活動報告
2013年度第5回DCC産学交流フォーラム実施報告



「教育現場におけるオンデマンド授業の活用は教育の質を高めるのか、損なうのか」
【日時】
2014年1月21日(火) 17:00~20:30

【ファシリテーター】
早稲田大学大学院環境・エネルギー研究科 友成真一教授

【講演者】
早稲田大学教育学部/e-Education Project Japan代表 税所篤快氏

【概要】
 早稲田大学教育学部の学生であり、e-Education Project Japan代表でもある税所篤快氏を招き、バングラデシュでのビデオ講義を活用した貧困層への教育の取組みについて講演いただくとともに、早稲田大学社会連携研究所 所長 同大学院環境・エネルギー研究科 友成真一教授をファシリテーターとして招き、「教育現場におけるオンデマンド授業の活用は教育の質を高めるのか、損なうのか」というテーマで、来場者の意見交換をメインとしたワークショップを行った。

 講演に先立ち、友成教授より今回のフォーラムの主旨とワークショップで考えたいことについて説明がなされた。

 早稲田大学では大学教育の本質的改革のために様々な取り組みがなされている。そのひとつが社会連携研究所であり、社会の資源と大学の資源を結びつけ、学生を参加させ教育に新しい価値を作り出す取組みを行っている。また一方でオンデマンド授業の推進、拡充を進め質の高い教育を提供する取組みが行われている。今まではこの2つの取組みはあまり協働することがなく、また、このような取組みについて肝心の大学教員がどう考えているのかということについてはあまり議論されてこなかった。本日は税所氏の講演が行われることをきっかけに、この2つの取組みを合わせて考える機会を設けることができた。各参加者の所属や立場を離れ、フラットな立場で大学の教育の本質を考えてみるのが本フォーラムの主旨である。

 教育の定義を確認してみると、「ある人間を望ましい状態にすること」と定義されている。これが具体的にどのようなことなのかを議論しなければ教育の本質を考えることはできないが、この問題については殆ど整理されておらず、普段教育の議論をする場合、教育手段の議論のみとなることが多い。

 「オンデマンド授業の導入」「プレゼンテーション能力の養成」などは教育手段の議論であり、また良く耳にする「グローバル人材の育成」も、何かを達成するためにグローバル人材を育成するのだと考えれば、これも手段の議論であり、教育の本質の議論ではないと考えられる。

 次に、昨今話題であるMOOCsについて考えたい。この取組みはビデオ講義を利用し大量の学習者に無償で授業を提供する取組みだが、その導入についてアメリカのサンノゼ州立大学で賛否双方による興味深い議論が行われている。

 賛成派教員は、MOOCsを利用すれば通常卒業までに6年かかる授業が4~5年に短縮でき、教育に有用なものであると考える。一方、反対派の哲学科教員は、MOOCsでマイケル・サンデルなどの著名教員の講義を視聴し議論しても、哲学で求められる考える力は向上しない、この取組みは教育の質を高めるものではなく、教育を破壊するものと考える。教育の本質を考える際は、今後MOOCsといったものが拡大していった場合、教師と生徒の関係性はどうなるのかということも合わせて考える必要がある。

 最後に本日のテーマであるオンデマンド授業についてだが、オンデマンド授業は大学教育の質を本質に高めるのか、損なうのかということを議論した場合、オンデマンド授業が大学授業に100%取って代わることは無いといった結論や、オンデマンド授業で教育の質が高まる授業と損なわれる授業の両方が存在するという結論がでることが想定される。では、オンデマンド授業で質が高まる授業と損なわれる授業のどちらが大学教育の本質に近いのか、また、教育の質が高まる授業と損なわれる授業とは具体的にどのような授業であるのか、このような疑問についても本日のワークショップで考えてみたい。

 友成教授のフォーラム主旨説明に続き、e-Education Project Japan代表の税所氏より、途上国の貧困層を対象としたビデオ講義を活用した教育の取組みについて紹介がなされた。この取組みは日本では「アジアでドラゴン桜」と題してメディアで報道されており、途上国の学習機会に恵まれない学生を支援し、その国で最高峰の大学への合格を目指すというものである。

 税所氏がこの取組みを始めたきっかけは自身の失恋であった。この経験を契機に、自分に足りないものを探すため多くの本を読むことを始めた。その中で「グラミン銀行を知っていますか」という本に出会い、執筆者に直接会い、それがきっかけでバングラデシュへ渡りグラミン銀行でインターンシップをすることとなった。

 インターンシップではバングラデシュの村々を回り、貧困層へのインタビューを行った。この仕事を通し、現地では貧困層への教育の機会が十分でなく、国全体で4万人の教師が不足しているという課題を知った。

 この課題を解決するため、自身が高校時代に活用した予備校のビデオ講義での学習手法が有効な解決策となりうることを思いつき、このアイデアをグラミン銀行の創設者であるムハマド・ユヌス氏に相談したところ賛同を得ることができた。そこからバングラデシュの有名な予備校講師の授業を収録し、教育の機会が十分でない農村の教師不足を解決するプロジェクトを開始した。

 プロジェクトはトラブル続きで、活動資金の盗難、農村における電力不足など様々な問題が発生したが、現地のダッカ大学の学生パートナーたちの協力を得ながら推進した。最終的にはこのプロジェクトが支援する農村出身の大学進希望者30人のうち、18人が大学進学を果たし、バングラデシュ最高峰ダッカ大学への合格者も輩出する成功を収めた。

 その後、企業からの資金調達が難航する場面もあったが、大学との共同研究プロジェクトとして継続を果たし、2014年は世界銀行のコンペティションに通過し融資を受ける見込みだ。

 現在はバングラデシュでの取組みを広げ、世界5大陸各国でビデオ講義配信を進めている。また国連とも協働し、イスラエルのガザ地区で学習障害を抱える子供たちへ対応できる教師を養成する遠隔授業を配信する活動も行っている。

 講演終了後、これまでの講演をもとに、各グループごとに「オンデマンド授業の活用は教育の質を高めるのか、損なうのか」というテーマについてワークショップを行った。友成教授のファシリテートのもと活発な議論が行われ、最終的にはグループ単位でテーマに対する提言をまとめるに至った。

友成教授よりフォーラム主旨説明 税所氏講演 ワークショップ