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Monthly Spotlight / 坂上和之

量子ビームのさらなる高度化への挑戦
~微小世界を照らすテクノロジー~

私達の生活の中の量子ビーム

量子ビームという単語を聞いたことがあるでしょうか。ビームというと実感が湧かない人もいるかもしれませんが、実は私達は実際の生活の中で、量子ビームを使った技術から様々な恩恵を受けています。私が研究しているのは、そんな量子ビームについてです。

私達の身の回りにある物質は原子によって構成されています。原子はさらに原子核とその周りの電子に分けられ、電子を原子から引き離したり、過剰に付与したりすることができます。このことをイオン化といいます。物質をイオン化するのに十分なエネルギーをもった電磁波や粒子のことを放射線と呼びます。量子ビームとは人工的に制御された放射線のことです。X線やγ線が例として挙げられます。

量子ビームが実際にどのような場面で活躍しているのか、その具体例を幾つか紹介したいと思います。

量子ビームは、医療現場で腫瘍の治療に用いられています。量子ビームは強いエネルギーをもっているため、腫瘍を破壊することができるのです。ただ正常な細胞も破壊してしまいます。なるべく正常な細胞を破壊しないように、よく制御された量子ビームを用いる必要があります。

半導体素子は様々な電子機器の基盤を担っている部品です。半導体素子を作成するリソグラフィの工程においても量子ビームは必要です。半導体上には微細な加工がされています。この加工はマスクという鋳型をもとにして半導体上に印刷されています。より微細な加工にはより微細なマスクが必要です。このマスクを作成する際に量子ビームは用いられているのです。

新種の植物を作るのにも量子ビームは有用です。生物はDNAの情報をもとに身体をつくっています。このDNAに量子ビームによって損傷を与えることで特徴に変化が生じた植物が現れる確率を高めることができます。これまで存在しなかったような様々な色の菊を作るといった観賞用植物の作成のほか、グルテリンを減らした米や病気になりにくい洋ナシといった、食べる際や育てる際に有益な特徴を付与した植物もこの技術で作られています。

より良い生活を目指して、より高精度な量子ビームを作る

量子ビームの活躍は一見すると目に見えないものです。しかしながら、私達の生活をかげながら支えています。私の研究のひとつは、より高精度な量子ビームを作成することです。腫瘍の治療で量子ビームを用いる際、従来の方法では腫瘍の形にくりぬいた仕切り越しに照射することで腫瘍だけにビームが当たり、正常な細胞を傷つけないようにしていました。しかしこれでは腫瘍それぞれに専用の仕切りを作らなくてはなりません。そこで新しい方法として、小さいサイズに制御した量子ビームでペンのように腫瘍をなぞることによって治療する方法が開発されています。また、半導体素子を作る際にも、量子ビームをより高度に制御することで、より微細な構造を形作ることができ、これによって高性能な半導体を実現することができます。

量子ビームが作る、高精度な光

さて、量子ビームのもう一つの特徴として、量子ビームを直接利用する以外に、量子ビームから光を作り出し利用することができます。最も一般的なのはシンクロトロンという加速器を用いる方法です。加速器の中で電子にエネルギーが付加され加速していくことで電子ビームが生じます。この電子ビームを曲げると光が発生します。エネルギーを光エネルギーとしてまとった電子が磁石によって急に曲げられると、まとった光が振りはらわれて放出されるのです。この光は非常に強いX線として、様々な分野で利用されています。

私達が普段触れる光は大きく二つに分類することができます。ランプとレーザーです。この二つの違いは何でしょうか。これはコヒーレンスという言葉を使って説明することができます。光は波として捉えることができ、光の波が重なりあった状態のとき、この光を「コヒーレントな光」といいます。ランプの光はコヒーレントでなく、レーザーの光はコヒーレントになっています(図1)。これが、ランプとレーザーの大きな違いです。レーザーは指向性がよく、光が細く集束されるので、微細な制御が可能です。私はレーザーのようにコヒーレンスの高い量子ビームを作ることを目指しています。

図1:一番上はランプで、波がランダムでコヒーレントではない。下の2つはレーザーで、波の振幅や位相が揃ったコヒーレントな光。

黒い点は光を発生する電子。

 

コヒーレンスが高い光の作成を目指して

コヒーレンスが高い量子ビームを作るにはどうすればよいのでしょう。電子を曲げて電子から光を発生させる際に、電子が規則正しく並んでいれば、図1のようにコヒーレントな光になります。電子一つ一つを好き勝手に道を歩く人間だとしましょう。私の仕事はその人たちを指示して、一つの方向に規則正しく並べて移動させる、つまり行進させることです。

これには幾つか問題があります。何人かの人の歩く速さが違うと、すぐに列は崩れてしまいます。電子は負の電荷を帯びています。そのため斥力によってそれぞれの電子はお互いに反発しあっています。どこかで二人が近づきすぎると、お互いに距離を置こうとして離れ、列が乱れてしまいます。こうした問題を取り除く必要があります。

では、具体的に電子を規則正しく並べるにはどうしたらいいでしょう。大事なのは光が発生する際にのみ、整列していればいいということ。先ほどの電子を行進させるという例でいえば、その行進がきっちりと規則正しくなっているのかを審査する審査席があります。ここを通るときに整列していればいいのです。整列させるには複数の方法があります。一つは行進を始める際に列を整える方法、つまり電子を作り出す際に電子を規則的に並べる方法です。もう一つは審査席にたどり着くときに整列させる方法、つまり電子が加速された後に電子を規則正しく並べる方法です。私は後者を用いています。相対性理論に従うと加速された電子は重くなります。電子が重くなると斥力で反発しにくくなるので制御しやすいため、加速後に整列させる方法をとっています。

今後の展望

コヒーレンスが高いレーザーは強度が強いという利点があります。X線レーザーはすでに開発されており、結晶化を必要としないタンパク質の構造解析などに使われています。現在、私はテラヘルツレーザーの研究を行っています。テラヘルツレーザーとは光の波長が300 μmのレーザーです。紙を通過し金属は通過しないという性質があるため郵便物などの封筒の非破壊検査に使うことができます。

より波長が短いレーザーを作るためには、より難しい電子の制御が必要になります。ですが、目標として際限なく短い波長のレーザーを求めていくことができます。また電子の整列や光を取り出す際の工夫によって螺旋状の光をつくるといった新しい光の開発にも取り組んでいきたいと考えています。

写真: 喜久井町キャンパスの研究室にある加速器システム(左)。 左の写真の奥に見えるのが電子を制御する装置で実際に我々が開発した(右)

取材・構成:青山聖子/秦 千里/本間知広
協力:早稲田大学大学院政治学研究科J-School

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