留学レポート

モスクワ留学(2019年9月~)レポート

2019年9月からモスクワ大学へ交換留学されていた櫻井大陸さんが留学レポートを寄せてくれました。


Здравствуйте! みなさんこんにちは。ロシア語ロシア文学コース四年の櫻井大陸です。久しぶりの留学レポート更新と言いうことで、私からは2019年9月から交換留学生として在籍していたモスクワ大学についてお届けします。先にお断りしておかなければならないのですが、コロナの影響もあり、執筆時には帰国からほぼ一年がたってしまいました。ですから鮮明な現在のモスクワというのはなかなか描けないのですが、私の体験談、というより思い出話が、ロシアに留学を考えている方ですとか、ロシアに興味がある方の参考になればうれしい限りです。

そもそもなぜ留学するのか、なぜロシアなのか、という問いには留学を考えている方なら一度は頭を悩ませたのではないでしょうか。事実、交換留学に応募する際にも現地の大学で何をしたいのか、それが今後の自分のキャリアにどのようなプラスになると考えているのか、というのは再三問われました。

しかし、私は留学に応募した時点で何がしたいと厳密に考えてはいませんでした。天から降ってきたとでも言いましょうか。正直、「ロシアに住んでみたい」というのが一番の志望動機でした。こんな軽く思い付きで決めたような留学でも大いに意味はあったと感じています。そもそもいろいろプラン立てて、異国でその通り進む方が例外です。いろいろ難しいことは考えず、とりあえず行ってみるというのでもいいのではないでしょうか。

モスクワ大学では「言語学部」で留学生向けの授業を履修していました。まず到着すると簡単な筆記、口頭の試験が行われます。ちなみにこのテスト待っていても何の連絡も来ません。ついて早々、ロシア語が聞き取れない中、事務所に行ってテストの日時を教えてもらうわけです。「事務所の扉をたたくところから留学が始まる」と、ある先輩は言っていました。

そうやってテストを受けると上級、中級、初級に分けられます。そこからさらに5人ほどのグループに分けられて、このグループが基本的に半年間一緒に勉強する仲間になります。しかし最初の一か月のうちに申し出た場合、より難しい、または簡単なグループに編入してもらうことができます。初学者向けの授業から、ペラペラな人向けの授業まであるので、居場所がないということにはなりません。

授業ではとにかくしゃべります。文法事項は日本でやったことの復習なのですが、耳と口をどんどん鍛えられます。「アジアの学生は筆記がいいが、しゃべるのがうまくない。欧米人はその逆」と先生がおっしゃっていました。これがまさにその通りで、欧米の学生はとにかくしゃべります。それに圧倒されていると授業が終わっています。これはいかんと思い、とりあえず手をあげてめちゃくちゃに単語並べて、それで直されて。わからないときははにかんで誤魔化していました。しかし、そうしているうちにだんだんロシア語が上達していきました。

このグループで受ける授業は週に90分授業×7コマほどしかありません。学生はさらに週に2~3コマ、それぞれの関心に応じてセミナーを履修することができます。セミナーのラインナップは学期によってさまざまなのですが、バレエ、ソビエトのアニメ、アヴァンギャルドなど講義のようなものから、統語法やビジネス会話のような語学の授業のようなものもあります。学期が始まると廊下にセミナーの一覧が貼り出されるので、そこにボールペンで名前を書くと履修完了です。

もちろん履修をしていなくても授業には潜れます。学期が始めるとそれぞれの学部に大きな時間割が貼り出されるので、私は大きい教室の授業をメモして勝手に教室に入っていました。しかし教室が大きくても中がスカスカで目立ってしまうことも。それでも怒られることはまずありません。僕の友人は発言までしていました。もちろん聞き取れないことの方が多いですが、大学の授業の雰囲気を味わうことはできます。

モスクワ大学に留学した場合、あのスターリン建築に住むことができます。観光客がカメラを向けているのを見ると、あそこに住んでるんだ、と少し得意な気分になれます。寮費は一年間で(確か)15000ルーブル。格安と言えるのではないでしょうか。部屋は二人一部屋、寝室は完全に別ですが、シャワー・トイレは二人で共用です。男女が同室になることは(私の知る限り)なく、大体同じ国、大学からの留学生でまとめられます。さらにフロアごとに二か所のキッチン。人が集まるとキッチンも交流の場。ロシア語で会話が始まります。私もブラジル人の友人とキッチンで出会い、一緒にお寿司も作りました。

学生寮も兼ねているглавное здание上部は雲にかかるほど高い

また24時間営業のショップや食堂、床屋、マッサージ、ランドリーもあり、生活に困ることはありませんでした。しかしランドリーのおばさんが怖いんです。洗濯機使うのにお金がかかるのでベルを鳴らしたのですが、姿が見えず。もう一度鳴らすと「聞こえてるわよ!」と半ギレでご登場。ただ機嫌がいい時は怖いくらい優しい。勝手に洗濯はじめないこと、お金はちゃんと払うこと。あとは柔軟剤を正しい場所に入れるとニコニコします。

モスクワで普通に生活した場合、生活費は大体五万円くらいです。モスクワの市内でしたら大体の場所でクレジットカードが利用できます。しかしたまに現金がどうしても必要になること(例えば寮費は現金でしかはらえませんでした)があるので、ルーブルを手に入れる術は必要です。私はカードキャッシングを利用していました。ATMからルーブルが手に入れられたのですごく便利です。

余裕があれば現地で口座を開くこともお勧めします。というのもビザの更新の時、口座に入金するように指示されます。この時現地の銀行に口座を持っておくとスムーズなのです。またロシア人と遊びに行ったとき、割り勘にしようとなると、誰かが立て替えておいて、後日その人の口座にみんなお金を振り込むというのが結構ありました。いきなり口座番号を渡されて、わけがわからず後日、現金で返したら「お前現金で持ってきたのか」と笑われました。割り勘でさえ口座振り込みですから、やはり口座はあるといいと思います。

というわけで私もズベルに口座を開きました。パスポートもっていけば意外と簡単にできます。この時デビットカードが発行されるのですが、これもすごく便利です。タッチするだけ決済できますし、地下鉄バスもタッチで支払いできます。さらにカード情報をスマホに入れておけばもはやお財布いらず。スマホをかざすだけで支払えますし、タクシーもアプリを使って呼べば自動で支払いされます。モスクワのキャッシュレス化はすさまじく、とても便利でした。

休日のモスクワは行き場に困りません。学生証があれば大抵の美術館で割引が受けられますし、映画も日本より格安で見ることができます。私もリバイバル上映されていた『Порко Россо(紅の豚)』を見に行きました。ロシアでもジブリは結構名を知られており(実はジブリのDVDにはロシア語吹替が入っていたりします!)、ジブリ音楽のコンサートも催されていました。しかしこの日は他にお客さんがおらず、ロシア語をしゃべるダンディーなポルコに一人で見惚れていました。

また革命広場でクリスマスマーケットやマースレニッツァなど、季節ならではの催し物があったり、カローメンスコエの公園で大きなはちみつの見本市があったり、モスクワにはその時期ならではの見どころもたくさんあります。街中をぶらぶらするだけでも楽しいですが、こまめにイベント情報をチェックしていると面白いイベントに巡り合えるかも。


聖ワシーリー寺院と新年の花火

せっかくロシアにいるからにはロシア人と遊びたいと思う方も多いと思います。ロシア人とロシア語で話すこともこちらとしては勉強になるわけですから、現地で友人は欲しいものです。

ロシア人との出会いはいろいろなところにあります。例えば日本について勉強しているロシア人との交流会があったり、逆にロシア人の学生がロシアについて学んでいる学生を集めてスピーキングクラブを催していたり。イベントでなくても寮に隣接するサッカーコートにいるだけで「一緒にやらない?」と声をかけてくれます。なかでもクラブ活動はおすすめです。どうやら部活とは別に公認のクラブのようなものがたくさんあり、チラシが貼り出されています。スポーツはもちろん、オーケストラやチェスのクラブなどもあったので、なんとなく貼ってあるチラシをよく見てみると面白いものがあるかもしれません。

私は野球をやっていたので、野球のクラブに参加していました。練習はあまり多くなかったですが、一緒にご飯を食べたり、たまにお酒を飲みに行ったり、小旅行をしたりとなんだかんだで一緒に過ごす時間は多かったです。驚いたのがロシア人、というか学生はお酒を飲むとき何も食べ物を頼みません。ビールだけ頼んでちびちび飲みながらひたすらしゃべります。勉強の話とか、恋愛の話を肴にひたすら飲みます。一度、お腹がすいていたので食べ物を頼んだら、「こんな高いところで食べ物頼まなくていい」と小言を言われました。お腹がすいただけなのに。

私は留学中に誕生日を迎えたため、誕生日も野球クラブの友人と過ごしました。皆さんご存知かもしれませんが、ロシアでは誕生日を迎えた人が、友人を招待し、ご馳走するという文化があります。つまり祝われる人がおごるわけです。そういうわけなのであんまり人は呼べないな、などと考えつつ、誕生日には友人を連れ、六人で日本料理を食べに行きました。お財布は軽くなりましたが、友人と過ごす時間はそれ以上に価値のあるものです。ロシア語での話し相手ではなく、友人を見つけられると、ロシアがより楽しめるのではないでしょうか。


友人に誕生日を祝ってもらいました。

残念ながら楽しい私のモスクワで生活は突然終わりを告げました。コロナの影響で2020年3月に急遽帰国することにしました。帰国を決めてから二日で荷物をまとめ、部屋を引き払い、友人に別れを告げることもなく泥棒のように逃げ帰ってきました。授業自体はオンラインで続けてもらっていたのですが、最後までやりきれなかった悔しさというか、無念さはぬぐえません。それでもロシアに留学して心からよかったと思っています。Россию умом не понятьロシアを感じると、何か見つけられるかも?

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