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Monthly Spotlight / 松岡亮二

出身家庭の社会経済的地位と教育達成の関連

教育達成の格差生成メカニズム

私の専門は教育社会学です。これまでの国内外の研究は、出身家庭の社会経済的地位(Socioeconomic status : SES)によって最終学歴に差があることを明らかにしてきました。たとえば、両親が大卒であれば、子どもが大卒になる確率は高くなります。ただ、SESが高ければ自動的に学力が上がり大学進学するわけではありません。たとえば、SESの代理指標として用いられる家庭の蔵書数は、実際の読書行動や学校文化との親和性などを通して学力や学校の成績に変換されると考えられています。そのようなSESと教育成果の間にある過程--教育達成格差の生成メカニズムを包括的に明らかにすることを私は目指しています。小学校、中学校、高校のそれぞれの段階において、テーマの異なる3論文――計9編の分析結果をご紹介しましょう。

小学生の分析―読書時間・親の関与・習い事―

小学生については、厚生労働省による21世紀出生児縦断調査のデータを用いました。小学1年生から4年生までの父母と児童の漫画・雑誌を除く読書冊数の関係を統計的に調べたところ、大卒の親は本をよく読み、その読書習慣が子どもの読書量と関連していることがわかりました。習慣の世代間「相続」が起きていると言えます。

2つ目に、親の関与が子どもの学校外学習時間に影響しているかを分析しました。児童の通塾・通信教育の有無、テレビとゲームに費やす時間、親による学習状況の確認などを関与の指標としました。高いSESの親は関与する傾向にあり、児童の学校外の勉強時間が長いことに繋がっていました。親の関与度合いによって、小学生の学習量が異なることを示しています。

3つ目に、習い事(学校外教育活動)について調べました。下記の表に示したように、親の学歴によって子どもの習い事参加率は異なります。誰が学校外で学習経験を持つかは平等ではないわけです。そして、音楽などの「ハイカルチャー」、スイミングなどの「スポーツ」、それに塾や通信教育といった「アカデミック」な習い事をすると、学校に対する姿勢がポジティブになることがわかりました。また、「スポーツ」の習い事参加は問題行動の減少と関連があります。学校外の学習機会格差が非認知発達の差異に繋がっているわけです。


 

中学生の分析―教師の期待度・親の関与・逸脱行動―

中学生については、IEA国際数学・理科教育動向調査(TIMSS)の中学2年生のデータを用いて分析しました。まず、教師の期待度について調べると、その学校に通っている生徒全体のSESが高いとき、生徒の成績に対する教師の期待度が高く、宿題を出す回数も多いことがわかりました。また、教師の期待度と学力に関連がありました。日本の義務教育制度は他国に比べて学校間格差が少ないと指摘されていますが、学校のSES(生徒SESの平均)によって教師の期待度合いに差があり、それが学校間学力格差と関連しているわけです。

親の関与について分析したところ、高いSESの親は子どもに学校で何を学んでいるか問いかけることが多く、そういう家庭の生徒の学力が高いことが明らかになりました。同様に、SESが高い学校では親の学校活動への参加が活発で、学校間の学力格差と関連しています。中学校段階でも、家庭と学校それぞれでSESによって親の関与が異なり、学力格差を部分的に説明していると言えます。

学業による競争からの撤退を示す逸脱行動について調べると、個々の生徒のSESが低いとき、学校のある日に4時間以上テレビ・ビデオ視聴に時間を使う傾向がありました。ただ、学校レベルで見ると、学校の平均SESとこの逸脱行動に関連は見られません。学校間格差が極めて大きいことで知られるアメリカとの比較を行ったのですが、アメリカでは学校のSESと逸脱行動に関連があります。アメリカの公立学校は、地方税に資金の多くを依拠していて、経済的に豊かな学区と貧しい学区に大きな格差があるためだと思われます。一方、日本の公立学校は、国が多額の資金を出し、学校間で教育の質や量の差を少なくしようとしているので、学校SESと逸脱行動に関連が見られないと考えられます。ただし、私立や国立の中学では、逸脱行動をする生徒はかなり少なくなるので、公私の格差は日本の義務教育にも存在します。これらの日本とアメリカの対照的な結果は、教育制度によって逸脱行動の発生が異なることを示しています。

高校生の分析―予備校・学校外の学習時間・学習能力―

高校生については、OECDによる生徒の学習達成度調査(PISA)のデータを分析しました。まず、2006年のデータによると、高校1年生の6・7月の調査時点で、SESが高い学校では、予備校や塾などに通う生徒の割合が高く、学校外での学習時間も長いことがわかりました。これらは個人の学力やいわゆる学校ランク(偏差値)を統制した結果です。高いSESの生徒が中学3年生までに高い学力を獲得し高校受験を通して進学校に集まることで、ますます予備校通いなどの進学準備や自習をするように駆り立てられるわけです。

一方、学校外で一切勉強していない生徒の割合は、2006年に実施されたPISAの57カ国・地域の中で、日本はどの科目でも1位です。日本の場合、学校のSESが低いと、学校外で一切勉強しない生徒の割合が高いことが明らかになりました。低いSESの生徒は低学力によっていわゆる偏差値の低い高校に進学する傾向があります。そんな学習を得意としない生徒たちが大学進学を特に期待されない学校に集まることで、学校外でまったく勉強しないことが是認されていると考えられます。高校受験によって学力別に学校を分けないアメリカの結果は対照的で、学校のSESと学校外で一切勉強しないことに関連はありません。教育制度の特徴によって生徒の行動が異なるわけです。

近年、学力だけではなく非認知能力が重要であると指摘されていることから、2009年のデータを用いSESと学びへの意欲を含む学習能力の関連を分析しました。まず、高いSESを背景に持つ生徒は高い学習能力を持つ傾向にあることを確認しました。そして高い学習能力を持つ生徒は、学力などを統制しても、学校外授業に参加し自習もする--自ら学習するサイクルをまわしていることがわかりました。出身家庭のSESを基盤に学力格差だけではなく学習能力格差が生じ、生徒の努力、学校外学習機会、高校ランクなどを経由して教育達成の差異となっていると言えます。

 

一人ひとりの潜在可能性を引き出す制度を作るために

今回ご紹介した9編の研究結果は、SESによって左右される親の関与・生徒の学習行動・教師の期待度などを通して高校受験までに学力格差が生じ、学力別の高校に通うことで、これらの格差がさらに拡大することを示唆しています。日本の義務教育制度は国際的には比較的平等な機会を提供している部類に入りますが、家庭の経済状況や親の職業などを変えることができない以上、公教育の改善は常に最優先の政策課題であると私は考えています。今後もSESが教育達成を左右するメカニズムを多くの側面から実証的に明らかにし、子ども一人ひとりの潜在可能性を引き出す制度を作ることに学術的に貢献できればと思います。

取材・構成:秦 千里
協力:早稲田大学大学院政治学研究科J-School

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