NO.874 Jul.1,1999
2007年「グローカル・ユニバーシティ」の実現に向けて
−早稲田大学の第二世紀宣言−


 二〇〇七年、本学は創立百二十五周年を迎える。百二十五という数字は、創立者・大隈重信が唱えた「人生百二十五歳説」に由来する数であり、本学にとっては大変意義深い数である。また、二〇〇七年は二十一世紀という新しい世紀の初頭でもある。
 本学ではこれを機に、改めて本学の存在意義を確認し、新しい世紀に相応しい大学の構築を目指したいと考えており、現在、学内の諸機関において早稲田大学の将来像を描く「第二世紀のグランドデザイン」を検討している。
 二十一世紀が目前に迫った今、早稲田大学はこれからどうなっていくのか、学生の皆さんも関心のあるところだろう。そこで本紙では奥島孝康総長を取材。二十一世紀の早稲田大学像、早稲田大学の第二世紀に向けてお話を伺った。

◆早稲田大学は何を目指すのか

奥島孝康総長 本学が「グローカル・ユニバーシティ」を合言葉に大学改革を進めているのは皆さんもご存じの通り。この改革は四年前から推進されているが、「グローカル・ユニバーシティ」とは果たしてどのような大学を指すのだろうか?
 「グローカルとは、グローバルとローカルの合成語です。グローバルには、国際的な視野や国際間ネットワーク、諸制度の国際標準といった意味が、また、ローカルには、学生の地方性の回復や本学の独自性強化という意味が込められています。要するに、教育研究における国際化を積極的に推進しながら、経済の国際化の波に押し流されないアイデンティティを個人レベルでも、大学・学部レベルでも確立しようということです。大学審議会の答申(一九九八年十月二十六日付)は、『競争的環境の中で個性が輝く大学』づくりを提言していますが、これはまさに本学の打ち出している『グローカル・ユニバーシティ』そのものを意味するものであり、時宜に適った戦略目標であると自負しています」と総長は語る。

◆「地球市民」の育成に向けて

 また、本学で育成すべき人材は「地球市民」である、と言われているが、「地球市民」とはどのような人材を指すのだろうか?
 「共生の哲学を持ち、人類社会の福祉の発展に貢献することを生きがいとし、深い教養とグローバルな視野を身に付けて、さまざまな難問に果敢に挑戦し、行動する個性豊かで志の高い人間が『地球市民』であると言えます。本学では今後、そのような人材を育成するための教育改革として、次のようなソフト・ハード両面の改革を推進していきたいと考えます」

○教育研究のレベル・アップを実現するための教員スタッフの充実…国内外の第一線で活躍する学者・実務家を教員として迎え、教員数を増加する。
○個性間の摩擦熱による教育効果を高めるための入試改革…知識偏重を是正し総合的な学力を問うAO入試や社会人入試など、多様な入試形態を導入することで、地方出身者、留学生、社会人など異なるバックボーンを持つ学生が共に学び、刺激を与え合う教育環境を創出する。
○アジア太平洋“Study Abroad Program”の実現…海外交流協定校を現在の百四十校から二百校に増加し、交換制度による留学生の派遣・受入を各千人まで拡大する。
○諸制度の国際標準化…セメスター制を導入、英語による授業を多数設置する。
○リベラルアーツの充実…真に教養を身に付けた人材を育成するため、リベラルアーツ系(教養諸科学)を充実する。
○学部・大学院の一貫教育による専門家の育成…より高度な実務専門家を社会に送り出すため、学部段階の専門教育と大学院との有機的交流を図り、インターンシップ等も導入し、より実践的方法による人材の育成に努める。
○ネットワーク型授業の展開・教授法の改革…電子化された情報やインターネットを活用し、国内外の大学との共同授業やディベートなど、ネットワーク型の授業を展開し、そのための教室環境の整備も順次推進する。
○教育研究ソフトのデジタル化事業の推進…学術文化資料や博物資料等をデジタル化し、授業で活用すると共に、広く社会に公開する。
○学生の自主性や早稲田魂を育てる課外活動の充実…自由闊達な早稲田文化の創造の場として新学生会館を建設する他、セミナーハウスの整備拡充、学術文化イベントの充実、スポーツの復興等を通じて学生の課外活動を支援する。

 以上のような改革が今、まさに検討に移されようとしている。この改革によって、皆さんの教育研究活動や学生生活が今まで以上に充実していくに違いない。

◆時代に挑戦する研究体制

奥島孝康総長 「学問の活用」を建学の理念の一つとして掲げる本学では、これまでもさまざまな研究所・研究センターを通じて、地球規模の課題に挑戦し、その成果を社会に還元してきた。“人間性の回復”を目指した「人間総合研究センター」や“アジア太平洋地域との共生と発展”を目指した「アジア太平洋研究センター」の設置等はその一例である。
 しかし、「人類の直面する課題はそればかりではありません。今後、それらの課題に対応し、時代に挑戦する研究体制を作り上げていきたいのです」と総長は語る。今、構想されている研究体制について伺った内容をまとめると、次のようになる。

○プロジェクト型研究所構想…新しい研究機構として設置期限を付したプロジェクト型研究所を随時創設し、時代のニーズを先取りする形で地球規模の課題に果敢に挑戦し、人類社会の福祉と発展に貢献する。当面予想されるプロジェクトとしては、地球環境、ジェンダー、バイオ(生物・生命科学)、福祉工学、通貨・金融制度などが挙げられる。
○本庄早稲田リサーチパーク構想…本庄キャンパスには、ここ数年の運動が実って二〇〇四年に上越新幹線の本庄新駅の設置が決定されており、これを機に本庄キャンパス周辺は、「本庄早稲田リサーチパーク」として一変する。本学ではここを国際情報通信分野と地球環境分野の一大研究拠点として活用する予定。既に、インテリジェント・エコビークルの開発や太陽光自立発電システムの開発研究等に着手している。
○TLOパイロット・プロジェクト…TLO法(大学等技術移転促進法)成立をきっかけに、本学が有する特許や新技術を社会に還元して社会に貢献すべく、「TLOパイロットプロジェクト」を立ち上げた。
○ワセダ・アレー構想…起業家育成のため、アジア太平洋研究センターを中心に「アントレプレヌール研究会」を設置しており、「早稲田から起業家を」を合言葉に、各種講座やシンポジウム等が繰り広げられている。今後はさらに、地方の地場産業・地域振興に対してもバックアップ体制を採るため、地方自治体や企業等と協力して、ベンチャービジネスやプロジェクト研究を推進するワセダ・アレー(早稲田の露地裏道)構想を実現する。

 「人類や地球社会に貢献できるような独創的な先端研究に挑戦し、より新しい高度な研究活動を行うことが私学の雄を自負する本学の使命であると考えます。そのための研究体制を強化していきたいと考えています」。確かに本学で育まれた研究が、二十一世紀の社会に活力を与えるようになれば大学としては理想的だ。そして、このことは学生の皆さんへの最先端の知の供給にも繋がると言えよう。

◆ハッピー・エイジング社会へ

 同時に、人生八十年時代を迎え、少子・高齢化が進展している今日では、もはや「ハッピー・リタイア」ではなく、再挑戦を可能とする、生涯現役社会を実現するため、「ハッピー・エイジング」社会への転換が必要であると総長は語る。
 「全学を全ての世代に開かれた生涯学習機関とすることで、豊かな人生の実現に貢献したい。それは学びを志す全ての人々に対して門戸を開くことであり、同時に多様な人間がキャンパスに集うことで知的刺激が高まり、画一的な集団からは生まれない新しい考え方や研究が生まれてくるきっかけにもなるのです」
 本学では、これまでにもエクステンションセンターによるオープンカレッジや学部・大学院の社会人入試制度の整備など、さまざまな学習ニーズに基づいてあらゆる「地域」と「世代」に開かれた「全学の生涯学習機関化」を目指した改革を行っている。今後は、入試制度を抜本的に改革すると共に、通学によらない学習機会の提供にも着手するという。まとめると次のようになる。

○オープンカレッジの拡充…西早稲田キャンパスで五万人、通信衛星により五万人の受講生を目指す。
○ワセダ知域社会創出構想…文化的で精神的に豊かな人生の実現に貢献するため、博物館等で所蔵する学術文化資産のさらなる公開に努めるとともに、本学に関係する全ての個人・法人を「ワセダ知域社会」の一員として位置づけ、それぞれのニーズに応じたサービスの向上と満足創造に貢献すべく、新たな連携システムを構築する。特に、卒業生に対しては、インターネットを活用した「生涯学習共同体ネットワークシステム(仮称)」を構築すべく、現在、新しいインターネット・ドメインの設置に向けて検討を進めている。
○早稲田芸術学校構想…早稲田大学専門学校は、現在の建築系の学科の他、映像芸術系、舞台芸術系等々、実技を中心とした芸術科目を拡充し、昼夜開講制とする。
○スポーツ振興・・・人間科学部のスポーツ科学科の充実をはかる一方、体育各部を強化するため「全学スポーツ振興協議会」を設け、本学のスポーツ振興をはかるとともに、生涯学習機会の重要な一環である生涯スポーツ振興とスポーツ界の指導者養成に努める。

 以上が総長から伺った、二十一世紀、そして来たるべき百二十五周年へ向けた早稲田大学の在り方、方向性である。一年半後の二〇〇一年には二十一世紀がやってくる。二〇〇七年、本学が百二十五周年を迎える際には名実共に「早稲田大学の第二世紀」が迎えられるよう、今、急ピッチで本学のグランド・デザインの検討が行われている。
 そしてこれら「グローカル・ユニバーシティ」を実現するための諸方策は、次のような創立百二十五周年記念事業として、本学評議員会で決定されている。

1.21世紀のネットワーク型授業を展開するための「インテリジェント教育研究棟の建設」…西早稲田キャンパス整備計画の一環として、新14号館(A棟1998年竣工)に引き続き、B棟およびC棟(仮称)を建設する。

2.自由闊達な早稲田文化の創造の場としての「新学生会館」の建設…学生の課外活動の環境を整備・拡充するため、戸山キャンパス内に建設する。

3.早稲田文化の発信拠点としての「大隈講堂の新しい時代への再生」…歴史的文化財として保存 すると共に、新しい時代に向けた多機能型の講堂へと再生する。

4.地球規模の問題に組織的に取り組むための新たな研究機構としての「プロジェクト型」研究所の設置…国際情報通信、地球環境、健康・福祉、生物・生命科学、通貨・金融制度などの分野におけるプロジェクト型研究所を設置する。

5.世界レベルの教育研究実現のための「創立125周年記念チェア」」(冠教授・冠講座)の設置…寄付講座として、国内外で活躍する125人の著名な学者・実務家を客員教員として招聘する。
6.学生の国際交流を促進するための「奨学金制度の充実」…5年間で派遣・受け入れ各千人に対し、奨学金を支給する。

7.博物館資料の充実と電子化…文化的価値の高い資料の寄付募集および所蔵品の電子化をはかり、広く世界に公開する。

8.雑誌センター・電子図書館の設置…学内の逐次刊行物を集中させると共に、これらを広く公開するため、電子図書館の機能も付加する。

 最後に、皆さんに訴えたいのは、二十一世紀の地球社会を創り出すのは皆さん自身であるということだ。大学は、皆さんが時代に相応しい「地球市民」として志の高い人間に成長してほしいと願っている。そのために必要な教育研究環境を順次、整備していく方針である。この機会に皆さんもぜひ、二十一世紀社会にどのような役割を果たすべきか改めて考えていただき、大学と共に二十一世紀を切り拓いていくパイオニアとして活躍されることを大いに期待したい。

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