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Monthly Spotlight / 高橋遼

世界が幸せになる仕組みを
 ― 森林コーヒー認証制度という国際協力

コーヒー栽培による森林破壊

私は国際協力学・経済学・空間情報学の学際領域で、生産過程における環境配慮の推奨を目的とした森林コーヒー認証制度が森林保全に及ぼす影響について研究しています。また、そのような認証コーヒーを日本に広めるための仕掛けについても研究しています。

2015年現在でも、近代的コーヒー農園をつくるために森林破壊が進んでしまうという問題は続いています。伝統的に、コーヒーの木は森のなかの日陰で育つ陰樹です(写真1)。自然豊かな森の木陰に生えていました。しかし、収量性を高めるために品種改良が進み、森を切り拓いたひなたで栽培されるようになりました。この品種改良でコーヒーの収穫量はおよそ3倍に増えました。

写真1: 右の男性が触れているのが、森林の中で栽培されるコーヒーの木(陰樹)。原種に近い品種なら、苔むした自然豊かな森の中で栽培できる。私が研究しているエチオピアは、国策としてコーヒー産業を伸ばしたいと考えており、農業局はただ同然の価格で国民にコーヒーの近代種(陽樹)を配る。配布された苗木を植える土地(農地)がないため、人々は森を切り拓き、森林地域を近代的コーヒー農園へと転換させている。一方で、森林局は森林破壊を食い止めようと必死になっている(提供:高橋遼助教)

 

農地転換による環境破壊をくい止めようと、RAINFOREST ALLIANCE(レインフォレスト・アライアンス)というNGOが、伝統的な農法で収穫したコーヒー豆に認証を与える制度をつくりました。認証を受けたコーヒーは「森林コーヒー」と呼ばれ、商品パッケージなどに認証マークがつけられます(図1)。認証基準は厳しく、1年に1度監査があり、基準を満たさないと認証を剥奪されてしまいます。
2010年には、認証を受けたコーヒーを商社がおよそ2倍の値段で買い取るまでになり、コーヒー農家は認証を受ければ、より多くの収入を得られるようになりました。

図1: RAINFOREST ALLIANCEが認証したコーヒーにつけられるマーク。環境の変化に敏感なカエルがトレードマークになっている。認証されるには、土壌の保全や化学物質の使用削減のほか、労働者の福祉についての基準も満たさなくてはならない。東海道新幹線では認証マーク付きのコーヒーが売られている。コーヒーのほか、紅茶、チョコレート、切花、家具なども対象で、認証を受けたものには認証マークがつけられている。

コーヒー認証制度は森林を守る?破壊する?

研究者の中には、「コーヒー認証制度はかえって森林を破壊する」と主張する人も出てきました。「認証コーヒーは高値がつくので、もっと植えてもうけようと栽培者は考える。すると、森の中でコーヒーを植えるために相当量の木を切る。森を完全に切り拓くわけではないが、大木が切られてしまうので森林の質は落ちていく」という主張です。

そこで、私は認証制度には森林を保全する効果があるのかを調べることにしました。調査したのはエチオピアのベレテ・ゲラの森です。
まず、空間情報科学の手法を使って、森林の質について調べました。分析にはLandsat衛星による衛星画像を使いました。より具体的には、植物の緑葉が太陽光を反射した際に発生する波長を衛星画像から算出し、その数値を基に、森林地域の特定ならびにバイオマス量から森林の質を計測しました。

衛星画像を用いることで森林地域は特定することができます。しかし、コーヒーが栽培されているのが森林内のどの地域かまでは、衛星画像や航空写真では特定できません。そこで、GPSを用いて、コーヒーが栽培されている地域の位置情報を取得してまわりました(写真2)。

写真2: GPSを使ってコーヒー農園が衛星画像のどこにあるかを調査した(提供:高橋遼助教)

 

結果は表1のようになりました。2005年から2010年の間に、認証を受けたコーヒー農園のバイオマスは若干多くなり、認証を受けていないコーヒー農園はバイオマスの量が減っていました。私の調査で、認証制度は森林保全に有効だということが明らかになりました。

表1: 開発経済学の手法PSM(Propensity Score Matching:傾向スコア法)を用いて分析した。認証を受けたコーヒー農園とそれに近い環境下にある非認証コーヒー農園とを比較したところ、2005年から2010年の間に認証の有無で森林の質に差がでてくることがわかった(提供:高橋遼助教)

カエルマークのコーヒーを選んでもらうには

認証制度が持続的に機能するためには、世界中で広く消費してもらわなくてはなりません。環境保全を目的としたコーヒーの認証制度には、森林コーヒー以外にも、フェアトレード認証や有機認証といったものがありますが、日本はアメリカやヨーロッパに比べて、こうした認証コーヒーの消費量や消費の伸びが少ないのが実状です(図2)。

図2: 認証コーヒー輸入量の推移。英国ではマクドナルドでも認証コーヒーが販売されている。学生の影響力も大きく、学生が大学に「自分たちの大学で販売するコーヒー・紅茶はすべて認証コーヒーにして欲しい」という要請をしたことで普及した(提供:高橋遼助教)

 

なぜ日本では認証コーヒーの消費量が少ないのでしょうか。日本人の国際協力への意識が低いからだとは私は思っていません。では、認証コーヒーの制度があまり知られていないからでしょうか。それも違うと私は思っています。というのも、アメリカのスーパーで認証製品の購入要因を調査した研究の結果をみると、購買行動に認証制度の認知度は全く影響を及ぼしていませんでした。日本において認証製品の消費を阻害する要因というのは、実証的に明らかになっていません。

そこで、視線を記録するアイトラッカーを使った実験を早稲田大学にて実施しました。この実験では、コーヒー製品のラベル(図3)を表示し、被験者がラベルのどの要素を見て購入の意思決定を行っているのかを検証することで、認証製品の購入にかかる阻害要因を明らかにしていきます。

図3: 実験で使用したラベル。3つのデザインのどこを見てコーヒーを選ぶかをアイトラッカーで分析する。森林コーヒーのボタンのデザインをランダムに変更して、森林コーヒーを選ぶ基準がどこにあるか、どのようなデザインだと森林コーヒーを選びやすいかを探っていく(提供:高橋遼助教)

 

ただし、この実験は実験室内で大学生を対象とした実験であるため、得られた結果が実社会においても有効的であるかは不明です。その点を明らかにするため、今後は企業と協力して、自動販売機を用いた社会実験を行う予定です。実は、早稲田大学の8号館1階にも紙コップの自動販売機で森林コーヒーが販売されていますので、関心がある方はぜひ一度、試してみてください。

みんなで幸せになる国際協力とは

私の研究の目的は「環境を守ること」というわけではありません。私は先進国も発展途上国も幸せになれるような国際協力について研究をしたいのです。それは私の高校時代の経験に端を発しています。高校生だった私がアメリカのユタ州に留学していたときに、9.11のテロ事件やアフガニスタン侵攻が起きました。

高校にはアメリカの陸・海・空軍が「一緒に世界の平和を守ろう」とリクルートにやってきました。同級生の中には「アメリカは世界の平和を維持するために戦うべきだ」という考えをもっている人が少なくありませんでした。そのとき私は「戦争ではない方法で国際協力ができるのではないか」と漠然とした考えを抱きました。

先進国の人々が発展途上国の人々に「環境を破壊するから木を切るな」と押し付けてはいけないと思うのです。発展途上国の人々が自分たちの意志で「木を切らない」という選択をできるような仕組みをつくるといった、一人でも多くの人が幸せになれるような国際協力のあり方を追い求めていきたいと考えています。

取材・構成:大石かおり
協力:早稲田大学大学院政治学研究科J-School

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