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Monthly Spotlight / 青木仁美

比較法の観点から、成年後見制度のあり方を考える

興味を持ったのは偶然の導き

私は法律を研究しています。研究対象は、「成年後見制度」という民法上の制度です。成年後見制度とは、認知症や精神障害、知的障害などによって判断能力が衰えてしまった人々を法的に支援するための制度です。この制度を利用すれば、判断能力の不十分な人の代わりに援助者が法律行為を行うことができます。

私が成年後見制度に興味をもったきっかけは、偶然のタイミングの一致でした。大学に入学して法律を学び始めた1999年に、ちょうど制度が改正されたのです。そのため、授業で新旧両方の制度について基礎から学ぶことになりました。その後も勉強を重ねる中で、新しくなった制度が社会でどのような役割を果たすのかを知りたいと思ったことが、今の研究につながっています。成年後見制度を積極的に改正しているオーストリアへの留学も経験し、そこで学んだ知識を生かして、現在は日本とヨーロッパのドイツ語圏の制度を比較する研究を行っています。

成年後見制度とは

成年後見人等の任務は、大きく分けて「財産管理」と「身上監護」の二つになります。まず、成年後見人は本人の財産を管理し、その財産に関する法律行為について本人を代表します。たとえば、本人に代わり、その不動産等を処分する契約を締結することができます。また、身上監護とは、本人の健康等、一身上の世話に関する決定権限であり、例えば本人が介護施設へ入所する際や介護サービスを受ける際に、成年後見人は本人に代わり契約を締結します。民法は自由な意思能力を尊重する法律ですので、正常な精神能力がないと契約を締結できません。そのため、本人の代わりに契約を締結する成年後見人が必要になるのです。

成年後見制度は、改正される以前は「禁治産制度」と呼ばれていました。この旧制度は、援助者に財産管理を委託するという点では現制度と共通していますが、偏見を生じさせる名称および内容があったため、問題視されていました。利用類型が2類型しか存在せず、本人の判断能力に合わせた柔軟な利用が不可能でした。また、制度を利用すると、本人の戸籍には禁治産者である旨が記載されていました。

現在の成年後見制度ではこの反省を生かして、サポートの種類を本人が判断能力を有する程度から順に、補助・保佐・後見の三段階に分けています。つまり、もっとも判断能力を有していない者が利用する類型が後見になります。そして、それぞれ補助人・保佐人・後見人が本人を援助します。この中で日常生活に関するものを除いた全ての財産管理を任されるのは、最も判断能力を有しない者を担当する後見人だけです。補助人と保佐人は財産管理の一部を行うだけにとどまり、残りの法律行為は本人自身の手で行うことができるのです。このように、新制度は援助を受ける本人の残存能力に配慮したものになっています。



図1: 成年後見制度の概要。判断能力の程度に応じて、サポートの種類が異なっている

さらに、全ての援助者に取消権の付与が可能となったことも新制度の特徴の一つです。取消権とは、本人が行った契約を取り消すことができる権利です。成年後見制度の対象者は判断能力を失っているわけですから、悪徳商法や詐欺の標的にされる可能性があります。こういった被害を防ぐために、もし本人が高額な契約を不当に結ばされる事態が起きても、援助者が取消権を行使すれば、契約をなかったことにできるのです。

制度の改正にともなって、任意後見制度という新制度も導入されました。
任意後見制度とは、将来、自分自身が認知症などを患って判断能力が低下した場合を想定し、あらかじめサポートを依頼する後見人を本人自ら決めておくことができる制度です。同制度の設立により、自己決定を尊重する成年者保護のための環境が整いつつあります。

依然として残る問題点

しかし、実は制度が改正された後も、新たな問題点が次々と浮上しているのです。改正後の主な問題点は、症状の程度に応じた仕組みを作ったにも関わらず、「後見」以外の選択肢がほとんど使われていないことです。2000年の改正時には、他の選択肢の使用率が増え、個人のニーズに応じた幅広いサポートができると考えられていました。しかし、蓋を開けてみれば、法律行為を行うためのほぼ全ての能力を本人から奪う「後見類型」の使用率が全体の約85%以上を占めているのです。これでは、本人の判断能力に柔軟に対応するために制度を改正した意味がありません。

成年後見人等の不正も大きな問題です。本人が判断能力を欠いているのをいいことに、成年後見人等が財産を横領する例が増えています。被害は年々エスカレートしているとみられ、平成22年6月から平成24年12月の間の被害総額は94億4000万円にのぼりました。民法は、家庭裁判所に、いつでも後見人等に対して事務の報告および財産目録の提出を求める権限を認めています。この権限に基づいて、家庭裁判所は本人の財産状況を把握し、これが不正発覚につながります。しかし、現在の制度では、成年後見人等は毎年提出する義務はなく、求められた場合に応じるようになっているため、不正が発覚しにくくなっていると思われます。



図2: 成年後見制度の申立件数。圧倒的に「後見類型」の利用率が高い

ヨーロッパと日本の制度はどう異なるか

オーストリアでは、横領事件はほとんど耳にしません。事務内容および財産状況を裁判所に報告する義務が一年に一度課されており、監督体制が充実しているからです。裁判所の数自体も多く、成年後見制度に従事する裁判官が一定数確保されています。また、ドイツやオーストリアにはプロの成年後見人が存在し、専門職として確立されています。プロの後見人は、自らの後見職の遂行だけでなく、成年後見センターに所属するボランティアの後見人に対し支援を行い、その支援の中には裁判所に提出する報告書の清書も含まれています。このように、成年後見制度の先進国といえる国では、監督体制を充実させて、不正を未然に防いでいるものと思われます。

日本では専業後見人という職業が確立されていません。その原因のひとつとして、成年後見制度改正時において、後見人職の第三者による実施の可能性がそれほど意識されていなかったことが挙げられます。オーストリアやドイツでは、国家が法律で成年後見センターの認可要件を定め、そこにプロの後見人を雇用し、活動資金を負担していますが、日本ではこのようなことは実施されていません。その原因は、成年後見制度の創設時に、日本では後見人職は本人の家族・親族が実施するものという価値観が根強く存在していたからと考えています。

確かに、現行の制度が始まった2000年頃は、親族による後見が9割を占めていました。ですが、今では新規に任命される後見人等における親族後見人の割合は、全体の約4割にまで減少しており、成年後見制度は家族・親族によって実施するものという前提自体が弱まりつつあります。今後さらに親族後見が減る可能性もあるため、成年後見人等の確保も制度の課題のひとつとなっています。



図3: 日本における成年後見人の内訳。親族・司法書士・弁護士が圧倒的に多い。 社会への実装を目指して

社会への実装を目指して

これからは成年後見制度だけでなく、高齢者や判断能力が不十分な人々を保護する様々な法的制度に着目していきたいと考えています。例えば、オーストリアでは、本人の判断能力があるうちに、病気で判断能力がなくなった際に特定の治療を拒否できる治療拒否制度がつくられています。日本には、このような制度は存在しません。このように、ヨーロッパを中心とする海外の制度と日本の制度を比較し、日本に足りないものを突き止めていきたいと思っています。ゆくゆくは自分の研究で指摘した内容が法律の改正に反映されることを目標に、今後も努力していきます。

取材・構成:青山聖子/秦 千里/濱口翔太郎
協力:早稲田大学大学院政治学研究科J-School

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