NO.893 Mar.25,2000 卒業記念号
ご卒業おめでとうございます! 皆さんの門出に寄せて・・・


ミレニアムの世界へ翔く若人へ 総長 奥島孝康

奥島孝康総長  二十一世紀まで余すところ九カ月あまりとなった。しかし、二十一世紀の世界はいまなお深い霧の中にある。それどころか、わが国の前途にも、なお明るい陽射しがさしかけてきているようには思えない。諸君は、新世紀の産みの苦しみの最中(さなか)にあるミレニアムの世界へ翔くことになる。どうか元気に、そして、ワセダの伝統である開拓者精神をもって、二十一世紀の扉を押し開いていただきたい。

 いまから六十年近く前のことである。永井柳太郎と並んで、雄弁をもって早稲田を代表する中野正剛は、昭和十七(一九四二)年十一月十日、大隈講堂において、「天下一人を以て興る」という演題で、二時間半にわたり、時の首相・東條英機を弾劾する大演説を行った。もとより、私とて、ヒトラー礼讃、ナチス讃美の中野正剛に対する批判を知らないわけではない。しかし、この点については、一切を室潔教授(教育学部)の労作『東條打つべし―中野正剛評伝』(朝日新聞社、一九九九年)の分析に譲り、ここでは、時の最高権力者・東條の執拗な弾圧にも屈せず、東條内閣の倒閣運動に執念を燃やし、ついに割腹による自決をとげた大先輩・中野の気骨と気概を伝える歴史的大演説の結びの一節を、あの戦時下の状況と同じく日本の命運の岐路にあるこの時期に卒業する諸君への餞(はなむけ)として贈りたい。

 中野はいう。「諸君は、由緒あり、歴史ある早稲田の大学生である。便乗はよしなさい。……歴史の動向と取り組みなさい。天下一人を以て興る。諸君みな一人を以て興ろうではないか。日本は革新せられなければならぬ。……日本の巨船は怒涛の中にただよっている。便乗主義者を満載していては危険である。諸君は自己に目覚めよ。天下一人を以て興れ、これが私の親愛なる同学諸君に切望する所である」と。  諸君もよく承知しているように、最近までの日本は、個人よりも組織が尊重された。国の運営は「護送船団方式」であり、企業の経営は「企業一家」を中心とする「ネットワーク・キャピタリズム」であった。そのため、社会的には「横並び意識」を増殖させ、「赤信号、皆で渡れば恐くない」とばかりに、国全体が奈落の底へと落下した。日本人の行動様式は、戦前の「一億総玉砕」から戦後の「一億総中産階級意識」へと変化したという程度の違いにすぎず、そのメンタリティーに基本的変化はない。かかるメンタリティーこそがこの近々六十年間に、二度目も国難を招いた元凶であろう。これは、明らかに、わが国の国づくりの失敗である。

 かつて、本学の前身東京専門学校の開校式において、本学の精神的支柱といわれる小野梓は、「一国の独立は国民の独立に基いし、国民の独立は其の精神の独立に根ざす」と喝破し、福沢諭吉は、「一身独立し、一国独立す」と吼えている。私学の両雄が期せずして、一国の独立は、国民一人ひとりの独立が大前提であることを説いているのである。そこに早慶両校の面目があり、そこにわれわれの存立の基盤がある。すなわち、本学の「進取の精神」とは、「自恃自信、自反自責、自活自修」(坪内逍遙)という個を基礎にするところから、自ずと生まれてくる自主自律の精神をいうのである。それはまた、言葉を換えれば、「天下一人を以て興る」の気概ということにもなろう。

 中野は、あの戦時下の恐怖の憲兵政治といわれた弾圧の下で、一人公然と東條と対決し、「東條討つべし」と叫んだ早稲田人であった。たしかに、中野は「ナチスかぶれ」ではあったが、彼がかぶれたのはヒトラーだけではなかった。フランスのクレマンソーにも、イギリスのチャーチルにも惚れこんだ彼の性癖からすれば、中野が惚れたナチスというのは、実はナチスの「大衆運動」のスタイルにすぎないとする室教授の分析は鋭い。その意味で、中野は大衆政治家といわれた大隈の申し子であったというべきであろう。だからこそ、彼は孤立を恐れなかった。彼は自立した国民の支持を確信していたからである。国民が目覚めれば、天下は、まさしく中野一人を以て変わるかもしれないではないか。

 諸君、中野は、「便乗主義者となるな」という。大勢に順応し、付和雷同することは易しい。たしかに、「流される」という生き方もないわけではないであろう。しかし、諸君は、進取の精神を学んだワセダニアンである。いま、世界は急速に「マーケット・キャピタリズム」の方向へ向かいつつある。これからのボーダレスの世界に立ち向かうためには、組織の力よりも個の力を強めなければならない。その意味では、ようやくワセダニアンの出番が廻ってきたのである。諸君は、思う存分このキャンパスで培った力を発揮して、二十一世紀の時代の精神を打ち立てて欲しい。

 「天下一人を以て興る。興らざるは努力せざるにある」という中野の言葉を胸に抱いて、この学窓からミレニアムの世界へ、勇気凛凛諸君が翔いてくれることを期待する。

学部長・研究科委員長からの贈る言葉

人生、七転八起政治経済学部長堀口健治
失敗は尊い月謝法学部長田山輝明
敢然と挑戦し堂々とことに当ろう第一文学部長吉田順一
ことばが開く世界、こころで育む宇宙第二文学部長中島国彦
學如不及教育学部長津本信博
未来を切り開く商学部長大塚宗春
忍は苦くその実は甘し理工学部長宇佐美昭次
うれしいときもかなしいときも「都の西北」社会科学部長那須政玄
何事に対しても自然体姿勢で人間科学部長加藤清忠
現世を忘れぬ久遠の理想政治学研究科委員長伊東孝之
高くなくても良い生きる目標をもて経済学研究科委員長佐竹元一郎
人生に挫折はつきまとう。大事なことは、それに立ち向かう勇気と、そこから学びとる姿勢だ。法学研究科委員長宮坂富之助
しなやかな感性、明晰な思考文学研究科委員長加藤民男
微笑もて正義を為せ商学研究科委員長小林俊治
弱時強笑理工学研究科委員長逢坂哲彌
容易な道を選んではならぬ教育学研究科委員長中島峰広
人を鏡とせよ人間科学研究科委員長嵯峨座晴夫
和して同ぜず社会科学研究科委員長古賀勝次郎
確固たる信念と柔軟な判断力の両立を!アジア太平洋研究科委員長後藤乾一
*卒業記念号では、自筆のメッセージをいただいております。

125周年シンボルマークグローカルユニバーシティへ、第二の建学
―第二世紀に向けた・志学としての早稲田ビジョン―

総長・奥島孝康


創立百二十五周年に向けて

 二〇〇七年、本学は創立百二十五周年を迎えます。創立者・大隈重信は、常々「人間は本来、百二十五歳までの寿命を有している。適当なる摂生をもってすれば、この天寿をまっとうできる」という「人生百二十五歳説」を持説として唱え、当時のジャーナリズムにも度々取り上げられたほどでした。そのため、本学においてはかねてから、この「百二十五」という数字がまことに意義深いものとして語られ、また本学の歴史上特に重要なエポックとみなされてきました。
 例えば、創立四十五周年(一九二七年)に竣工した大隈講堂の塔は百二十五尺(約三十八メートル)に設計されていますし、一九六三年には、大隈重信の生誕百二十五周年記念行事が催されました。
 そして、創立百二十五周年。私は、二十一世紀の初頭でもある二〇〇七年を、本学第二世紀の幕開けと位置付け、これを機に新しい世紀に相応しい大学を創造すべく、全学の目標を「グローカル・ユニバーシティの実現」としたのであります。

「グローカル・ユニバーシティ」とは

 私立大学とは、「志によって立つ大学」(・志立大学)であり、「建学の精神」を堅持しなければならない、というのが私の基本的な考え方であります。本学の建学の理念は、教旨にも明示されていますように「学問の独立」「学問の活用」「模範国民の造就」であります。この理念を二十一世紀に向けてさらに具現化するために、「地球市民の育成」(模範国民の造就)、「独創的な先端研究への挑戦」(学問の独立)、「全学の生涯学習機関化」(学問の活用)という三つの目標を設定し、これを早稲田大学の第二世紀宣言として、ソフト・ハード両面にわたる抜本的な改革に着手することにいたしました。この改革のメインコンセプトが「グローカル・ユニバーシティ」であります。グローカャ刀Eネットワークを築くと同時に、グローバル化の波に押し流されないローカルな魂、つまり建学の理念というアイデンティティをさらに強めることを目指すものであります。

第二世紀宣言

1.グローバルな視野で時代的課題に挑戦し、ローカルな魂と行動力を持つ地球市民を育成します。
:共生の哲学を持ち、地球と人類の未来に貢献することを生きがいとし、深い教養とグローバルな視野を身につけて、時代の要請するさまざまな難問に果敢に挑戦する「地球市民」を育成します。

2.地球規模の課題に組織的に取り組み、人類の未来と二十一世紀の新しい産業の創出に貢献します。
:「学問の独立」を建学の理念の一つとして掲げる本学では、これまでにもさまざまな地球・人類的課題に挑戦し、その成果を社会に還元してきました。この実績を基盤とし、新たな諸問題に果敢に挑戦することができる新しい組織原理による研究体制を整備・構築します。

3.すべての世代に開かれた生涯学習機関化をはかり、豊かな人生の実現に貢献します。
:全学を、学びを志すすべての世代に開かれた生涯学習機関化とすることで、人生をアクティブに「成熟の過程」ととらえ、豊かな人生の実現に貢献します。

創立百二十五周年記念事業

 以上のコンセプトのもと、二十一世紀を見据えた教育研究の展開を可能にし、社会の要請に応えうる人材を養成するために、ここ十年来、現キャンパスの施設設備の整備、充実を急ピッチで進めて参りました。現在では大久保、戸山の各キャンパスに引き続き、西早稲田のメイン・キャンパスの再整備にも着手しました。中でも、高度の教育研究環境を実現する上で、特に緊急を要し、かつ社会的意義が高いと思われる八つの事業を、創立百二十五周年記念事業として選定いたしました。

(1)マルチメディア・ネットワーク型授業をさらに推進することによる地球市民育成の場としてのインテリジェント教育研究棟の建設
(2)学生の自主性を尊重し、多彩な人材が切磋琢磨しあいながら自由闊達な早稲田文化を創造する場としての新学生会館の建設
(3)早稲田文化発信の拠点としての大隈講堂の多機能型文化ホールへの再生
(4)地球規模の課題に組織的に取り組むためのプロジェクト型研究所の設置
(5)世界レベルの教育研究を実現するための「創立百二十五周年記念チェア」(冠教授・冠講座)の設置
(6)学生の国際交流を促進するための奨学金制度の拡充
(7)博物資料の充実・電子化を図ることにより文化的価値の高い学術資料を世界へ公開するための博物館の拡充。
(8)学内の逐次刊行物を集約し、その利便性の向上と公開を促進するための雑誌センター・電子図書館の設置

 これらの創立百二十五周年記念事業は、本学の目標を達成するための準備作業の一部にしか過ぎませんが、二十一世紀に期待されるハイレベルの大学教育と志の高い学生の育成を目指し、社会の期待・要請に応えていくためには必要不可欠の事業と位置づけております。特に(1)(2)(3)の事業につきましては、募金対象事業として、本年四月より、校友をはじめとする皆様に対して広く募金を呼びかけることにしております。
 大学としても公的資金の導入をはじめ、収益事業の展開、経費の節減、業務の合理化などの自助努力を続けているばかりではなく、教職員が率先して自ら募金への拠出を進めておりますが、厳しい財政状況のもとで、なお、多額の資金を必要としています。今日の困難な経済状況については充分に承知いたしておりますが、これらの事業の趣旨をご理解いただき、何とぞ格別のご支援とご助力を賜りますようお願い申し上げます。また、今後とも新生への意気に燃える早稲田大学に是非ともご注目いただくとともに、母校の発展に熱い眼差しを向けていただきますよう、重ねてお願いいたします。

▲ページのトップへ戻る
▼目次へ戻る