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Monthly Spotlight / 松尾 美和

交通事業の効率性と有効性を評価する

社会における交通の役割とは?

交通は人や物を運ぶだけではなく、地域の経済や環境などと深く関わり社会にさまざまな影響をもたらしています。交通は都市の発展や地方の生活を支えていますが、その地域にとって交通はどのくらい役立っているのでしょうか。交通によって社会はどう変わるのでしょうか。交通と社会の関わりは多岐にわたっており、交通の効果を測るのは容易ではありません。そこで私は交通がもたらす社会経済的影響を定量的に評価することを主眼に研究を行っています。

私は都市計画及び交通経済学が専門で、研究を始めたきっかけは「東京の活力の源泉を探ってみたい」と思ったことです。東京は活発でバイタリティのある面白い都市です。東京のような大都市の経済発展や生産性向上における交通の役割を明らかにしようと、これまで、米国を中心に大都市における交通の役割について事例分析をしてきました。一方、大都市交通とは異なった問題を抱える地方交通にも興味を持っており、過疎地のバス交通の効率性や有効性の評価についての研究も始めています。

交通と都市の発展

巨大都市である東京には広いエリアをサポートする交通ネットワークがあります。人々や企業は交通アクセスを考慮しながら、活動拠点を選択するため、そのネットワークの結節点を中心に生産地や居住地などができています。その都市の形態や経済活動は交通ネットワークによって決定されるといってもよいでしょう。また、交通は既存の経済活動の立地に影響を与えるだけでなく、生産性の向上に大きく関わることが知られており、実際、米国のボストン、アトランタ、ワシントンDC、フェニックスの4都市の交通事例の分析からもそのことが示されています。

過密な大都市は道路網だけでは支えきれないため、公共交通は道路の混雑を緩和する手段としても重要です。効率がよく、適切な交通システムが導入されれば、混雑が緩和され、人や車の流れがよくなります。すると、物流も通勤も便利になり、人と企業が集まってきます。人が集まれば、多様なサービス産業も誘致されて新たな雇用を生み出し、さらに都市の魅力が高まります。このように効率的な交通をもつ都市では、経済的な結びつきや社会的な相互作用が高まり、労働生産性や消費が向上します。生産性の向上は、都市間競争で有利に働き、経済発展につながるのです。

過疎地交通の現状

公共交通は都市の発展に大きく寄与しますが、その一方で社会福祉的な側面も持ち合わせています。公共交通は自家用車などをもたない、あるいは運転できない交通弱者にとっての生活のための貴重な移動手段です。もし公共交通がなければ、お年寄りや子供、貧困層などの交通弱者は働きに出られず、買い物にも病院にも行けません。生活が困っていても役所に相談に行くことすらできないのです。

このような多様な意味合いを持つ地域の交通を計画するにあたっては、公共交通を運営する主体の経営状態だけでなく、社会的、経済的な影響を考慮しなければなりません。しかし、過疎地などの地域内交通では、採算があわず、公共資金に頼らざるをえなかったり、やむなく廃止されたりする路線が少なくありません。廃止の憂き目にあわずとも、効率化の名のもとに本当に必要とされているサービスが削られることもあります。たとえば、大きな赤字を抱える地方路線で、1時間ごとにあった便を通勤時の朝と夕方のみ1日4便に減らし、需要の少ない昼間の便をやめることで、コストをカットできます。公的資金で支えられている事業として経営の効率化努力は必要ですが、交通弱者への生活の足を提供するという社会的役割を考えると、それは本当に適切な判断なのでしょうか。

公共交通の事業評価にあたっては経営の効率性と社会的有効性という2つの点を両方とも見ることが重要であり、現在その2つの指標を用いて日米の過疎地のバス交通の評価を試みています。アイオワ州など米国の過疎地のバスについて調べたところ、過疎地のバスの経営効率性やサービスの有効性は都市とは異なるさまざまな要因に左右されていました。

たとえば、広い地域に集落が点在しているところや国立公園のあるところなど地域によって土地の利用の仕方はまちまちです。また、山間地や海岸沿いの場所など地域により地形もさまざまです。乗客人数が少なくても、バスしか交通手段のないところもたくさんあります。こうした地域では、バスで通れない場所を迂回したり、集落が離れているために広い範囲を巡回したりすることが必要です。都市では輸送の効率化を図るためにコンパクトな路線が望まれますが、過疎地ではそうはいきません。しかも、このような過疎地では高齢者や比較的低収入の人が多く居住しているところが多く、公共交通は特に必要とされています。

200円バスで行く京丹後の旅  200円バスで行く観光スポットの紹介

 

図1:過疎地バスの利用促進例:京丹後市における上限200円バスの取り組み。京都府の日本海側、丹後半島にある京丹後市では、路線バスの利用者が減少し、バス路線を維持するための補助金の額が増加していた。補助金を「バスの運行」ではなく「乗車する人」に対する補助という発想に転換。バス料金の上限を200円とし、さらに利用促進のための工夫を講じたところ、乗客が2倍を超えた。
http://www.city.kyotango.kyoto.jp/kurashi/kankyo/kotsu/200busnextstage/200tabimap/index.html

 

 

写真1:京丹後市・宮津市周辺のバス路線図(2007年8月松尾撮影)

地形や土地利用を考慮する

路線バスなど公共交通に公的支援をするためには、適切な路線やサービスのありかたを選び、適正な補助金額を決めなければなりません。これまで、経営効率性やサービスの有効性を客観的に判断する指標は十分には用いられてこず、さらに、これらの指標を分析する際には、地理的な条件や土地利用の違いは考慮されてきませんでした。しかし、過疎地の交通の現状を考えると、大都市と過疎地では同じように交通の効率性や有効性を評価できません。多様な地方交通サービスのための公正な評価システムをつくることが必要です。

そこで、私はまず中でも地理的影響が顕著な過疎地のバス交通の効率性や有効性に関わる要因を明らかにしようとしています。米国では、地方交通のデータが整備されていますので、それらをもとに、地域の交通の効率性と地形や土地利用との関係を分析しています。
公共交通の効率性や有効性を評価するために、現在はデータ包絡分析法を用いています。この方法では、経営入力要素に対して、どれだけの交通サービスを提供できたのかという狭義の効率性と提供されたサービスがどれだけ消費されたのかという有効性の2点を統合的に分析できます(図2)。その分析に地理的条件や人口特性などの環境要因を加え、定量的に評価することを目指しています。日本のデータも集め、日本のバス路線についても取り組む予定です。

 

図2:公共交通の効率性と有効性の評価

日本が持続してゆくために

公共交通は地域の経済や社会の重要な基盤です。しかし、現在の状況では、過剰投資が問題になっており、赤字路線を存続するのか、廃止するのかを決めるといった公的資金を投入する基準もあいまいです。その原因は、公共交通の効率性や有効性を適切に評価する手段がないためなのです。私は、交通事業の効率性と有効性を定量的に評価することによって、公共投資の適切な基準を提案したいと思っています。

今後日本の人口が減少していけば、都市は縮小し、公共投資の余力は低下する一方で、このままでは地方も都市も成り立たなくなると予想されています。将来、どこの地方を残していけばよいのでしょうか。そして、都市間の競争力を上げてゆくためには何をすればいいのでしょうか。いわば、よりよく枝を払い、強い幹を残すということです。枝を払われる側にとっては酷かもしれませんが、強い幹を残すことが、日本が生き残るための道となるでしょう。そのための指標を示すことが私の研究の役割だと思っています。

取材・構成:佐藤成美
協力:早稲田大学大学院政治学研究科J-School

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