第18回(2018年度) 石橋湛山記念 早稲田ジャーナリズム大賞 授賞作品決定

10月30日、第18回「石橋湛山記念 早稲田ジャーナリズム大賞」最終選考会を行い、下記の通り、「大賞」4作品、「奨励賞」2作品を授賞作品として決定致しました。後日、贈呈式を開催します。

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ジャーナリズム大賞メダル

早稲田大学は、建学以来多くの優れた人材を言論、ジャーナリズムの世界に送り出してきました。先人たちの伝統を受け継ぎ、この時代の大きな転換期に自由な言論の環境を作り出すこと、言論の場で高い理想を掲げて公正な論戦を展開する人材を輩出することは、時代を超えた本学の使命であり、責務でもあります。

「石橋湛山記念 早稲田ジャーナリズム大賞」は、このような背景のもと、社会的使命・責任を自覚した言論人の育成と、自由かつ開かれた環境の形成への寄与を目的として2000年に創設され、翌2001年より毎年、広く社会文化と公共の利益に貢献したジャーナリスト個人の活動を発掘、顕彰してきたものです。

大賞受賞者には正賞(賞状)と副賞(記念メダル)および賞金50万円が、奨励賞受賞者には正賞(賞状)と副賞(記念メダル)および賞金10万円が贈られます。また受賞者には、ジャーナリストを志す本学学生のための記念講座に出講いただく予定です。

※以下、各部門・各賞ごとに応募受付順で掲載しています。

第18回(2018年度) 大賞

公共奉仕部門 大賞: 森友学園や加計学園の問題をめぐる政府の情報開示姿勢を問う一連の報道

受賞者氏名

森友学園・加計学園問題取材班 代表 長谷川玲(朝日新聞社 ゼネラルマネジャー補佐)

発表媒体名

朝日新聞・朝日新聞デジタル

発表年月日(期間)

2018年3月2日朝刊以降、現在も継続中

授賞理由

国家の運営が荒っぽくなっている。政府が粗暴なら、中央官庁も場当たり的だ。司法はそっぽを向いている。そんな風潮に事実をもって異を唱えることこそ新聞の役目である。平成最後の年の春から夏にかけて、朝日新聞の健闘はみものだった。財務省による森友学園関連文書の臆面もない改ざんを暴き、つづいて首相秘書官や内閣府幹部の「首相案件」発言によって加計学園学部新設が横紙破りで実現したことをスクープした。安倍内閣と官僚らが火消しに走ると、証拠を小出しにして追い打ちをかける。結果、権力者はますます厚かましくなっただけではないか、と言えないこともないが、他メディアも参戦して、永田町と霞が関でものごとがどう動いているかは明らかになった。世論が、政府などなくても世の中はやっていける、と達観するまでは時間がかかるが、政府vs.新聞の対立が世の中を活気づかせ、健全にもすることを示した功績は大きい。(吉岡忍)

受賞者コメント

森友学園の国有地売却問題、加計学園の獣医学部新設問題を通じて、不都合な情報は隠そうとする政府の姿勢が浮き彫りになりました。取材班は「おかしいことはおかしいと指摘しよう」と粘り強く事実を追い続けています。今回の受賞は、権力を監視するジャーナリズムの役割とその価値を改めて認めていただいたものと受け止め、今後の励みにします。

公共奉仕部門 大賞: 連載「駐留の実像」を核とする関連ニュース報道

受賞者氏名

「駐留の実像」取材班 代表 島袋良太(琉球新報社)

発表媒体名

琉球新報

発表年月日(期間)

2017年11月19日~2018年6月9日

授賞理由

日本と同じく米軍基地を抱えるイタリアで米軍機事故(ロープウェイのケーブルが切断され20人死亡)が起きた時に、イタリア側責任者のトリカルコ氏(当時のNATO第5空軍司令官)は米軍高官に「これは取引や協議でもない。米軍が飛ぶのはイタリアの空だ。私が規則を決め、あなた方は従うのみだ。さあ署名を」と告げた。その報告でこのシリーズは始まる。本特集は「日米地位協定」のもたらす犠牲を、日本政府や多くの国民が当然のこととして沖縄に押し付けていた状態の背景に「独立」を忘れたこの国の実体があることを教える。そして今、私たちが妥協に妥協を重ねるうち、ことは日本全土の問題に広がっていたことを、羽田空港の離着陸問題や、オスプレイの全土配備などが教えてくれる。沖縄の地方紙の記事ではあるが、日本全国に問題を投げかけており、この国に具体的な変革をもたらすための大きな役割を果たすだろうと信じる。だからこそ早稲田ジャーナリズム大賞が顕彰すべき特集記事と判断した。(広河隆一)

受賞者コメント

生活や健康に影響を与える環境汚染や航空機騒音であっても、日本の法律で在日米軍を規制できず、事件・事故を検証するために基地への立ち入りもできないといった事象は単に「沖縄問題」なのではなく国家主権の問題であり、周辺住民にとっては自治の問題でもあります。こじれにこじれた「基地問題」の根底に横たわる問題を丁寧に伝えたく、連載を企画しました。身に余る栄誉ある賞をいただき、大変光栄です。受賞を励みに今後も地元報道機関の記者としての役割を果たしていきたいです。

公共奉仕部門 大賞: NHKスペシャル「戦慄の記録 インパール」

受賞者氏名

NHKスペシャル「戦慄の記録 インパール」取材班 代表 三村忠史 (NHK大型企画開発センター チーフ・プロデューサー)

発表媒体名

NHK総合テレビ

発表年月日(期間)

2017年8月15日

授賞理由

歴史を描くことは、現代を描くことにつながる。本作品は、完成度の高いドキュメンタリーとして戦争を描きつつも、現代を生きる日本人に多くの示唆を与え、我々の心を大きくゆさぶる。また、インパール作戦を指揮した司令部にいた元少尉の日記をもとに、大量の現地取材と証言や遺物、肉声テープなどの貴重な資料が、観る者に臨場感を与えている。約3万人とされる死者のうち6割が作戦中止後に命を落とした「陸軍史上最悪」の作戦は、上層部への忖度という日本の美徳によって推進力を得た。そして作戦を認可したはずの大本営は、失敗の責任を現地軍に転嫁した。戦争の現実をつきつけるとともに、現代社会について深く考えさせるインパクトの強い作品となっている。(中林美恵子)

受賞者コメント

太平洋戦争で最も無謀と言われたインパール作戦とは何だったのか。番組スタッフ一人一人が、常に自問自答しながら取材・制作にあたりました。それは、いまなお日本社会や私たちに通底している「体質」を捉え直す作業に他なりませんでした。司令官に仕えた96歳の元少尉の振り絞るような言葉が、放送から1年以上がたったいまも耳を離れません。

草の根民主主義部門 大賞: 『日報隠蔽』 南スーダンで自衛隊は何を見たのか

受賞者氏名

布施祐仁(ジャーナリスト)、三浦英之(朝日新聞社 記者)

発表媒体名

書籍(集英社)

発表年月日(期間)

2018年2月28日

授賞理由

内戦が続く南スーダンに陸上自衛隊の部隊が派遣された。現地は「戦闘」状態ではないのか?武力行使を禁じる憲法9条との整合性は?たった1人で仕事をするジャーナリストが、「情報公開請求」によって「事実」を掘り起こす作業に挑んでいく。政府が隠そうとしていた派遣部隊の「日報」の存在が明らかになり、防衛大臣が辞任した。アフリカで仕事をする1人の新聞記者が、側面支援を申し出る。『日報隠蔽』の一部始終を書籍の形で未来に残しておこうではないか。在野のジャーナリストの孤独な作業を、マスコミの記者が補強する。「事実を伝える」という一点で、「共闘」が成り立った。政府が、防衛省が、いかにウソを重ねてきたか。その軌跡を追って、広がりと深みのある本が出来上がった。筆者2人の異色の組み合わせは、ジャーナリズムの新しい可能性を示している。(秋山耿太郎)

受賞者コメント

新しい試みだったと思う。共著者はそれぞれ在野のジャーナリストと全国紙記者。隠された事実を伝えたい一心で組織の垣根を越えて連帯し、取り組んだ。その点を評価していただいたのであれば、とても嬉しい。一方、作品のテーマとなった日報隠蔽の根にある自衛隊の海外派遣をめぐる構造的な矛盾は、何ら解消されていない。この仕事は「道半ば」であり、今受賞を励みに取材を継続していきたい。

 

第18回(2018年度) 奨励賞

草の根民主主義部門 奨励賞: キャンペーン報道 「旧優生保護法を問う」

受賞者氏名

「旧優生保護法を問う」取材班 代表 遠藤大志(毎日新聞社 仙台支局)

発表媒体名

毎日新聞

発表年月日(期間)

2017年12月3日~2018年6月10日

授賞理由

旧優生保護法下での不妊手術の強制が憲法違反に当たるかを争った裁判の経過報告を軸に114本の記事で構成した重量級のキャンペーン報道だ。手術件数の少ない県に対して国が増加に努めるように求めた文書を独自入手するなど調査報道としても高く評価できる。優生主義というとナチスドイツを連想するが、たとえば断種法は米国で先に作られ、ナチスはそれを模倣したに過ぎない。能力によって命に優劣をつける発想は近代社会の生産効率至上主義が生んだもので実に根が深い。本報道でも遺伝しない障がいを持つ人への処置の強制が明らかになった。能力を欠く障がい者が子を持てば社会の負担が増えると考えて厄介払いをしたのだ。現在でも出生前診断で異常が認められた親の多くが中絶を選ぶ。自発的な選択のようだが、障がい者が差別される社会だから、親としてそれを選ばざるを得ない事情がある。優生主義は形を変え、存続する。報道の継続に期待したい。(武田徹)

受賞者コメント

「なぜこんな法律が平成まで続いたのか」。この問いが取材の出発点でした。強制不妊手術の対象となったのは障害者ら社会的弱者です。時代による人権感覚の違いと問題を矮小化することは簡単ですが、優生保護法の問題を今の社会が考えるべき課題として「再発見」したのは報道の力だと考えます。これからも取材を継続し当事者救済に弾みをつけることが責務と思います。

文化貢献部門 奨励賞: SBCスペシャル「消えた 村のしんぶん~滋野村青年団と特高警察~」

受賞者氏名

「消えた 村のしんぶん」取材班 代表 湯本和寛(信越放送情報センター 報道部記者)

発表媒体名

信越放送(SBCテレビ)

発表年月日(期間)

2018年5月2日

授賞理由

昭和初期に創刊された村の新聞が戦時にあって廃刊を余儀なくされるまでの記録を追ったドキュメンタリー。長野県上田小県地域では、大正末から昭和にかけて郡内の青年団によって発行配布された小新聞があった。好況の養蚕に支えられて当時33の町村でそれぞれ発行されていたという。番組の主役である滋野時報はその一つで昭和二年に創刊し、昭和十五年に県警察の要求のもと自主廃刊を余儀なくされた。番組では、村の自治的気風を大いに涵養したその小新聞廃刊までの経緯を、戦後破棄されずに唯一長野県で残されていた特高警察による検閲牽制の活動史の内容と併せ、立体的に構成しながら描いている。まずこのような自治的な新聞が当時の地元青年団によって数多く発行されていたという事実そのものを広く知らしめたこと、またその陰で歴史を丹念に掘り起こしていく地元郷土史会の地道な活動も紹介される。かろうじて残った記録の大切さ、郷土史の可能性、地方局のなしうることなど、小品だが示唆することは大きい。さらなる地域文化の発展を期待し、奨励したい。(中谷礼仁)

受賞者コメント

小さな農村の青年たちが、政治的な自由や民主主義の理想を求めて自主的に学び、紙上で熱い議論を交わしている姿を見た時、胸が熱くなりました。受賞は、湛山と同時代に言論を戦わせていた彼らへの評価でもあると考えます。組織の大小に関わらず、委縮せず、国民の知る権利に尽くした先人の精神を、我々も受け継いでいきたいと思います。

 

 ファイナリスト作品

※応募受付順

ファイナリスト作品① 「こころ揺らす」

【候補者】堀井友二、村田亮(ともに、北海道新聞 編集局報道センター)
【発表媒体】北海道新聞

ファイナリスト作品② 連載「孤絶 家族内事件」と一連の調査報道

【候補者】「孤絶 家族内事件」取材班 代表 小田克朗(読売新聞東京本社 編集局社会部)
【発表媒体】読売新聞

ファイナリスト作品③ NHKスペシャル「「731部隊の真実」~エリート医学者と人体実験~」

【候補者】NHKスペシャル「731部隊の真実」取材班 代表 西脇順一郎(NHK報道局社会番組部 チーフ・プロデューサー)
【発表媒体】NHK総合テレビ

ファイナリスト作品④ NHKスペシャル「スクープドキュメント 沖縄と核」

【候補者】NHKスペシャル「沖縄と核」取材班 代表 松木秀文(NHK沖縄放送局放送部 制作副部長)
【発表媒体】NHK総合テレビ

ファイナリスト作品⑤ パナマ文書、パラダイス文書に関する、国や会社の壁を越えた共同取材による調査報道

【候補者】「パラダイス文書」報道日本取材班:朝日新聞代表 奥山俊宏(朝日新聞社 編集委員)、共同通信代表 澤康臣(共同通信社 特別報道室編集委員)、NHK代表 加戸正和(NHK大阪放送局報道部 副部長)
【発表媒体】朝日新聞、共同通信、NHK

ご参考

選考方法

下記10名の選考委員からなる選考委員会により、本賞の主旨に照らして、商業主義を廃し、中立公平な立場から厳正な審査を行います。

  • 秋山耿太郎:朝日新聞社元社長
  • 瀬川至朗:早稲田大学政治経済学術院教授(ジャーナリズム研究)
  • 高橋恭子:早稲田大学政治経済学術院教授(映像ジャーナリズム論)
  • 武田徹:ジャーナリスト、専修大学文学部教授
  • 中谷礼仁:早稲田大学理工学術院教授(建築史、歴史工学研究)
  • 中林美恵子:早稲田大学社会科学総合学術院教授(政治学、国際公共政策)
  • 広河隆一:フォトジャーナリスト、「DAYS JAPAN」発行人(第2回本賞受賞者)
  • アンドリュー・ホルバート:城西国際大学招聘教授、元日本外国特派員協会会長
  • 山根基世:アナウンサー
  • 吉岡忍:作家、日本ペンクラブ会長

記念講座『ジャーナリズムの現在』(全学部生対象)

2002年4月より開講。前年の本賞受賞者、選考委員、活動が注目されたジャーナリストの方々を講師として迎えています。また、講義内容を再構成した書籍を刊行。最新刊は『「ポスト真実」どう向き合うか』(編著:八巻和彦、2017年12月、成文堂)。2018年度講義分は本年12月に刊行予定です。

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