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Monthly Spotlight / 東島雅昌

権威主義体制下での選挙はどのように設計されるのか

比較政治学とは?

私の専門は比較政治学です。比較政治学は基本的に国内政治を研究対象としており、国ごとの政治や政治制度の類似点や違い、あるいは一国内の経年変化などに着目し、比較することを通して、政治の一般法則を見つけ出そうとする政治学の一分野です。比較政治研究ではさまざまな手法を用います。例えば、計量分析では、数多くの国々のデータを集めて統計的に解析します。また、定性的な方法としては、研究対象となる国を訪れて現地調査をし、政治プロセスを比較する方法があります。私自身は、データの収集・解析という定量的分析と、カザフスタン、キルギスの2か国でのインタビューなどを通した定性的分析の2つの方法を用いて研究を行っています。

民主化研究における民主主義の定義

比較政治学における主要な研究トピックの1つに、民主化研究があります。ある国が民主主義国であるかどうかを測ろうとする際、比較政治学者はこのような抽象的な概念をどのように測定するのでしょう。
現代民主主義の理解について画期的な著書を残したロバート・ダールは、国家が民主主義国であるためには、「政治競争」と「参加」という2つの要件を満たしている必要があると説いています。「政治競争」を実証的に観察する1つの有力な視点として、自由で公正な選挙の有無に着目する方法があります。選挙が「自由で公正」であるための要件は3つあります。第一に、立法府のメンバーあるいは行政府の長が普通選挙を通して選出されているということ。第二に、野党を含めた複数政党が選挙に参入できるということ。第三に、選挙によって実際に政権交代が起こるということが挙げられます。そして「参加」とは、参政権を意味します。政治競争を規定する3つの要素と参政権を合わせた計4つの要件を満たしている場合、その国は民主主義国であると見なすことができます。一方、これら4つの要件のうち1つでも満たしていない場合、その国は独裁国家であるということになります。

この民主主義の定義をもとに歴史を振り返ると、世界的に3回の民主化の波があったことがわかります。1820年頃から始まった1度目の波は100年ほども続きましたが、ナチズム、ファシズムの登場後、民主主義国の数は減少しました。2度目の波は1945年から始まり、日本、ドイツ、イタリアや、ラテンアメリカの国々の一部などが民主化しました。しかし、1960年代から70年代前半にかけて、ラテンアメリカやアフリカにおいて、民主主義国の数は減少しました。そして現在は、3度目の民主化の波の只中にあり、民主主義国の数は増加しています。

権威主義体制下で行われる選挙

現代政治学は、民主主義に強い関心をもってきた学問だといえます。そして民主化研究においては、研究が本格的に始まった戦後以来、「どのように民主化が起こるのか」に焦点が当てられてきました。しかし、冷戦終結後も、権威主義体制の国が世界の約40%を占めています。そこで、「なぜ権威主義体制が維持されるのだろう」という方向に考え方のシフトが起こってきており、権威主義体制の政治が注目されるようになってきました。私の研究では、権威主義体制下で行われる選挙を分析しています。

図1は、強固な権威主義体制の国(グラフ中の赤のエリア)、選挙権威主義体制の国(オレンジのエリア)、民主主義の国(青のエリア)の割合の推移を表しています。強固な権威主義体制とは、選挙を行わなかったり、たとえ選挙を行っていても反対政党が存在しなかったりと、政治競争をまったく認めない体制のことです。選挙権威主義体制とは、反対政党を含め、複数の候補者が選挙に参加することが制度上認められていますが、選挙による政権交代が起こらない体制をさします。
権威主義体制のうち、従来は強固な権威主義体制の割合が圧倒的でしたが、冷戦終結後、選挙権威主義体制の割合が急速に増していることがわかります。

図1:3つの政治体制の割合の推移 (出典: Higashijima and Kasuya 2014)

 

選挙は独裁者の政権維持にとって裏目に出る可能性があるにもかかわらず、多くの独裁者が限定的とはいえ競争的な選挙を行うようになりました。この事実は、簡単には理解しがたいように思えます。また、例えばカザフスタンとキルギスは、どちらも選挙権威主義体制の国家で、歴史的背景や政治的・社会的状況も類似していますが、選挙がもたらした結果は全く異なりました。カザフスタンでは選挙が体制の安定化につながった一方、キルギスでは体制が不安定化し、政治秩序が崩壊しました。
権威主義体制の国家において、どのように選挙は設計され、どのような結果をもたらすのだろう。これが私のリサーチ・クエスチョンです。

独裁制下の選挙ジレンマと選挙設計 ― 経済分配と選挙不正のトレード・オフ

私は、独裁者たちは選挙のジレンマに直面していると考えています。比較的公正な選挙を行った場合、選挙結果の信頼度は高く、支持分布などに関する有効な情報を入手できます。しかし、そのような選挙においては、圧勝する確実性は減ることになります。一方、独裁者が選挙を極端に操作した場合、圧倒的勝利はあげやすい反面、選挙結果の信頼度は低くなります。このような制約の中で、独裁者たちはどのように選挙を設計するのでしょう。

財政資源が豊富で、選挙前に経済分配を通じて市民の自発的支持を得ることができる強い独裁者は、選挙不正を行わずに圧勝できる可能性が高いといえます。そのため、票の水増しなど不正な手段で選挙結果を操作する度合いは低くなります。一方、経済分配を通して支持を取り付けることができない弱い独裁者は、選挙不正を伴わずに圧勝できる可能性が低いため、選挙操作に依存する度合いは高くなります。

選挙のジレンマに効果的に対処するには、経済分配を通じて市民の支持をどれだけ取り込めるか、それでは足りない分をどれだけ選挙不正で補うかを、適切に見きわめる必要があります。それに失敗すると、権威主義体制下での選挙は独裁者にとって2通りの形で裏目に出ることになります。過度に公正な選挙を行った場合、選挙結果が政権の弱さを露呈することになります。そして、クーデターや反対政党の勝利の結果、政権交代が起こる可能性が高くなります。逆に、過度な選挙操作をした場合、市民の不満をてことする抗議運動が起こりやすくなります。

図2:選挙不正の程度(横軸)と、政権交代(左のグラフ)・抗議運動(右のグラフ)の起こりやすさの関係を表したグラフ (出典: Higashijima 2015)

民主化支援への貢献

権威主義体制下での選挙は、民主化に向かうチャンスとなるかもしれません。しかし、独裁者の力が強いと、独裁政権はある程度、競争的な選挙で圧勝し、結果的に選挙がその統治を合法化してしまう可能性もあります。したがって、国際社会の民主化支援は、独裁者の直面する選挙のジレンマを念頭におきながら、戦略的に進めることが重要です。権威主義体制の政治を理論化するために研究を進めて、その知見を国際支援の場に発信していきたいと思っています。

取材・構成:押尾真理子
協力:早稲田大学大学院政治学研究科J-School

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