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Monthly Spotlight / 広瀬健太郎

国家のパワーと軍事紛争の関係
-理論をデータで実証する-

既存理論への疑問

 私の研究分野は国際政治学です。国家間のパワーがどのような状態のときに、軍事紛争が起こるのか。私は政治現象でみられる事象をデータ化し、数学的手法を用いて国家間のパワーと軍事紛争の関係を明らかにしようとしています。

 私は2015年6月にWIASに来ましたが、それまではシカゴ大学やプリンストン大学で、ゲーム理論といわれる数理モデルを使って、政治現象に潜む理論をみちびく研究をしていました。研究をする中で、今まで信じられてきた理論に疑問を感じる部分があり、現在は、自分で新たに理論を組み立て、それが正しいかどうかを、データを集めて論理的に実証しようとしています。

 ここでは、既存研究が国家のパワーと軍事紛争の関係をどのように理論化してきたかを紹介するとともに、私が新たに示そうとしている理論を紹介します。

国家のパワーをどうやって測定するか

 まず、「軍事紛争」と「国家のパワー」がどういうものかを確認しておきましょう。軍事紛争は、戦争だけでなく、中ソ国境紛争のような「武力の行使」、キューバ危機のような「武力の脅し」も指します。

 国家のパワーを測定する方法には、3つあります。1つ目は、「戦争に勝ったら強い。戦争に負けたら弱い」というように結果からその国のパワーを評価する方法です。私の研究では、国家間のパワーをもとに軍事紛争が起こるかどうかを調べたいので、この方法は使えません。2つ目は、資源をどれだけもっているかでパワーを測る方法です。国際政治学ではもっともよく使われる指標で、私の研究でも、資源を用いて国家のパワーを測定しています。具体的には、軍事予算や軍隊の人数といった軍事的資源、重産業やエネルギー消費といった経済的資源、国の総人口や都市の人口といった人的資源から、国家のパワーを数値化します(図1)。3つ目は、国家間の関係からパワーを測定する方法です。例えば、Aという国がBという国に依存している場合、BはAに対して強いと考えます。

図1: 資源から測定した国家のパワーの推移(提供:広瀬助教)

データで明らかになる既存理論の弱点

 国家のパワーと軍事紛争の関係については、紀元前5世紀という大昔に提唱された「勢力均衡理論(Balance-of-Power Theory)」が長く定説とされてきました。これは、相手国より強いほど武力を使いやすく、国家間でパワーが均衡しているときは戦争が起こらず平和が保たれるという理論です。

 しかし近年、事象をデータ化した数学的分析がなされ、その結果、勢力均衡理論とはむしろ逆の傾向があることがわかりました。つまり、国家間でパワーが均衡しているときにこそ戦争が起き、国家間のパワーに差があるほど戦争は起きないという結果になったのです(図2)。ちなみに、この分析でも、国家のパワーは軍事的・経済的・人的資源にもとづいて測定されています。

図2: 国家間のパワーの分布と戦争の起きやすさの関係(提供:広瀬助教)

 

 この矛盾を解決する新たな理論として、1970年代に「覇権安定論(Preponderance-of-Power Theory)」が登場しました。これは、1つの国が圧倒的な強さをもっていると戦争が起きず、世界の平和が保たれるという理論です。強い国は、武力を使わなくても、武力の脅しによって、相手国の行動を変えることができる。つまり、勢力均衡理論のように、国が強いほど“武力を使う”のではなく、国が強いほど“武力の脅し”をするというのが、覇権安定論の考え方です。

 ところが、覇権安定論は、戦争が起きるかどうかについては説明できますが、武力の脅しについては、データによる数学的分析結果とは合致しませんでした。覇権安定論では、国が強いほど武力の脅しをすると考えられていますが、分析結果では、図3のグラフのように、二国間でパワーが均衡しているときにもっとも武力の脅しをし、一方の国のパワーが相対的に大きくなるほど、相手国に対して脅しをしなくなるという結果になったのです。覇権安定論に則れば、このグラフは右肩上がりの直線になるはずですが、実際のデータではそうはなりませんでした。

図3: 二国間の相対的なパワーの大きさと武力の脅しの関係(提供:広瀬助教)

新たな“アメとムチ”理論

 既存の理論では、戦争と武力の脅しの両方を説明することができません。いったいどのような理論であれば説明できるのでしょう。そこで私が新たに実証しようとしているのが「アメとムチ」の考え方です。武力の行使や脅しは、「アメとムチ」でいえばムチに当たります。強い国はムチを使うことで、弱い国を支配したり行動を制御したりしています。しかし一方で、強い国はさまざまな資源を使って、弱い国と同盟を結んで安全保障を与えたり、金銭的・軍事的な対外支援をおこなったりしています。こうしたアメを与えることでも、相手国の行動を変えることができるわけです。今までの理論は、ムチの側面ばかりを見ていましたが、アメを考慮することで、国家のパワーと軍事紛争の関係をより正確に説明できる可能性があります。つまり、二国間において、一方の国のパワーが相対的に大きいほど、相手国にアメを多く与える。だから、図3のグラフのように、国が強いほど武力の脅しをしなくなる。このことをデータで実証したいと思っています。

 現在は、アメのデータを集めているところです。19世紀の初めから現在までにおいて、同盟や対外支援などをおこなっている国のペアを集め、同盟の文書や歴史的背景を調べて、アメの度合いを数値化します。何百年という期間、そして何百という国のペアを考えると、何百万という膨大な組み合わせになり、データ作りはとても大変な作業になります。ですが、今まで信じられてきた理論が違うとデータを使って論理的に証明し、自分で新たに組み立てた理論の正当性を実証することは、とてもやりがいがあります。今後は国家間だけではなく、内戦や政府・反政府といった国内の事象も扱っていきたいと思っています。

取材・構成:秦 千里
協力:早稲田大学大学院政治学研究科J-School

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