• HOME
  • 早稲田大学TOP
  • お問合せ
  • アクセス
  • サイトマップ
  • ENGLISH
Loading
  • facebook
  • twitter
  • 研究所について
  • 研究プロジェクト
  • 研究員
  • イベント情報
  • 研究成果
  • 国際研究交流
  • 採用情報

Monthly Spotlight / 山本大輔

物性の起源に迫る理論家

物質が示す性質の背景には量子力学がある

物質の表に現れる性質(物性)と、そのもとになるミクロなしくみの関係を研究するのが物性物理学、または、凝縮系物理学と呼ばれる学問分野です。よく研究されている物質の性質としては、電気的性質(電気を通すかどうか)、磁気的性質(磁石としての性質を示すかどうか)、光学的性質(光を吸収したり、放出したりするか)などがあります。

物性物理学の研究者には、実験家と理論家がいます。実験家は、さまざまな物質を合成し、その物性を測定します。一方、理論家は、物性のもとになるしくみを説明する理論を考え、数学的なモデルをつくります。例えば、ある温度以下で物質の電気抵抗がゼロになる「超伝導」という現象は、1957年にジョン・バーディーンら3人が提案したモデルで説明されています。しかし、1986年に発見された高温超伝導という現象はこのモデルでは完全には説明できず、理論家のチャレンジが続いています。

超伝導に限らず、物性は、物質中に存在する膨大な数(10の23乗個程度)の原子や電子が、互いに関係をもちながら集団としてふるまうことで生まれます。私も、理論家の一人として、量子力学と統計力学に基づいて、物性を説明する研究に取り組んでいます。

ペンとノートと計算機で現象の起源に迫る

実験家と違い、理論家は、ペンとノートとコンピュータの数値計算を使って研究します。ある現象を説明しようとする場合、現象を表す式は物理の法則から導くことができますが、その式を膨大な数の原子や電子について解くことは、原理的に不可能です。そこで、さまざまな近似手法が開発されています。

私の場合、最初に、自分が興味をもっている現象の中から、理論的に説明したいものを決めます。その現象を式で表し、物理学的に重要な部分をなるべく保ったまま、式を解ける形にしようと努力します。そのために、既存の手法の中から最適な手法を選んで改良したり、既存の手法では限界がある場合は、新たな手法を開発したりします。これは、とても大変な作業ですが、私が研究に臨むときに大事にしているスタンスです。こうして、式を解ける形にできたら、コンピュータで計算して結果を得ます。

三角格子スピンのフラストレーションを解明

研究例を1つご紹介しましょう。最近、私は、「三角格子上のフラストレートスピン系」という問題に関する理論的な研究を行いました。物質をつくっている原子の中にある電子は「スピン」をもっています。スピンとは、電子の自転のような性質によって生じる小さな磁石のことで、この微小な磁石が膨大な数、集まることで物質の磁気的な性質が決まります。

スピンが互い違いに並ぼうとする性質をもつ場合、原子が正方形の格子の上に並んでいれば、スピンは交互に逆向きとなって安定化します。三角格子の場合は、図1の左のように、スピンは互いに120°開いた状態で安定化すると考えられています。では、この三角格子に磁場を加えて、すべてのスピンをある方向に向かせようとするとき、図1の右のような「飽和状態」になるまでに、スピンたちの向きはどのように変わる(どのような磁化過程を経る)でしょうか。実は、古典力学の範囲では無数の可能性が考えられ、どの経路をとってもエネルギーが変わらないので、経路が1つに決まらない“フラストレーション”という状態に陥ります。

ところが現実には、量子効果によってフラストレーションは破られ、安定な磁化過程が1つに決まるのです。私はクラスター平均場理論という手法を使い、加える磁場が強くなるにつれて3つで1セットのスピン(図1の赤い矢印)の向きがどのように変化するかを導き出しました。

 

図1:三角格子のスピンの向き。一般的には、スピンは120°に開くのが安定だと考えられている(左)が、磁場が加わり、一定の向きに揃う(右)までには、どんな磁化過程を経るだろうか。

私の計算結果は正しいのでしょうか。それを明らかにするには、三角格子の上にスピンが存在する物質で実験を行わなければなりません。今回、幸運なことに、東京工業大学の田中秀数教授、東京大学物性研究所の金道浩一教授らのグループが、アンチモン酸バリウムコバルト(Ba3CoSb2O9)という物質の合成に成功していました(図2)。この物質中では、Co原子が三角格子状に並んだ層が何層も積み重なっています。


図2:Ba3CoSb2O9の構造。Coのスピンが三角格子を形成している。BaやSb2O9は、Coの三角格子の平面を引き離す働きをしている。Reprinted with permission from http://dx.doi.org/10.1103/PhysRevLett.108.057205 Copyright (2012) by the American Physical Society

田中教授、金道教授らは、この試料にパルス状の強磁場を加え、発生する磁気の強さ(磁化)を精密に測定しました。その結果得られた磁化のふるまいが、私が理論的に導き出したグラフと非常によく一致したのです(図3)。特に大事なのは、磁場が3の付近に現れたピークです。このときの磁場の強さは、すべてのスピンが磁場と同じ向きを向く飽和磁場(4.5付近)の7割程度にあたります。このようなピーク構造は、これまでの多くの理論では予測されていませんでした。私の理論では非常によい一致で実験を再現できており、このピークは注目している層とその上下にある層に存在するスピンの間の相互作用によって生じるものであることが特定されました。この成果は2015年1月16日発行の米国学術誌「フィジカルレビューレターズ」(Physical Review Letters)に掲載されました。

今回の成果は、私が提案した理論が正しいということ、そして田中教授、金道教授らがつくった試料が理論に従う理想的な物質であったということを示しています。


図3:山本助教は、3つで1セットのスピンの向きが、磁場の強さによってどのように変化するかを計算した。(i)から(v)は、3つで1セットのスピン(上下2層分)の変化を示す。このグラフは、磁化(3つスピンのベクトルを足し合わせたもの)の変化率(磁化率)を表したもので、実験による測定値とよく一致している。スピンの向きが変わる(相転移が起こる)とき、このグラフは大きく変化する。特に、磁場が3の付近に現れるピークは、(iii) と(iv)の間の相転移によるもので、これまでの理論計算では予測されていなかったが、山本助教の理論計算ではきちんと予測された。

物理学の進歩に貢献したい

今回は、私が理論計算を進めているときに、理論がぴったりあてはまるような条件の物質の実験結果が発表されたので、理論と実験結果の一致がすぐに確かめられました。このように、理論が現象を説明する場合もありますが、逆に、現在の技術では実現できていない現象を、理論家が予言することもあります。これは、理論家にとってチャレンジングですが、その予言に実験家が興味をもてば、そういう現象を起こす物質や測定法を実現してくれるかもしれません。

もともと私は、物理学の基礎や物質の根本を突き詰めたいと考えて、研究を始めました。基礎物理の解明は、物理学に空いている穴を埋め、教科書に新たな1ページを加えることになります。さらに、物性に関する先進的な知識の蓄積は、将来、実用につながることもあるでしょう。これからも、“知りたい”という気持ちをバネに研究を進め、物理学の進歩に貢献できればと思います。

取材・構成:青山聖子/池田亜希子
協力:早稲田大学大学院政治学研究科J-School

PAGE TOP