WEB MAGAZINE 早稲田@日本橋

Open Seminar2013レポート

教授による模擬授業

「コーポレート・ガバナンス〜投資家は何を見るべきか〜」
首藤惠 教授

コーポレート・ガバナンスについて、企業活動の社会的影響やステークホルダー間の利益相反問題など、幅広い研究を行っている首藤恵教授。今回の模擬授業では、コーポレート・ガバナンス問題を多角的な視点から解説しました。

メディアから注目を集めるコーポレート・ガバナンス

私が専門としているコーポレート・ガバナンスは、最近、新聞やテレビのニュースで連日取り上げられています。たとえば、有名なホテル会社が行っていた食品の偽装問題や、みずほ銀行が反社会的勢力と取引を行っていた事例などが該当します。これらはいずれも経営陣が長年問題を放置し、経営の優先順位や判断を誤ったことにより、ここまで大きな事件に発展しました。問題は、企業内部でそれをチェックするメカニズムが働かなかったことです。
さらに、オリンパスが長期にわたって損失を隠していた例も注目を集めました。同社の事例は、バブル時に生じた巨額の損失を不正な手段で隠していたことが問題とされ、取締役会や監査役会の機能がまったく機能していなかなったことで厳しい批判を浴びました。
オリンパスの事件に関しては、日本企業のガバナンスの特殊性を再認識する向きもありました。一方国内では、ガバナンスを取締役会の規模や独立性の問題、監査役会の在り方など企業内部の「仕組み」を問題視する傾向が見られます。もちろんそれは日本企業が直面する基本的な課題です。しかし私は、そのような狭い枠組みでガバナンスをとらえるのは十分ではない、もっと広い視点から問題をとらえるべきだと考えています。

コーポレート・ガバナンスを考えるとき、まず企業をどうとらえるかが重要です。企業は価値を生産する「組織」であり、組織の目的は付加価値の最大化です。価値を生み出しているのであれば、大企業であっても零細企業であっても、上場企業であっても非上場企業であっても企業としてとらえなくてはならない。企業とは、価値生産を目的とする「組織」。まずはこの点を理解してください。企業を構成するメンバーには経営者、株主、従業員がいます。活動の場である地域社会、企業活動から影響を受ける環境もまた、企業が価値を生み出す上で欠かすことのできない関係者としてとらえることが大事です。債権者や取引先も取引関係を通じて価値生産活動に影響を与える存在です。
加えて、企業活動とは一定の時間を要する「プロセス」だと理解することが重要です。企業はゴーイングコンサーン(事業継続)が前提。一回限りの活動はプロジェクトであっても企業活動ではない。事業活動の継続を前提に価値最大化に向けて、組織をどのように運営するか考えることが企業経営であると言えます。
価値の創造には、経営者、従業員、社会・環境、株主、顧客、取引先企業、債権者など、さまざまな利害関係者が関与します。経営者の役割は、多様なステークホルダーの関係をうまく管理し、企業の資源を最大限効率的に活用して目的を実現する役割が期待されています。株主は、経営者の行動にもっとも大きな影響を与えうる特別な存在です。

ガバナンスとは円滑な組織運営を実現するための仕組み

企業が果たす役割について整理した上で、次はコーポレート・ガバナンスという言葉について考えみましょう。
組織を構成する3つの要素としては、「組織の目的」「組織の効率的な運営」「組織運営のリスクの分担と成果の配分」が挙げられます。組織は、その目的を効率的に実現するため、運営の過程で生じるコストやリスクを適切に管理することが求められます。では、組織が円滑に運営されるためにどのような仕組みが必要なのでしょうか。 まず大切なのは目的が明確であること。組織が活動する目的が曖昧であれば、効率的な運営は難しくなります。次に、目的を実現するプロセスが正しく運営されているかどうかチェックするモニタリングの仕組みと、責任者が目的を実現するための動機づけのメカニズムが必要です。最後に、成果の配分が適切になされるためには、評価基準・到達点の明確化も重要です。つまり、ガバナンスとは、組織が円滑に運営されるための仕組みそのものなのです。

さて、コーポレート・ガバナンスについて私たちが注目する企業は、多くの場合株式会社です。次はこの点について考えていきましょう。株式会社のガバナンスが注目されるのはなぜか。それは株式会社が次の3つの特徴を持っているからです。
1つ目は「所有と経営の分離」です。経営者は経営能力を提供して組織を運営する。一方株主は、企業の活動に出資して、経営に直接関与せずともリスクを負担することにより企業価値の実現に関与し、持ち分に応じて利益の分配を受けます。
2つ目は「所有の分散」です。株式会社とは、多数の株主がリスクを分散して所有することにより、大規模なリスク投資と事業活動を実現できる仕組みです。
3つ目は経営者と株主の間の「情報の非対称性」です。株主はリスク負担者として企業活動に関与していますが、経営を十分に監視できないために、企業のコントロール権がリスク負担者である株主から経営者にシフトし株主利益を毀損する可能性があり、株主の権利をどのように保護するかが課題となります。
情報の非対称性の結果、株式会社制度は2つの内在的問題を抱えています。
1つは情報の非対称性のもとでは、企業の効率性を妨げる経営者のモラル・ハザード。もう1つは、株主のモラル・ハザードです。多数の株主が出資して持分が分散されることにより、「自分が経営陣の運営方法をしっかりチェックしなくても、ほかの株主がやってくれるんじゃないか」と考えるフリーライダー化の可能性がある。その結果、経営に対する株主のモニタリングが弱まり、企業のコントロール機能が十分に働かなくなります。逆に、特定の株主に所有が集中している場合には、株主が自分のシェアを利用して自分の利益を最大化するために経営をコントロールするリスクも発生します。いわゆる支配株主問題です。このように、経営者と株主の双方のモラルハザードを解決するために、経営を監視し一般株主の利益を高めるための企業内部のガバナンス・メカニズムの構築や株主権利の制度化が必要になってきます。
株主権利とは、有限責任でリスクを分担する見返りとする残余利益の請求権を指します。残余利益の請求権を守るために議決権の行使、市場における株式の売却による所有権の移転など、株主権利の保護のために多くの手段が制度化されております。
株主はこうした手段を通じて企業経営にもっとも大きな影響力を与える存在であり、株式市場では売買を通じて企業価値が評価され、企業支配権の移転を通じて経営に直接的な影響を与えるのです。

ガバナンスは1企業だけの問題ではない

実際のガバナンス・システムは、内部ガバナンスと外部ガバナンスに大きく分けることができます。株式会社のガバナンスを考えるとき、監査役会や監査委員会など、企業内部における「経営監視の仕組み」に注目する人が少なくありません。しかし、これはあくまで内部ガバナンスの一部です。内部ガバナンスには「動機づけの仕組み」、具体的には経営者報酬の決定という側面もあります。ストックオプション制度などを導入して経営者に株式を持たせれば、経営者は株価の変化に敏感になり、株価指向型の経営を促す効果をもたらします。その際、短期指向に陥らぬよう、長期的ビジョンに立って、企業の長期利益とリンクする報酬体系を作ることは、内部ガバナンスの一環と言えるでしょう。
一方、外部ガバナンスの面から、先ほど解説した株主行動のほかにも、情報開示制度や企業の会計報告制度といった経営の監視・評価のための制度基盤を整備し、情報の非対称性を小さくしていく必要があります。 さらに内部ガバナンスの仕組みと外部ガバナンスの仕組みをどのように組み合わせるべきか考えるのも、重要なテーマです。どのように組合わせるかによって、ガバナンス・システムの形態は異なりますので、さまざまな観点から考えていく姿勢が欠かせません。
画一的なガバナンスの仕組みを導入するのがいいのか。日本型のガバナンス、英米型のガバナンス、どちらのシステムが望ましいのか。国ごとに条件が違うけれども、どう多様性を認めればいいのか。ベンチャー企業と成熟した大企業に同じガバナンスの仕組みを要求することが正しいのか。このような幅広いテーマを解決していく必要があります。
現在は企業を取り巻く環境の変化により、ガバナンスの仕組みも大きく変わっています。国によって社会のモラルやルールが大きく異なるため、同じ方法で取り組んだ場合であっても全く違う結果になる恐れもあります。近年では、地球環境や人権に配慮しないビジネスは社会とのコンフリクトや評判の低下を招き、拡大が難しくなっています。経済と金融のグローバル化が急速に進み、各国のマーケットが連動するようになった結果、ガバナンス上の問題についても今では瞬く間に影響が波及します。

さらに多くの企業がグローバル展開することにより、サプライチェーンも大きく広がっていっています。そのため、仮に企業のある支社や取引先が問題を起こした時に、今までには考えられないほどの影響が発生します。起こりうる問題をしっかり感知できるかどうかが、企業の価値を大きく左右することでしょう。特定企業のガバナンスが引き起こす問題は、一つの企業の問題に留まらず経済活動や金融取引の連鎖を通じて広く波及していくのです。

NFSの授業で企業と社会の関係を改めて考える

企業の経営について考えるとき、価値の最大化と並び、持続的な経営をいかに行うかが大きな課題であることは冒頭で述べました。今後、多くの企業は「経営の持続可能性」という概念を、これまで以上に積極的に取り入れなければならないでしょう。そして、多様なステークホルダーによる経営への多面的評価に向き合い、適切に企業活動を行っていくための情報発信を継続していく姿勢が求められます。そのことを怠ると甚大な損失を被る可能性があります。それに関連する事例を2つ紹介しましょう。
今年の4月にバングラデシュにある縫製工場で火災が生じ、多数の従業員が死傷しました。劣悪な労働環境が発覚したわけですが、この縫製工場はいくつかの欧米の有名ブランドの下請け工場でした。これら欧米企業は劣悪な環境で安く製品を作らせていたことに対して、大きな批判を受けることになりました。今後、これらの企業は、サプライ-チェーンにいたるまで労働環境に配慮した経営を余儀なくされるでしょう。
また、2010年にイギリスの大手石油会社BPがメキシコ湾で大規模な石油の流出を起こし、大変な環境破壊が発生しました。そのニュースが世界に発信されると、同社の株価は15%も下がり、株主に大きな損失を与えることになりました。
この2つの事例からもわかるように、社会との関係が、企業の長期利益と持続可能性を左右する時代になっているのです。さらに企業活動に関して、市場の情報発信と非市場(NPO/NGOなど)の情報発信との相互作用が高まっています。これからの企業経営は、短期的に市場の動きに敏感であるだけでなく、長期の視点に立って非市場からの評価に対しても敏感でなければいけません。非市場の評価が投資家行動を通じて市場評価に反映されるようになってきているからです。広義のコーポレート・ガバナンスを考えていかなければ、企業の経営が成り立たなくなっているのです。
既に社会・環境変化を踏まえて、企業を評価する新たなグローバル基準が生まれています。例えば、国連の責任投資原則。金融機関や機関投資家に対して環境・社会・ガバナンス(ESG)の視点を盛り込んで企業を評価することを要請する「ESG」基準を設けました。また、アメリカで成立した「ドッド・フランク法」では、「紛争鉱物の使用の有無をSECに報告すること」と定めています。このようなグローバルな変化に対して、日本企業は遅れを取っており、実際にペナルティを受ける企業も出ています。狭義のガバナンスへのアプローチでは対応できない時代がすでに始まっています。NFSでも「社会の中での企業」という観点から、ガバナンスの問題を議論していきます。皆さんも企業と社会の関係を改めて考え、コーポレート・ガバナンスへの理解を深めてほしいと思います。

SCHEDULE

18:30

開場

19:00〜19:10

研究科長 岸田雅雄教授

あいさつ

19:10〜19:30

教務主任 米澤康博教授

研究科概要説明

19:30〜20:20

「コーポレート・ガバナンス〜投資家は何を見るべきか〜」

首藤惠 教授

20:30〜21:30

「信用リスクをどう測定し、管理をするのか?〜クレジットリスク・モデリング入門〜」

森平爽一郎 教授

21:30〜22:00

入試個別相談会

(希望者のみ)

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