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「組織」や「人材」に注目して「企業」を研究する 井上ゼミ

ゼミ紹介

「組織」や「人材」に注目して「企業」を研究する 井上ゼミ

公開日:2013/12/13

多くの人にとって働く場となる「企業」について、「組織」や「人材」といった面を中心に、構造や機能から、運営、管理方法などまで幅広く研究していきます。また、研究を進めていく上で必要になる分析手法なども併せて習得します。毎回のゼミでは、学生が自ら設定したテーマに関して研究報告をし、それに対する質疑応答を学生全員で行います。

研究室DATA

井上 正 教授
企業論研究演習(社会科学研究科 政策科学論専攻)
所在地:早稲田キャンパス14号館

複数の企業の状況から共通要因、一般性を見つけ出していく

 「企業論」という場合、事業内容やマーケティング、生産管理、コーポレート・ガバナンス(企業統治)など、さまざまな切り口が考えられます。このゼミでは、中でも企業の「組織」や「人材」といった「人的資源」に研究の重点を置いています。「人的資源」に注目する意味はどこにあるのでしょうか?

 井上先生は、お金や設備など他の経営資源と、人的資源には大きな違いがあると言います。「たとえば、100万円のお金には100万円分の価値しかありません。モノも、それ自体の価値は変わりません。でも、人は違います。まったく同じ人間でも、その人のやる気次第で給料以上の働きをすることもあれば、給料未満の働きしかしない場合もあります」。

 「やる気の有無」で仕事の結果が大きく異なります。そのため、「人の場合は、働くための動機づけが非常に重要です」と井上先生。「業績が伸びる企業と伸びない企業では人的資源の差が大きい場合が多いので、組織や人材について研究することには意味があるんですよ」。

 もちろん、「給料を上げれば業績が上がる」というような簡単な話ではないとのこと。「その企業が属する業種や置かれている環境などでも事情は変わってきますし、こうやれば必ずうまく行くという答えはありません。そこが、この分野を研究する面白さでもあると思います」。

 個別の企業については、その組織の中で働く人(従業員)のほうがよくわかっていることも多いと井上先生。ただ、組織の中にいると、視野が狭くなって、ほかの企業や外国の状況を客観的に見ることは難しくなることもあるのだとか。「大学院の研究では、ひとつの企業を研究するというよりは、複数の企業を分析して、そこから共通要因、一般性を見つけていくことが重要です。そうすると、実際に企業で働く人たちにとっても有用な研究になります」。

毎回のゼミは雑談からスタート。留学生が大半を占めるので、言葉や文化の違いが雑談のテーマになることもよくあるのだとか。教室の雰囲気が十分暖まったところで、学生のレジュメ発表へと移ります。

学生とのやり取りでは笑顔が絶えない井上先生。「何でも話せる雰囲気なのがいいですね。留学生には敬語が難しいんですが、井上先生にならざっくばらんに話しても大丈夫かなと思います(笑)」(劉さん・修士2年)。

日本の経営に興味を持つ留学生が多数を占めるゼミ

 では、具体的にはどんなことが研究テーマになるのでしょうか。たとえば今年度は、「日本の老舗企業」をテーマに選んだ学生がいるとのこと。「中国からの留学生なんですが、中国ではまだ国営企業が大半で、民営化すると割と短期間で潰れてしまうらしいんです。一方、日本では何百年と続く民間企業が数多くあります。そこで、なぜ日本には老舗企業が多いのか、その理由を探ると共に、どうすれば中国の民間企業にその方法を応用できるのかを研究しています」(井上先生)。

 また、「先輩からのメッセージ」にも登場している中国人留学生の劉雨琦さんは、「中国の模倣品(コピー商品)」について研究中です。「もともとは日本の自動車産業をテーマにしようと思っていましたが、車のトレードマークを見ていくうちに『模倣』というテーマが浮かんできて、自動車より模倣にテーマを絞ったほうが面白いと考えて最終的なテーマを決定しました」(劉さん)。中国でコピー商品が数多く作られる理由や、減らすための方策などを調査・考察しているそうです。

 研究テーマは、学生自身で考えるのが基本。でも、テーマや進め方で困ったときには、井上先生が親身になって相談に乗ってくれます。取材に伺った日のゼミでは、ある修士1年生が研究テーマを絞り込めずに悩んでいました。日本と中国のM&A(企業の買収・合併)の比較研究、海外企業の日本進出など、複数のテーマに興味があるというその学生に、井上先生は「M&Aのどこに興味があるの?」「中国企業の日本進出に絞るのはどう?」など質問を投げかけながら、テーマを絞り込むためにアドバイスしていました。

 ところで、このゼミには隠れた特徴があります。それが、外国人留学生の多さ。特に留学生に向けた授業をしているわけではないそうですが、例年、学生の多くを留学生が占めるとのこと。「今は、中国人が7名、日本人が2名、ロシア人が1名の合計10名ですね。ちょっと中国人の比率が高すぎるかもしれません(笑)」(井上先生)。企業論自体はアメリカが最も進んでいるそうですが、「雇用形態など日本の企業には特殊な部分も多く、留学生にとっては興味を引かれるのではないでしょうか」。

 「進学が決まってから、中国人留学生が多いことを知ってびっくりしました」と話すのは、修士1年の川窪洸介さん。「学部時代は、周りに留学生がほとんどいなかったので新鮮ですね」。意外だったのは、留学生はカタカナ言葉をあまり使わないことだとか。「ビジネス用語は外来語が多いですが、日本語にするかきちんと英語として言わないと通じないことも。でも、いろいろな考え方に触れられてすごく刺激的ですね」。企業経営について研究できるのはもちろんのこと、意図せずグローバル感覚を身につけられることも、このゼミのメリットと言えるかもしれませんね。

留学生が多くても、講義での会話は基本的に日本語。「婉曲的に話す日本人に比べると、外国人留学生はストレート。その分、結論が早くて、話がすぐにまとまることも多いですね」(井上先生)。

先生からのメッセージ

 大学院は大学の先ですから、高校生のみなさんにはまだイメージしづらいかもしれませんね。大学院での研究は、単に与えられた課題を解けばいいというものではなく、正解も必ずしもひとつではありません。そもそも課題自体を、自分で考えて見つける必要があります。研究対象は「企業」ですが、企業のあり方は時代と共に変化していますから、たとえば同じテーマで研究をしても導き出される結論はまったく違うものになる場合もあります。難しいと言えば難しいですが、でもだからこそ面白いのではないでしょうか。

先輩からのメッセージ

 学部生のときは、理系の大学で学んでいました。卒業研究の内容が社会科学系寄りで、それがすごく楽しかったのでもっと研究を続けたくなったんですが、母校の大学院にはそうしたテーマを扱う研究室がなかった。・・・というのが、早稲田の大学院に進んだ理由です。高校生のときに進路を考えることは大切ですが、私のように大学に入ってから本当にやりたいことが見つかる場合もあります。だから、とにかくいろいろチャレンジしてみるといいと思いますよ。

修士1年・川窪 洸介さん

先輩からのメッセージ

 中国・大連の大学で日本語と経営学を学んで、3年前に来日しました。一度は自分の目で日本を見ないと、後悔するかもしれないと思ったので(笑)。中国から出した問い合わせメールに井上先生が返信をくれたことがきっかけで、早稲田の社会科学研究科の大学院に進学しました。「中国の模倣品」をテーマに研究を進めています。今は、中国での現地調査や先行研究が終わって、本論を書き始めたところです。修了後は、日本で働いてから中国に戻りたいと考えています。

修士2年・劉 雨琦さん

このゼミを目指すキミに先生おすすめの本

組織の限界』ケネス・J.アロー著/村上 泰亮訳(岩波書店・岩波モダンクラシックス)

 ノーベル賞受賞者である著者が、組織について書いた啓蒙著です。経済社会における意思決定主体としての組織の重要性や、市場そのものも内部構造を持つ組織として捉えることの有効性などを指摘し、組織と市場の関係を述べています。1976年刊の再刊。

コーポレート・ガバナンスの経営学』加護野 忠男、砂川 伸幸、吉村 典久著(有斐閣)

 企業は誰のために存在するのかと言う企業統治(コーポレートガバナンス)の問題を、歴史や諸外国との比較を通じて多角的に考察しており、企業とは何かを考える糸口を与えてくれます。