WEB MAGAZINE 早稲田@日本橋

ファイナンス研究科の教授陣が「研究」「教育」「時代」を語る ファイナンス研究科0時間目

TOPIC1

写真

修士課程までは「経済開発論」が専門で、金融とはあまり縁がなかったのです。主にアジアの発展途上国の経済開発問題がテーマでした。修士課程修了後、たまたま日本証券経済研究所に就職することになったのですが、この研究所の理事を務められていたのが、後に金融ビッグバンで重要な役割を果たすことになる大阪大学の故・蝋山昌一先生。非常に先見の明がある方で、70年代の初頭から金融の自由化やファイナンスの重要性を力説されていました。私も蝋山先生から大きな影響を受けて、「本格的に金融を勉強しよう」と考えて博士課程に進むことに。そのころから、いずれは大学の教職に就きたいと考えていましたが、博士課程の指導教授に「証券市場の分析をしたい」と話すと、「そんなことをやっていたら大学の就職口はない」と言われました。当時の日本の金融システムは銀行中心で、証券はマイナーな存在でしたから。しかしまだ女性の社会進出に対して抵抗が強い時代。男性と同じ土俵では勝ち目がないと思ったことに加えて、人の真似をしたくないという気持ちもあって、あえて人のやらない証券というテーマを選んだのです。

TOPIC2

写真

当時、なぜ経済開発論から金融へと研究対象を変えたのか、疑問をもたれたこともありました。しかし金融システムは経済活動のきわめて重要なインフラストラクチャーであり、金融制度構築は発展途上国の経済発展に欠かせない。その意味では必ずしも畑違いの分野ではなく、根底にあるテーマは私の中では一貫していたのです。
私が関心をもったのは、現実の証券市場が期待される経済機能を発揮するために何が必要か。とくに、投資リスクの適正な評価を通じて資金が世の中の役に立つ形で回っていくか、そのためには証券市場の担い手である証券業者や機関投資家にどのような行動が求められるのかという点でした。これら金融機関の行動は、さまざまな金融サービスの提供を通じて、企業経営や個人の資産運用に多大な影響を与えます。金融機関や企業が自分たちが社会に与える影響を自覚して自ら律していく必要があるのではないか。そのような観点から、企業経営に対する市場の規律づけの重要性、さらに、規律づけに果たす専門業者の役割へと、次第にコーポレート・ガバナンスや企業の社会的責任の問題へとテーマが移っていきました。
とくに金融市場は、金融機関と市場の利用者である企業や個人との間の情報格差が非常に大きい市場ですので、情報開示制度や公正取引規制など制度整備が不可欠ですが、金融機関には自らを律して顧客の信頼を確立することが競争力となる。自由な競争を追求するには、自己規律、職業倫理が不可欠。同様に企業も、経営のリスクを直接的・間接的に株主や債権者、従業員に負ってもらい、地域社会とさまざまな関係をもちながら利益を上げているわけですから、社会的責任をきちんと認識して行動していかなくてはいけない。それが市場メカニズムを正しく働かせる上での前提条件になるわけです。

TOPIC3

現在、当ファイナンス研究科では「金融サービス・イノベーション・マネジメント研究」という、これからの金融サービス業界を担う人材育成のための教育プログラム開発プロジェクトを進めており、「ガバナンス」もその柱の一つ。もし金融機関が、今回のサブプライムローン問題を教訓に、内部のガバナンスをうまく働かせるしくみを作って自ら律していくことができなければ、規制監督当局は規制を強化せざるを得ないでしょう。自由な競争を続けていきたいのであれば、まず金融機関や企業自身が襟を正さなければなりません。
また今期は、NPO法人・社会的責任投資フォーラムの協力を得て、「社会的責任投資(SRI)―動向と実際」というパイロット科目を設けました。社会的責任投資というと、何か特別なことのように思われがちですが、そもそも金融市場の基本的な役割は、資金の流れを通じて経済社会の活動を支えることにあるわけで、そこには自ずから責任が伴います。金融に関わる人は、このような金融の社会的な役割を理解しておくことが大切です。
逆に言えば、そのような自覚を持った金融のプロフェッショナルを育成することが当ファイナンス研究科の使命でもあります。当研究科で学ぼうという方は、単に知識や技術を身につけてスキルアップするだけでなく、ぜひとも「金融活動を通じて社会と経済を担っていく」という心意気を持ってほしい。また既成概念にとらわれず、柔軟な思考で課題に取り組んでいただきたいと思っています。

今回はこの人

首藤惠教授

慶應義塾大学経済学部卒、同大学院経済学研究科博士課程、経済学博士。日本証券経済研究所主任研究員、明海大学経済学部助教授、中央大学経済学部教授を経て、早稲田大学大学院ファイナンス研究科教授(2008年より同研究科長、早稲田大学ファイナンス研究センター所長)。『金融サービス業のガバナンス』(監修・著、金融財政事情研究会、2009年)、『企業統治分析のフロンティア』(共著、日本評論社、2008年)、『企業の社会的責任とコーポレート・ガバナンス』(共著、証券経済研究、2008年)、『アメリカ型企業ガバナンス』(共編著、東京大学出版会、2002年)など著書・論文多数。

NFS志望者に読ませたいこの一冊!

金融サービス業のガバナンス〜規律付けメカニズムの再検討

首藤惠(監修・著)
財団法人日本証券経済研究所(編)
金融財政事情研究会刊、2009年

写真

証券業を中心にガバナンスの現状と課題を分析

2007年に表面化したサブプライムローン問題によって米国金融業者の商品に対する責任意識の希薄さ、職業倫理の欠如が明らかとなりましたが、同様の問題は、米国を手本に金融の自由化、グローバル化を進めてきた日本の金融サービス業界にもあると考えられます。こうした問題意識のもと、私を中心とするメンバーが1年間、証券業界を中心に日本の金融サービス業におけるガバナンスの実態の調査・分析を行った成果が本書です。証券業者・投資顧問会社と顧客との利益相反、格付け機関の格付けプロセスの問題点、不十分な内部統制など、金融サービス業のガバナンスの問題点を浮き彫りにできたと考えています。

トップへ戻る

Webマガジントップファイナンス研究科トップ早稲田大学トップ