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平和を脅かす「構造的暴力」に臨床的に アプローチする

ゼミ紹介

平和を脅かす「構造的暴力」に臨床的に アプローチする

公開日:2010/04/01

「平和学」は、2つの世界大戦をきっかけに登場した比較的新しい学問のジャンル。当初はいかに戦争を防ぐかがテーマでした。しかし今は、飢餓や貧困、人権侵害などの「構造的暴力」を大きな研究テーマとしています。
構造的暴力とは、主体のはっきりしない、社会構造そのものにビルトインされた暴力。これが除去されなければ「平和」ではないというのが、現在の平和学における基本的な考え方になっています。

研究室DATA

多賀 秀敏 教授
平和学ゼミ(社会科学部 政治学分野 国際関係論)
所在地:早稲田キャンパス14号館

平和学は「臨床研究」

 平和学ゼミとは、どんな勉強をするのでしょうか。「扱う範囲は非常に広く、言ってみれば地球規模の問題から身の回りの問題まで」だと多賀先生は言います。広すぎて捉えどころがないように思いますが...「たとえば自殺が増えているという現象に対し、自殺とは何かを考えるのは医学で言う基礎研究。どう対処したらいいかと考えるのは臨床研究。平和学は臨床研究なんだ」。つまり、平和を脅かす様々な問題に〝どうしたら解決するか〟という観点でアプローチする学問、ということのようです。
 ゼミは2年生から4年生まで合同の授業。毎回、発表→議論→先生の補足説明、という流れで進められます。2年生は先輩から与えられたテーマを分担して調べ、発表します。3年生は2~3人のグループで、それぞれのテーマで研究発表。4年生は発表を聞いて自分の意見を述べ、議論を活性化するのが役目です。

 こうした勉強のほか「教室の外のことも大切」と多賀先生。「以前は、みんなで難民キャンプに行ったりしていた。最近の学生は自分で海外へ行くからもうやってないけどね」。インドの片田舎の飲み屋で、ふと隣を見たら同じゼミの学生がいた...という逸話があるくらい、歴代のゼミ生たちは海外へ飛び出していたのだそう。先生は、ゼミ生がいずれ海外で平和にかかわる仕事をすることを期待しているのでしょうか?「いや、好きなことをやればいいんだよ。JICA(国際協力機構)に就職した卒業生もいれば、医者になったやつもいるし、パイロットになったのもいる。どれもまっとうなことだと思う、このゼミはある意味、一般教養だと思っているから。ここで学んでいってほしいのは、ものの見方や研究の仕方。知識なんかあとでいくらでも得られるんだから」

この日のゼミ発表のテーマは「生物多様性」。議論は環境問題から「生物とは何か」まで及んだ。

左:渡部友晃さん 右:久保展和さんの2年生コンビ。「先生はめっちゃ頭いいよね」「この世のこと全部知ってるんじゃないかと思うことがある」「唯一知らないのは、ゼミ生の名前だ(笑)」

「ゼミラブ」って人、多いです!

「好きなことをやっていい」「卒論は、書きたいやつだけ書けばいい」と言う先生。かなり自由なゼミですが、その一方で『5つの訓戒』というものが存在するのです。
(1)食べ物を残すな
(2)友だちがいのないことをするな
(3)軽犯罪を犯すな
(4)老人(注・先生を含む)をいたわれ
(5)ゼミには這ってでも出てこい

 この訓戒、みんな守っているんですか? と聞くと、「はげしく守ってます!」と答えてくれたのは、4年生の安藤萌さん。「飲み会では全部食べつくすし、ゼミも毎回出席してます。自主性を重んじるゼミなので、先生はあまりあれこれ言わない。唯一言われるのがこの訓戒なんです」
 南部徳馬さんも「守ってますよー。ゼミには100%出席してます。一見すれば、あのゼミは好き勝手に勉強しているだけだと思われかねない自由度ですけど、『平和』への思いを持った、個性豊かな仲間が揃っていて、ときには喧々諤々の議論もできる。こんな場は他にはないですから、みんな出席率はいいです」。
なるほど、這ってでも出てこいと言われなくても、出席したいゼミなんですね。「そう、ここは家族っぽいから、ゼミが自分の居場所、ゼミラブって人多いですよ(笑)」(安藤萌さん)

 年に一度は、歴代のゼミ生が集まる「周行会」なるものが開かれ、世代を越えた交流もあるのだそう。卒業してからもつながりが切れない「家族のような居場所」、それが多賀ゼミのようです。

4年・安藤 萌さん
「昨年はアフリカへ行って、森林保護のボランティアをしてきました」

3年・南部 徳馬さん
「今取り組んでいるのは上座部仏教について。内面に向かう宗教は、いかに社会と融合できるのか・・・ニッチなところをついてすいませんが(笑)」

先生からのメッセージ

 平和は単に戦争のない状態を意味するのではありません。貧困・格差、環境問題、人権など地球的問題群すべてが研究対象です。その大前提として、平和学ゼミでは、食べ物を残さない、友達甲斐のないことをしないと教えます。それ以外は、自由闊達、もっとも早稲田的なゼミです。

先輩からのメッセージ

 大学は、世界に対する些細な問題意識を「新たな知識」と「思考力」と「想像力」によってさらに深めることができる場所です。社会に対する疑問、日常のささやかな疑問を大切にしてください。受験そのものに活きなかったとしても、それが大学生活の豊かな勉強のタネになります。

3年・南部 徳馬さん

このゼミを目指すキミに先生おすすめの本

平和の政治学』石田 雄著(岩波新書)
現代の戦争と平和の理論』関 寛治編訳(岩波新書)

この2冊は、日本語で読めるクラシックス(古典)としてお勧めします。
前者は、平和の多義性を、後者は、ラパポートという平和学の「開祖」の一人がゲームの理論を使って紛争や戦争の分析方法を示したものを、これまた日本の平和学の開祖の一人、関寛治先生(故人)がまとめて訳したものです。

現代世界の民主主義論』白鳥 令・曽根 泰教編著(新評論)

平和学の範囲の広さを知るには、拙稿でお恥ずかしいのですが、(この本に収録されている)「J・ガルトゥングの世界分析」を読めば一目瞭然です。
以上3冊はみな古い本なので図書館などで探してください。

平和研究講義』高畠 通敏著(岩波書店)
戦争を知るための平和学入門』高柳 先男著(筑摩書房)

まだ本屋さんで買えるものとしては、こちらの2冊などがよいでしょう。