学演劇博物館 イベントレポート

エンパクに虹をかける ─ LGBTQ入門

日時:2019年7月15日(月・祝)14:30~17:00
会場:早稲田大学小野記念講堂
登壇者:マサキチトセ(ライター)、大賀一樹(早稲田大学GSセンター専門職員)
司会:久保豊(早稲田大学演劇博物館助教)
主催:早稲田大学演劇博物館、新宿から発信する「国際演劇都市TOKYO」プロジェクト実行委員会
助成:平成31年度 文化庁 地域の博物館を中核としたクラスター形成事業
協力:早稲田大学GSセンター

 イベントレポート

2019年7月15日、早稲田大学坪内博士記念演劇博物館はトークイベント「エンパクに虹をかける─LGBTQ入門」を開催しました。本イベントは、2019年1月開催の国際シンポジウム「クィアな記憶を発掘する─映像メディアとアーカイブの実践を通じて」に引き続き、映像文化と博物館展示におけるジェンダーとセクシュアリティの多様なあり方について検証する試みの第二弾として企画されたものです。登壇者にはYouTuberとしても活躍するライターのマサキチトセ氏と早稲田大学GSセンターより大賀一樹氏をお招きし、100名以上の人々にご来場いただきました。

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まず大賀氏による「LGBTQの学生への支援と対応について〜学生支援部署におけるセクシュアルマイノリティ学生支援の現場からみえてきたこと〜」では、2017年4月に早稲田大学に新設されたGSセンターの誕生経緯と過去2年間の取り組みについて詳述されました。大学制度等に関する相談支援、ガイドライン作成、知識共有のためのリソースセンターとしての空間づくりやイベント企画など、大学内外に向けたGSセンターの活動は多岐にわたります。活動三年目になり、職員・教員との連携や知識継承、設備や持続可能なスタッフ配備等の運営形態改善といった課題が浮き彫りになる中で、利用者がジェンダーやセクシュアリティを自分の関心として考えていく機会や環境を整えることを第一と捉える姿勢が印象に残りました。大賀氏のご発表は、GSセンターが早稲田大学によるダイバーシティ推進の中枢を担っていることを来場者に認識させる力強いものでした。

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次いで、マサキチトセ氏の講演「『ということになっている』社会の息苦しさ」が行われました。クィア理論を軸にしたマサキ氏による「LGBTQ入門」は、さまざまな性的欲望・アイデンティティおよびその揺らぎの経験に関する問いから始まり、資本主義社会における保守的な性規範や性役割の成立による結婚の異性愛化について整理されました。実際の行動や欲望のあり方を見つめる時、その規範からの逸脱を互いに認識する一方で秘密を守ったり、気づかない振りをしている状況、つまり「ということになっている」社会の存在を指摘し、このキーフレーズを核に講演が進められました。可視化されているLGBTの人々はほんの一部でしかないことであり、自己認識すらない人々、隠している/なかったことにしている/忘れたふりをしている/周りも見えない振りをしている人々など、規範からはズレた生き方をしている人々が多く存在していることを、私たちは本当は知っているのではないでしょうか。こうした「ということになっている」社会を生き延びるためには、規範との距離を調整し続けること、連帯を意味するLGBTQという言葉の歴史的背景を把握しつつ疑い続けること、「LGBTにとって生きやすい社会」の真偽を問い続けること、そしてその社会が抑圧する人々や行動/欲望を知ることが必要なのです。講演を締めくくる言葉として共有された、「ノーマルと言われている人たちも含めて、私たち社会の全員があらゆる性のあり方をとやかく言われない社会を目指す」というヴィジョンは、多くの来場者にそれぞれの性のあり方を考え直す刺激的な「LGBTQ入門」の指針になったと信じたいです。

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司会の久保を交えたクロストークでは、2019年6月にベルリン市で開催された国際学会「ALMS Berlin 2019 Queering Memory」の報告後、登壇者二人の講演に対する感想が述べられました。「GSセンターが大学の公的機関であることの不自由さ」、「当事者としての代表性」、「ジェンダー・セクシュアリティ機関の労働条件」が前半で議論されました。後半では、「大学内の博物館として学びの場の構築を目指す上で、性をテーマにした展示はどのような効果/影響をもたらすのか」について、セックスワークを題材としたアートをめぐって起こった社会運動の事例を示し、芸術と差別の問題に言及されました。さらに、性の多様性をカタログ化しない展示方法の発案の必要性が訴えられ、リアルとファンタジーの事例としてBL漫画の表象についても触れられました。

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質疑応答では、①クィアな視点から作品展示を行う際に発生しうる解釈の問題、②博物館や美術館が特定の歴史や作品をキュレーションするとき、「誰が、何を選ぶのか」というアクセスの問題、③BL漫画を読む姿勢について、意見交換が行われました。

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イベント当日は100人以上の来場者があり、アンケートにはジェンダーやセクシュアリティに関するイベント開催を定期的に望む声が多く寄せられました。演劇博物館では、2020年度春季企画展で「現代日本の映像文化と性的マイノリティ」(仮)を予定しています。来場者の声を参考に、その展示に向けて準備を着実に進めていきたいと思います。

久保豊(早稲田大学演劇博物館助教)

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