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Monthly Spotlight / 黒田 義之

粘土鉱物で美しい形状をつくる  
― ナノサイズの高機能層状無機材料

ナノサイズの美しい形状を求めて

私は粘土鉱物をはじめとする様々なホスト-ゲスト化合物(図1)を用い、新しい機能材料を作る研究をしています。今回は特に粘土鉱物を使って美しい形をつくるという研究について紹介します。といっても、私が使う道具は粘土ベラではなく化学です。私が研究している粘土鉱物を原子サイズで見てみると、幾何学模様が整然と連なった美しい構造をしています(図1)。


図1: 粘土鉱物の構造。Si,Al,Mg,Feなどを中心に含む正四面体(青)や正八面体(茶)が何層も重なっている。これらの層がホストで、層の間にはゲストとして様々な分子(紫球)を保持できるサンドイッチのパンがホストで、具がゲストと考えるとわかりやすい。ホストがあることできちんと形を保つことができ、ゲストによりいろいろな味(機能)が出せる。粘土鉱物の構造には層状の他にも、球状、チューブ状などが知られている。(提供:黒田義之助教)

構造を詳しく見ると、正四面体や正八面体構造の無機原子団が規則正しく並んで層を作っています。その層と層の間に別の分子を保持することもできます。粘土は土壌中に大量にあるので、とても安く手に入ります。ですから、工夫次第で、安価な原料から高機能性材料をつくりだせるのです。

粘土鉱物を使って美しい形状をもった物質をつくりたいというのが、私が研究でとても大事にしている点です。同じ粘土鉱物でも形状が変わるとその機能がガラッと変わりますから、形状を制御するということは、新たな機能を生み出す一歩でもあります。今回は、ロール状と非常に小さい粒状の粘土鉱物についてご紹介します。

ナノサイズのロール状粘土鉱物 ―密着した層を一枚ずつはがす

私がこの研究で使った粘土鉱物は、シリカ(SiO)層とアルミナ(AlO)層を貼り合わせたようなシート構造を持つカオリナイト(図2左上)です。

アルミナ層には正八面体構造(紫)が水平に並んでいます。シリカ層にも正四面体構造(緑)が水平方向に並んではいますが、わずかにねじれています。実は、正四面体のシリカ層のほうが若干長い距離でくり返しつながる必要があります。ですから、これらの層が頂点を共有しながらはり合わさるために、四面体は少しねじれてひずみながら並ばなくてはならないのです。

カオリナイトにメタノールと界面活性剤を反応させると、層の間にメタノールと界面活性剤がそれぞれ入り込み、層と層を引きはがすことができます(図2)。すると、層の中でもシリカ層だけがひずみを解消するために拡がります。その結果、薄くはがれた層はロール状に丸まるのです(図2下写真)。


 
         

図2: ロール状粘土鉱物の作成方法:カオリナイトをメタノール(MeOH)で処理した後に、界面活性剤(Surfactant)と室温で混合するとロール状の粘土鉱物になる。界面活性剤の化学構造はとても重要で、炭素が1つ増えただけでもロール状になる効率が大きく変わる。
左上はカオリナイト一層の構造。紫の正八面体はアルミナを、緑の正四面体はシリカを表す。それぞれの中心には、Al(アルミニウム)、Si(ケイ素)原子が、頂点には酸素原子が位置する。正四面体と正八面体の頂点で1つの酸素原子を共有している。(提供:黒田義之助教)

ロール状になると、カオリナイトは元の構造よりも表面積が増えます。すると、他の物質を吸着する性能が高くなります。ロール状カオリナイトが染料等の汚染物質を吸着する能力は、元のカオリナイトの約4倍にまで増えました。

超微細な粘土粒子をつくるー再生可能になった陰イオン交換物質

層状構造をとる粘土鉱物のなかには、層の間に陰イオンを保持できるものがあります。陰イオンが層間に保持される力は陰イオンの種類によって異なります。たとえばLDH(Layered Double Hydroxides 層状複水酸化物)という粘土鉱物の場合、炭酸イオンは強い力で保持されますが、硝酸イオンは弱い力で保持されます。層間に入っている「弱い力で保持される陰イオン」は「強い力で保持される陰イオン」に置き換わっていく性質があります。これを陰イオン交換能といいます。この陰イオン交換能は、LDHの粒子が小さいほうが高いと早稲田大学の山崎先生らが報告していました。しかし、LDHの粒子を小さく、均一に制御することは難しく、構造と性質の関係を明らかにするには課題がありました。

私は、超微細なLDHを簡単に合成する方法を発見しました(図3)。この方法では、10 nm(1 nmは1 mの10億分の1)という大変小さいLDH粒子を合成できます。私の方法で合成したLDH粒子は形や大きさがよく揃っており、LDH粒子の性質を調べる上でとても使いやすい物質であると言えます。

 
図3: 超微細なLDHの粒子を合成する方法。MgCl2(塩化マグネシウム)とAlCl3(塩化アルミニウム)とtripodal ligand(三座配位子)を混ぜ、約80度に加熱するだけで、10nmのLDHが合成できる。(提供:黒田義之助教)

私が合成したLDH粒子は、「再生可能」という特長も持っています。通常、LDHに強く保持される炭酸イオンがいったん層間に入ってしまうと、他の陰イオンに交換するためには煩雑な方法が必要となります。つまり、LDHに炭酸イオンが入ると、もう陰イオン交換物質として利用できなくなってしまうのです。

ところが、私が合成した極微細なLDHは、高濃度の硝酸ナトリウム水溶液で処理するだけで、炭酸イオンを硝酸イオンに置き換えられるのです。つまり、陰イオン交換能を再生できるのです。様々な大きさの粘土粒子をつくり分けて評価してみると、陰イオン交換能は粒子サイズに依存しているということも明らかになりました。

私が合成したLDHを使って、汚染水を浄化する能力を測定してみました。ヒ素(As)やセレン(Se)やホウ素(B)で汚染された水をLDHで処理すると、粒子の大きなLDHよりも超微細なLDHの方が効率よく水を浄化できました。処理した水はWHOが定める飲料水の基準(ヒ素・セレン)や環境省が定める排水の基準(ホウ素)をクリアしていました。

今回は、マグネシウムやアルミニウムといった安価な材料で陰イオン交換能の高い粘土を合成しました。将来的に、マンガンやニッケル、コバルトといった金属を使えば、電池材料などにも応用できるかもしれないと考えています。

楽しいのは予想を裏切る結果が出たとき

私が新しい研究テーマを考えるときは、自分の経験や先人たちの研究から「この方法を使えば、うまく行くのではないか」という予想を立てます。

超微細なLDH粒子の場合は、私が最初に所属した早稲田大学の黒田研究室で扱っていた「層状粘土鉱物」に、ポスドクで所属した東京大学水野研究室で扱っていた錯体化学の技術を組み合わせようと考えました。実は、LDHを一層ずつはがしたいというのが当初の目的でした。

LDHの場合、層間に入った炭酸イオンが層を強固にくっつけてしまい、一層ずつはがすのはとても難しかったのです。LDHに炭酸イオンが挟み込まれてしまう前に、あたかも錯体の様に層の表面にリガンド(配位子)をつけてしまえば炭酸イオンがつかず、一層ずつはがせるのではないかと考えたのです。

実験してみると、一層ずつにははがれませんでしたが、薄くはなりました。そこでリガンドの濃度を高くしてみると、予想に反して大変小さな粒状のLDHができました。しかも、交換できるわけがないと思いこんでいた炭酸イオンが簡単に他の陰イオンに置き換わるという性質を持っていました。研究をしていて一番楽しいのは、このように予想を裏切る結果に遭遇するときです。

今後も、美しい形状の無機物質を合成し、高機能な新材料をつくり出してきたいと思っています。また、粘土鉱物につけるリガンドを様々な有機物質に変えて新たな性能をもった有機無機ハイブリッド物質をつくるというテーマにも挑戦してみたいと考えています。

取材・構成:大石かおり
協力:早稲田大学大学院政治学研究科J-School

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