WEB MAGAZINE 早稲田@日本橋

ファイナンス研究科の教授陣が「研究」「教育」「時代」を語る ファイナンス研究科0時間目

TOPIC1

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私の主要な研究分野は、不動産金融工学と応用コーポレートファイナンスです。これらをひっくるめて応用ファイナンスと総称していますが、要するに「金融工学をベースに、企業の戦略や不動産の価値を分析する分野」と説明すればわかりやすいでしょう。
本来、金融工学は数理ファイナンスなどの数学的なアプローチが中心の学問領域ですが、最近は、マクロ経済や経営学、さらには法律学といった社会科学の分野でも、金融工学の手法が活用されるようになっています。私の研究もその1つで、不動産投資や経営戦略作りに金融工学のツールを活用することにより、投資や経営戦略の精度を高めていくことを目的としています。
ちなみに私の大学時代の専攻は土木工学でしたが、その後、都市計画の世界に進みました。金融工学と出会ったのは、この学問が日本に入ってきた1990年頃のことです。畑違いのように見えますが、実は金融工学で使われる微分方程式は、地下鉄のトンネル工事で地盤への影響を算出する際に使うものとまったく同じ。それを知って金融工学への興味が芽生え、こちらの世界に足を踏み入れることになったわけです。大学の教員となってからは、金融工学という道具を使い、不動産を軸にファイナンスの研究を続けてきました。

TOPIC2

いま私が一番興味を持っているのは、実体経済とファイナンスという期待の経済がどのように影響し合っているかということです。
ファイナンスは、長期的には経済合理性の働く世界ですが、短期的には必ずしも経済合理性が働くとは限りません。期待、つまり投資家の心理的な要因による影響を強く受けるからです。しかし金融工学では、このような心理的なブレは、すべて釣り鐘型の正規分布のグラフの中に収まるだろうと考えられてきました。この応用によって、現代ファイナンスは科学的な進歩を遂げることができたのです。そしてこの考え方は、つい最近までうまく機能していました。 しかし2007年のサブプライムローン問題以降、「それは不十分ではないのでは」という疑問が出てきています。とくに2008年のリーマンショックでは、期待の経済のみならず実体経済までもが激しく揺さぶられました。こうして、70年前にケインズが「アニマル・スピリット」という言葉で表現した、投資家の非合理な心理が、再びクローズアップされることになったわけです。
これまで正規分布に収まると考えられてきたものが、実は収まりきらない場合があるとすれば、それをどのように評価すればいいか。それは実体経済にどのように影響を与えるのか。それを解明することが現在の私のテーマです。この問題を解明するためには、金融工学だけでなくマクロ経済学からもアプローチする必要があります。また心理学の手も借りる必要があるでしょう。

TOPIC3

図版

ファイナンス研究科は専門職大学院ですから、受講生の皆さんが望まれるのは単なる知識というよりも、ビジネスで成功したり、投資で効率良く運用するための方法を身につけたいということだろうと思います。私が受講生の皆さんにいつも申し上げているのは、ビジネスや投資で成功するためには「サイエンス(金融工学・経済学などの科学的知識)」と「アート(経験・直感)」の両方が必要だということです。
そのための学習法として、まず第1段階ではサイエンス、すなわち金融工学の基本的な知識と技術を身につけなくてはなりません。基礎なくして応用はできないからです。
この第1段階を踏まえた上で、それを超える部分を学ぶのが第2段階の応用編。私の講座では、「経験」や「直感」を、数式や数値の形で定量化する技術を修得してもらいます。目に見えなかったアートを目に見える形にすることで、サイエンスとアートを結びつけるわけです。
最後に、ファイナンス研究科はわれわれ教員にとっても、非常に刺激的な場だといえます。学生にはREITやファンドを運用している会社の人もいれば、REITに融資している銀行員、弁護士や会計士もいますので、1回1回の授業が真剣勝負。なかには、今マーケットで起きている出来事の裏側まで知っている学生もいますから、迂闊なことを言えば、こちらが突っ込まれてしまうという緊張感もあります。しかしこれは、それだけレベルの高い受講生が集まっている証拠であり、このような緊張感のある授業と、モチベーションの高い学生同士の交流が当研究科の魅力になっていることは確かです。

今回はこの人

川口有一郎教授

1991年、東京大学大学院にて工学博士の学位取得。英国ケンブリッジ大学土地経済学科客員研究員を経て、1999年より明海大学不動産学部教授。東京大学空間情報科学研究センター客員教授、慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科客員教授、京都大学経済研究所客員教授等を歴任。2004年より早稲田大学大学院ファイナンス研究科教授。日本不動産金融工学学会会長、日本リアルオプション学会会長を務める。著書に『投資の科学 あなたが知らないマーケットの不思議な振る舞い』(監修、2007年、日経BP社)『リアルオプションの思考と技術』(2004年、ダイヤモンド社)『不動産金融工学』(2001年、清文社)など。

NFS志望者に読ませたいこの一冊!

リアルオプションの思考と技術

川口有一郎(著)
ダイヤモンド社、2004年

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実例を通してリアルオプション的思考を学ぶ

金融工学の考え方であるオプション理論を経営判断に応用した「リアルオプション」。これを活用することによって、非論理的で曖昧な部分が多い「判断」や「戦略」に、客観性と普遍性を持たせることが可能になり、また見えざる資産である「機会」が目に見えるようになります。90年代のアメリカの復活と日本の没落は、ある意味、リアルオプションに基づく戦略の有無の差だったともいえるかもしれません。
本書は、ビジネスパーソンに向けた「リアルオプション入門書」として執筆したもので、難解な数式は使わず、企業や国家経営などの実例を豊富に挙げながら、基本的な考え方を解説しています。6年前に出版されたもののため、取り上げたエピソードには古いものもありますが、基本的な内容は今でも十分通用するものだと思います。リアルオプション的思考を学びたい人は手に取ってみてください。

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