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Monthly Spotlight / 大槻一統

戦争時の兵器選択と産業構造の関係性

兵器の選択を政治経済学的にみる

私の専門は政治学です。中でも、戦争や戦後社会に焦点を当てて研究してきました。現在は、戦争時の兵器選択についての研究に取り組んでいます。

兵器の種類には大別して、爆弾やミサイルなどの通常兵器と、対人地雷、生物兵器、化学兵器、核兵器などの非通常兵器があります。通常兵器は、ターゲットの物理的な破壊を目的にしています。一方、核兵器以外の非通常兵器は、物理的な破壊よりも、人間の社会・経済活動への中長期的な負の影響が大きいといえます。人々が住みにくい土地にしたり、その場所にとどまると住人の病や死のリスクを高めてしまったりという影響が長期間続くため、非通常兵器はターゲットを汚染する「汚い兵器」とも呼ぶことができます。すべての兵器の特徴は、「破壊」と「汚染」の度合いの組み合わせでとらえることができます。例えば、単純に表現すると、通常兵器は低汚染・高破壊、地雷は高汚染・低破壊、核兵器は高汚染・高破壊な兵器ということになります。

兵器に関する研究にはどのようなものがあるでしょう。兵器の使用やその影響については、主に戦術学や環境学、医学などの分野で論じられてきました。また政治学においては、国家安全保障に特化した従来の国際政治学が、非通常兵器の不拡散レジームの発展に着目してきました。しかし、兵器の選択、使用やその影響について政治経済学的視点から扱った研究はこれまでありませんでした。

戦後への関心から始まった新しい戦争研究

一方、戦争というテーマは、とりわけアメリカの政治学において定量的に研究されてきました。勝者と敗者が確率的に決まり、勝者の側が何らかの財を受け取る。伝統的な理論的枠組みの中では、ここまでの過程が研究対象としてモデル化されてきたのです。こうした研究は、戦争の原因を解明する上では有用ですが、戦争について完全に把握するためには、何か足りないと感じました。戦争は、戦後の人々の生き方を大きく変えてしまいます。これが戦争の大きな特徴の一つです。したがって、これまでの政治学では扱われてこなかった戦後にも目を向けることが重要だと考えました。戦後の“痛み”は、戦争がどう戦われるかによって決まる部分が大きいといえます。そのため私は、戦争時にどのように兵器が選択されるかに注目しました。
私は共同研究者とともに、この問題に解答を与えるため、ゲーム理論を用いてモデルを作成しました。ここでは、理論から導き出された解答の中から、攻撃のターゲットとなる場所の産業構造と兵器選択の間にある興味深い相関について紹介します。

確実な勝利か将来の資源か ― 理論から導き出される兵器選択の論理

ゲーム理論は、戦略的な相互作用を分析するツールです。戦争は一方的な意思決定によって成り立つものではありません。敵対するアクターたちは、相互に相手の反応を予想しながら行動を決定します。そして敵対者たちは、意思決定に際して以下のようなジレンマを抱えています。ここに、2つの国、政府と反政府組織、ゲリラグループと地元民などの交戦する2つのアクターが存在するとします。また、戦場には油田などの貴重な資源があるとします。兵器を使用し攻撃する側のアクターは、戦後に財を得たいので、資源を破壊したくないと思っています。しかし、あまり破壊をしなかった場合、土地を守る側のアクターが資源から財を得、激しく応戦してくることにつながるかもしれません。すなわち、勝利を優先すれば資源が残らず、資源の保全を優先すると敵の降伏を促さないというジレンマが存在します。

こうしたロジックを反映し、ゲーム理論から導き出された兵器選択の論理は、戦場における産業の種類、資源の種類と密接に関係していました。産業や資源が破壊された場合の復興・再生可能性が、兵器選択の重要な決定要因になっていたのです。
復興に時間がかかるハイテク産業などの資本集約型の産業構造の国・地域や、石油や鉱物資源のような再生不可能な財を持つ場所では、破壊はされにくく、汚い兵器により汚染される可能性が高くなります。それに対し、復興が早い農業のような労働集約型の産業構造の場所は、財も再生可能な農地なので、汚染よりも通常兵器による破壊にさらされやすくなります。

モデルの検証 ― カンボジア内戦を例に

理論を用いてモデルを作成したら、実際の事例で検証する必要があります。我々はカンボジア内戦の事例を用いた検証を行いました。カンボジアでは70年代を中心に激しい内戦が続きました。
カンボジア内戦における地雷や空爆の位置には、一定の傾向が認められます。例えば、空爆を受けているのは主に東側の地域なのに対し、地雷が数多く埋められたのは現在のパイリン特別市やバッタンバン州などの西側の地域です。これは一般には、アメリカ軍による空爆がヴェトナム・カンボジア国境地域である東側に集中したこと、そして、パイリンやバッタンバンなどの西側地域が、内戦後期に武装勢力クメール・ルージュの勢力拠点になり、地雷が埋められたことが理由であると考えられてきました。

しかし私たちは、こうした傾向が産業構造にも影響を受けていたのではと考え、検証しています。70年代のカンボジアの産業構造は非常にシンプルで、主要な産業は、稲作に代表される農業と、ルビーやサファイアなどの宝石です。宝石は主に西部の地域で産出されており、地雷が多く埋められた地域と一致しています。
また、農業が盛んな地域は、実際に爆撃を多く受けていました。図1は、60年代に行われたカンボジアの土壌調査の結果を図示したものです。地図上の黄色のエリアは、メコン川流域の肥沃な地域で、米の生産量が多いと推計されます。この地域は、空爆を多く受けたエリアと重なっています。

図1:カンボジアの土壌調査結果

(Crocker, Charles D. 1962. The General Map of the Kingdom of Cambodia and the Exploratory Survey of the Soils of Cambodia, Phnom Penh: Royal Cambodian Government Soil Commission/United States Agency for International Development)

 

さらに私たちは、統計的分析によるモデルの検証も進めています。例えば、図2は、図1をもとにカンボジア政府基準の農業好適土壌を抽出し、その上にさらに“フィッシュネット”と呼ばれる網をかけたものです。農業好適土壌は緑色で、農業好適地以外は茶色で表されています。1つ1つの網の目はおよそ6キロメートル四方で、各方眼は土壌のタイプおよび宝石の産出地と、そこで使用された兵器の種類によって特徴づけられます。このようにして多くのデータポイントを作成し、産業構造と兵器の種類との関係を統計的に検証しようと試みています。

 

図2:カンボジアの土壌の分類図に、統計分析のための“フィッシュネット”をかけたもの。

(作成/早稲田大学先端社会科学研究所 冨永靖敬助手)

現在は主に内戦における地雷使用に関するデータを用いて研究していますが、今後は国家間戦争や化学兵器のような他の兵器にも対象を広げ、幅広い事例を検証していきたいと思っています。

人間の安全保障に向けて

私の研究の最終的なゴールは、戦場の人々により効果的な避難を促すこと、そして戦争による犠牲者を減らすことだと思います。社会科学者にとって、実際に政策提言を聞き入れてもらうのは難しいことですが、今後、私の研究が人間の安全保障と平和構築への貢献につながっていけばと願っています。

取材・構成:押尾真理子
協力:早稲田大学大学院政治学研究科J-School

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