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「言葉を使うこと」が人に及ぼす影響とは? 臨床心理学の現場に結びついた言葉・身体・脳の研究を行う熊野研究室

ゼミ紹介

「言葉を使うこと」が人に及ぼす影響とは? 臨床心理学の現場に結びついた言葉・身体・脳の研究を行う熊野研究室

公開日:2012/02/10

人々の不安や落ち込み、動悸や頭痛など身体の変調、不登校など生活上の問題に影響する、個人個人の思考パターンや行動パターンに着目する治療法「認知行動療法」について、臨床行動分析グループ、メタ認知グループ、応用脳科学グループに分かれて研究を行う、臨床心理学系の研究室です。研究対象は不安障害、気分障害、摂食障害、糖尿病、メタボリック症候群、など。

研究室DATA

熊野 宏昭 教授
熊野 宏昭研究室(人間科学部 健康福祉科学科)
所在地:所沢キャンパス

言葉・身体・脳の関係をデータを元に科学的に解明

 人間科学部健康福祉学科。臨床心理系、福祉系、生命・健康科学系の3つの分野の中で、今回取材に訪れたのは、熊野宏昭先生の「臨床心理アセスメント学研究室」。「アセスメント」とは評価、査定などという意味ですが、どういう研究なのでしょうか?

 「心理療法やサイコセラピーを行う場合に、支援過程をどう組み立てて、どうチェックして、どう改良していくかをデータに基づいて考えていこうという立場で『アセスメント』を強調しています」。心の問題も論理的、科学的にきちんと支援していくにはアセスメント方法の確立が重要。身体そのものの病気の場合に、診察や検査を確実に行うことが治療の基盤となるのと同じなのですね。

 研究室は「臨床行動分析」「メタ認知」「応用脳科学」のグループに分かれています。専門用語で内容の想像がつかない!という印象を受けますが、先生は例としてこんなことをあげてくださいました。精神的な理由で電車に乗ることに恐怖を覚えてしまう患者さんに、こんなふうに自分を客観視してもらいます。「頭で考えたことはすべて現実なのか」→「現実じゃないことも想像できる」→「たとえば『自分は立てない』と考えながらでも立つことはできる」→「『自分は電車に乗れない』と考えたことも、現実というわけではない」と、自分の考えにとらわれる必要はないんだということに気づけば、恐怖を克服できるようになる...。人間の行動や身体って、言葉や考えにそんなに影響されているんですね。「『言葉を使って考えるということはどういうことなのか」ってこと自体が研究対象になっていて、それを治療に生かしていこうというのが大きなテーマひとつなんです」。

 一方、脳が心や身体を絶対的に支配しているのではない!ということも研究しています。それはズバリ「心が変われば脳が変わる!」。なんと、ある動作を集中して練習すると、脳の特定部位が大きくなるのだそうです! 筋肉と同じ、まさに脳トレ! さらに、これは動作だけではなく、 セルフコントロールする力を高めるといった心のトレーニングでも同様で、特定のプログラムを何度も練習することで前頭葉の働きを高められるのです。前頭葉は注意・集中をコントロールする機能と関係しているとのことですが、先生、これを練習すると頭もよくなったりします!?

 「もちろんもちろん(笑)。スポーツと同じで、基礎的なトレーニングをやってから勉強すれば効果的なはずですよ」。この研究が進めば、人々の学習方法もぐっと進化するかもしれません。

ゼミの時間は2コマ分、3時間の長丁場。実験結果をデータ化し分析するなど、グループごとにどんどん研究を進めていきます。

データを取るにも、いろいろな方法があります。こちらは実験ではなく、心理テストを作るための項目をふせんを使って分析中。

多角的な視点プラス理論&現場の両軸で研究を進めます

 熊野研では3年生も「プレ卒論」として、論文を書くそうです。ここでデータ収集や解析方法などを学び、卒業論文につなげていくのです。プレ卒論のテーマはグループ内で書籍や論文を読み、自主的に考えて決定するとのこと。ゼミ生たちは、週1回のゼミのほかにも自主的に論文やテキストを読んで発表する勉強会も行っています。「倍率の高い研究室ということもあって、みんな勉強をしたがっていて、ゼミを楽しみにしていますね」と、3年生の川島さん。同じく3年生の富田望さんも「みんなが真剣で、勉強の話をできる仲間がいる、幸せなゼミです」とお互いに切磋琢磨している様子がうかがえます。

 「心理学」にもいろいろな分野がありますが、富田さんは脳の観点から見るということに興味を持って熊野研究室を選択。そして富田さん、川島さんとも応用脳科学グループで「観察学習」、たとえば他人が手を動かしているのを見ていると、自分の脳の「手を動かす部分」も活動するという理論をプレ卒論のテーマに選びました。熊野先生によると「手術の現場を見ただけで、あとで自分が手術するときに勝手に手が動く(!)」という現象なのですが、これを脳の血流の変化を調べることで研究します。

 熊野研究室は、「3つの柱があって、先生がそれぞれの視点を持っているので、私たちもひとつの視点に凝り固まらないで「じゃあこっちの視点から見たら?」と多角的に見られるのがいいところ」(富田さん)。熊野先生が心療内科医であり臨床心理士であるという経歴の持ち主であることから、先生が勤務する病院を見学させてもらうこともでき、理論だけではなく生の臨床の現場を見られるのは、このゼミならではのメリットだそうです。

 「言葉で考えたことが人に与える影響」を考える「臨床行動分析」、「自分が考えていること自体をどうとらえていくか」という「メタ認知」、「脳の機能を高めることで心理療法を支える」研究をする「応用脳科学」。この3つの側面から心を捉え、科学的基盤を明らかにする。そしてそれを治療に生かしていく。熊野研究室で、脳や行動の科学から自分を理解してみませんか?

このグループは今、動きを見ているだけで覚えてしまうという「モデリング(観察学習)」という学習理論を研究しています。上手な人の競技をずっと見ていると、自分も練習しなくても身体が動くようになるという学習過程。このトランプさばき、見てるだけで本当にできるようになるの!? 「まあ、完全にできるようになるかは...(笑)」(川島さん)

先生からのメッセージ

 人間科学部のいいところは文系も理系もどっちでも入ってこられて、理系の科目なら生命系、情報系、工学系、文系の科目も心理学や社会学を中心に非常に豊富なので、文理両方自由に勉強できるところです。心理士として働きたいとか、自分のことや身近な人のことを、今までとは違った面から理解してみたいという希望のある人はぜひ来てください。

先輩からのメッセージ

 高校のときは理系でしたが、精神医学や臨床心理学に興味があって、「脳」の観点から見るのがおもしろくてこのゼミを選びました。人間科学部では医学的な方面からも学べるのがいいですね。熊野先生自身もお医者さんなので、現場の知識を浴びるようにもらっています。

3年・川島 一朔さん

先輩からのメッセージ

 私は高校のときは文系でしたので、「脳科学」なんて初めは不安でしたが、勉強してみると、理系・文系関係なく学べると思いました。統計学の授業が学生のレベルごとに用意されていたり、数学でもサポートはあるので、文系の人も心配しなくて大丈夫です。文学部や教育学部の心理学系研究室では分野が限られますが、人間科学部では認知、社会、いろんな心理学から自分で選べるので選択肢が広がります。

3年・富田 望さん

このゼミを目指すキミに先生おすすめの本

ストレスに負けない生活 ―― 心・身体・脳のセルフケア』熊野宏昭・著(ちくま新書)

 ストレスとリラクセーションのメカニズム、生活習慣と心身の深い関係を科学的に説明しながら、「力まず・避けず・妄想せず」をキーワードに、自分でできるストレス・マネジメントの方法を伝授します。

マインドフルネスそしてACTへ 二十一世紀の自分探しプロジェクト』熊野宏昭・著(星和書店)

 「マインドフルネス」とは「今の現実をあるがままに受け止め、それに対する思考や感情にはとらわれないようにする心の持ち方」という意味、「ACT」とは「アクセプタンス&コミットメント・セラピー」の略で、無益な行動を生み出す言葉にとらわれず柔軟に生きるためのセラピーのことです。マインドフルネスという、2600年前にブッダが提唱した心の持ち方と、認知行動療法の最前線を結び付けながら、読者の「自分探し」を助けます。