NO.873 Jun.24,1999
入試が変わる、早稲田が変わる。
〜総合的な学力と地方性の復活に向けて〜


 現在、日本の各大学は時代の変化に合わせて、より望ましい入試制度を模索している。しかし、マスコミ報道にもある通り、“アラカルト入試”と揶揄されるような安易な科目削減を行って入試改革と称している大学も少なからず存在し、そのために学生の学力が低下して、高校レベルの講義を補習せざるを得ない大学があることもまた事実。高度な専門教育を実施し、社会に貢献する人材を育成するという大学の設置目的を考えると、実に嘆かわしい事態である。
 本学では、皆さんにより高度な充実した教育研究環境を提供するために、従来から学科試験による一般入試を主軸とした入学者選抜を実施しており、受験生に迎合するような受験科目の削減は一切行っていない。また先月、政治経済学部が発表したAO(アドミッションズ・オフィス)方式による総合選抜入学試験のように、一般入試以外のさまざまな入学形態も各学部で導入しており、これらによって入学した学生は、一九九九年度には全学生の二十六パーセントを占めている。ちなみに一般入試以外の入学者とは、附属・系属高校からの進学・推薦入学者、指定校推薦入学者、あるいは学士・3年編入学者や社会人入学者、帰国生入学者や外国学生入学者等である。
 今回の特集では、政治経済学部の総合選抜入学試験を中心に、なぜ、今、本学でこのような多様な入試を導入しているのかを取材した。

◆本学の教育方針

 入試の在り方を問う前に、まず本学の教育方針を振り返ってみよう。そこで、まずは「早稲田大学教旨」を引用したい。

<早稲田大学教旨>
 早稲田大学は学問の独立を全うし、学問の活用を効し、模範国民を造就するを以て建学の本旨と為す。
 早稲田大学は学問の独立を本旨と為すを以て、之が自由討究を主とし、常に独創の研鑚に力め、以て世界の学問に裨補せん事を期す。
 早稲田大学は学問の活用を本旨と為すを以て、学理を学理として研究すると共に、之を実際に応用するの道を講じ、以て時世の進運に資せん事を期す。
 早稲田大学は模範国民の造就を本旨と為すを以て、個性を尊重し、身家を発達し、国家社会を利済し、併せて広く世界に活動す可き人格を養成せん事を期す。

早稲田大学教旨の碑(正門左)  一九一三年、高田早苗の発案で、本学の三十周年記念祝典の一環としてこの教旨は制定された。『早稲田大学百年史』によると、時の総長・大隈重信は「進歩しつつある世界において国家社会のために行われる大学教育がその基礎とすべき理想は東西文明の調和」であり、「その理想を実現するためには、学問の独立を全うすること、学問の成果を実際に応用する事、およびその任に当るべき模範国民を造就することの三つが根本である」と、説いている。
 以来本学は、この教旨に基づいて教育研究活動に成果を上げ、また、常に新しいことに挑戦してきたが、二十一世紀を目前に控え、未来に向かっても果敢に挑戦を続けているのは、皆さんも本紙特集等でご存じのことだろう。

◆変わりゆく社会と大学入試

 本学では、この教旨を目標とする教育を行っており、その資格を問う意味で志願者に対し入学試験を課している。しかし、近年、大学進学率が上昇し学歴社会が到来したことによって、受験生にとっての大学進学の目的が変質してきている。「大学に入って学問をする。そのために、入学試験を突破する」という考えから、「入学試験を突破して大学に入れば全ての目的を達成」「自己の学歴に有利な、より偏差値の高い、ブランド力のある大学に進学するためには、受験に必要な科目だけを集中的に勉強して、解答テクニックを磨くことが必要だ」という考え方の増加である。
 しかし、他方で、そうした学歴社会への警鐘が鳴らされ出している。すなわち、「出身大学名ではなく、その人が受けた教育やその人の可能性で評価することが重要なのだ」という考え方である。こうしたことから、本学は建学の理念を想起し、本学の卒業生として相応しい人材を輩出するための教育のあり方、あるいはそのための入学者の選抜方法を検討し始めたのである。その結果が、現今の全学的に行われているさまざまな大学改革である。入試制度で言えば、学科試験によらない推薦入試制度やAO方式の入試の導入等がそれにあたる。従来の知識偏重型の一般入試に加えて、人物重視型入試を導入することで、入学者の多様性を獲得しようとする動きである。
 大学が、真の「高度な専門教育機関」として存在するために相応しい教育はどんなものか。果たしてどんな学生が本学に相応しいのか。早稲田大学らしさ、とは何か。そして出された幾つかの結論のうちの一つが、「地方性の復活」である。「集まり散じて人は変われど」と校歌の歌詞にもあるように、本学は伝統的に全国から学生が集まって共に学び、共に励んで、学生生活を送ってきた。それがここ数年では、首都圏出身者が五十パーセント以上を占めるようになっている。
 その主な要因として次の二つが挙げられよう。一つは、試験勉強が“技術化”したことによって入学試験が難化し、高度な受験技術を持つ学生でなければ入学できない状況になってしまい、より受験技術を習得しやすい環境にある首都圏の学生の入学率が高くなったこと。もう一つは、経済不況に伴い地方から首都圏へ学生を送ることが困難になったためである。 
 これに対しては、各学部で指定校推薦制度などを採用して対応しているが、さらに検討する必要があろう。こうした「地方性の復活」のほか、「国際化」「開かれた大学」等についても積極的に検討していかなければならないであろう。入試改革もその一つである。

◆「仰ぐは同じき理想の光」〜政治経済学部の入試改革

 本学の各学部では、独自にカリキュラムや入試制度の改革を行っている。その根底に流れる理想は同じ「よりよい早稲田大学」である。その理想の光を仰ぎつつ、各学部ごとにさまざまな改革を打ち出している。 今回は政治経済学部の入試改革を例に考えてみたい。同学部では、カリキュラム改革や専任教員の拡充、情報化教育と学生読書室の充実、聴覚障害学生等への積極的対応など、多様な改革を行っている。その一連の流れの中に今回の入試改革がある。
 まず、入学試験の概要から見てみよう。九九年度一般入試は、従来通りの外国語、国語の二科目と地歴・公民・数学の五科目からいずれか一科目の計三科目の学科試験を課しており、二〇〇〇年度は八百五十人を募集する。その他には、九二年度に導入した全都道府県均等に採用する指定校推薦制度で百四十一名、帰国生・外国学生・社会人を各若干名、附属・系属高校からの進学・推薦入学者、そして、先月発表されたAO方式による総合選抜入学試験(募集定員:約七十人)である。
 今回導入することとなった総合選抜入学試験は、現役・浪人を問わず同学部を第一志望とする者で、高校時代に顕著な活動や業績を上げた者等、出願資格を満たす者なら誰でも出願することが可能である。詳細は政治経済学部アドミッションズ・オフィス TEL03(5286)1256まで。
選抜は書類・論文・面接審査により総合的・多角的に行う。特に論文審査は、単に知識量を試すのではなく、外国語と日本語の長文資料を読解・分析し、自己の意見を含めて論文形式で表現力を問うもの。併せて、同学部の研究内容への関心や政治・経済等の社会的事象への関心そして深い思考力、総合的な分析力などを審査するもので、しかも論文審査は全国七カ所で実施する。AO方式による入試を導入することで、学生の大学における思考力や問題解決能力、表現力などを多角的に審査したいという同学部の決意を表明したものと言える。
記者会見に臨む堀口健治政治経済学部長  まだ日本では定着していないAO方式による入試という新しい入学試験形態を導入することについて、堀口健治政治経済学部長は次のように語る。「国際化・情報化時代に活躍する人材は深い思考力や総合的な分析力、語学力があり、目的に向かって努力する者ではないでしょうか。さらに当学部では、社会的活動や学芸・スポーツ等で活躍するなど個性・バイタリティーのある人材を求めたい。そのため、出願資格として、評定平均値を要求せず、現役生以外にも出願資格を与え、政治経済学部で勉強したい者に広く門戸を開きました。また、当学部で学ぶ際には、日本語や外国語の論文に対する読解力や自分の考えを論文にまとめる力が必要だと考えているため、その基礎的な能力を論文審査で見せてもらいたいと思います。また、論文審査を地方でも行うことにより、首都圏以外からも受験しやすくなると考えます。学生がよりいっそう切磋琢磨できるよう、政治・経済に関心を持つ多様な学生を受け入れ、以前のように全国に友人がいるという環境を創出したいのです」。

 政治経済学部の例のように、本学では幅広い入試形態を取り入れることで、学生の多様化とそれによる教育環境の更なる充実、活性化を目指している。入試の多様化は決して、受験生の負担を軽減しようとか、受験生の人気を集めたいという小手先の論理で実施しているものではない。皆さんの学ぶ環境を充実させる試みの一つが、入試改革なのだ。
 全国から異なる環境に育った人間が集い、机を並べることによって、新しい知識や考えが創出されれば大学の学問がより活性化する。また、学科試験によらない入試で選抜された、型にはまらない個性ある友人と学生生活を送ることは、それぞれの人生に豊かな刺激を与えてくれることだろう。
 キャンパスに多様な価値観と多彩な能力を持つ学生が集い、切磋琢磨することで、新たなパワーと知識が産まれてくる。本学は伝統的に培われてきた教育研究環境をより一層充実させ、二十一世紀へ向けた新たな活力を作り出すために、更なる一歩を進めつつある。皆さんはこの与えられた環境をどう活かすのか。皆さんの”学び”はどうあるべきか。ぜひ皆さんも考えてみてほしい。

(資料)一般入試以外の入学者選抜
(1)指定校制推薦入学(一般入試の合格・入学実績、地域性等を基準に選定された指定校学校長が各学部の基準を満たす生徒1人を推薦する)…政治経済学部、法学部、第一文学部、商学部、理工学部、人間科学部。
(2)自己推薦入学試験(学芸・スポーツ各分野における諸活動で優れた成績を収めた者や、生徒会・ボランティア活動などで顕著な活躍をした者、なんらかの資格を有する者等が、学校長の推薦によらず、自分自身を推薦することにより出願できる)…法学部、教育学部、社会科学部。
(3)特別選抜入学試験…理工学部(国際数学オリンピック日本代表を選考する「日本数学オリンピック」の予選通過者を九学科で受け入れる)、人間科学部スポーツ科学科(学部が指定するスポーツの各種目における全国大会上位入賞者を対象に高度の能力・適性を持った学生を選抜)。
※この他に、社会人入試、帰国生・外国学生入試、高等学院・本庄高等学院からの進学、早稲田実業・早稲田高等学校からの推薦入学がある。

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