研究最前線


掲載号NO.929 Apr.19,2001
高西淳夫理工学部教授
世界の最先端を疾走する早稲田のロボット研究
パラパラの踊れるロボットの産みの親


加藤一郎先生に墓前報告をするSDR-3Xと開発者たち  「ロボデックス2000」で話題となったパラパラを踊り、サッカーもこなす2足歩行ロボット――ソニー製SDR−3X開発を支えたのは本学校友と教員の連携プレーであった。それもそのはず。ソニー・デジタルクリーチャーズラボラトリーの石田健蔵さん(1972年理工卒)と黒木義博さん(1975年理工卒)、そして外部アドバイザーを務めた高西淳夫理工学部教授は、研究室の先輩・後輩。皆、本学、いや日本の「ロボット研究の父」故加藤一郎教授の教え子たちなのだ。その墓前で祈る人々の前にはひざまずく小さなロボット――二十一世紀の世界を象徴するような光景だ。

ヨーロッパでの出前公演もこなしたフルート演奏ロボット ○感情、動き、意思の疎通……
 ―人を解明するロボット研究

 高西研の研究は、三つの感情を表現しながら歩行することができる2足歩行ロボット「WABIAN−RV」の他、遠隔治療にも対応する顎(がく)運動障害者用治療訓練ロボット、ヨーロッパに招かれて一流音楽家との競演を果たしたフルート演奏ロボット、表情や顔色の変化による人間とのコミュニケーションを目指す情動表出ロボット、人間と同じメカニズムで発声することができる発話ロボット、本当のラットとの行動実験により言語や表情によらないコミュニケーションを解明するためのラット型ロボット等、枚挙に暇がない。遠隔治療にも対応!顎運動障害者用治療訓練ロボット

 「人間型ロボットを作るというのは、人間を解明することなんです。科学が未知なるものを定量的、数値的に分析していくものならば、ロボット研究は人間の機能を定量的かつ論理的に構築する学問。"どう作るか"というプロセスが重要な位置を占めるため、ものづくりの心、エンジニアリングセンスが非常に必要です」

 人間の動きを限られた部品で再現するためには、部品の性能もさることながら、どう設計するかが大きな鍵となる。「人間の組織がどういう機能を持ち、そのうちどれが重要なのか判断し、設計していきます。それには解剖学や生理学の知識が必要。例えば、故加藤教授は義手を開発し、人間の関節の長さや重さ、稼動範囲等を研究しました。ちなみに先生が開発した義手は今でも厚生労働省で認可されている唯一のものなんです」

2足歩行ロボットWABIAN-R3 ○人間とロボットのコミュニケーションは成り立つか?
 例えば、人間では六百個の筋肉が作り出す動きを、WABIANは四十三、SDR−3Xは二十八個の部品で表現する。それは人間の組織よりも部品が優れているということではなく、重量や大きさを実用に耐えるものにするために、限られた部品の数で人間の動きに「より近く」なるよう設計しているから。それでも、WABIANは身長約百九十a、体重は百三十`と巨漢。SDR−3Xの体長五十aという脅威的な小ささが実現したのは、技術の粋を集めた結果で、通常の五倍の能力を持つモーターを使用したためである。

 今後のロボット研究の方向性については、「ロボットが生活に密着したものになると、人間同士の心の相性のように、ロボットと人間との間のパーソナリティマッチングを形成することが必要になる。例えば、AIBOのサポートに来る相談は、機械の故障や使用方法もありますが、"自分の思った性格にならい"等の飼育方法についての相談も多く、カウンセリング的な要素も強いんです」

本物のラットにそっくり!?ラット型ロボット  そうしたコミュニケーション方法を解明するために、既に情動表出ロボットやラット型ロボットの研究を進めている。「人間は話の内容だけでなく表情からもいろいろなものを読み取りますよね。そこで、心理学をロボット研究に応用し、喜怒哀楽の表現をさせる研究もしています。例えば、アルコールの臭いをかがせると笑い上戸になったり、泣き上戸になったり、顔色が赤くなったり、青くなったり、自在にいろいろな性格付けをすることが可能。また、言葉や表情がない動物でもコミュニケーションが取れるロボットが実現すれば、とラット型ロボットの研究にも取り組んでいるんです」

○「鉄腕アトム」の夢が実現?
 ―人間社会とロボットの未来

 二十一世紀の社会では、福祉や災害現場、エンターテイメイント、家事労働他、ありとあらゆる分野でロボットが活躍するだろう。今や、"実現"から"活用"、つまり応用・具体化というステージへ進みつつあるロボット研究。「ロボット研究には協調性のある人が向いています。これからの研究は今まで以上に大勢の知恵が必要となりますから、異分野との交流が今まで以上に増えてくる。私たちの研究室でも、表情やラット型ロボットの研究では木村裕文学部教授の協力を得ている他、医療・福祉・脳科学等多くの分野の方々と交流しています。さらに、先日もある下着メーカーに行きましたが、下着の他、車、携帯電話など、日常の商品開発の分野でも、ロボットが活用されますよ」

 数々の成果を発表し、世界の最先端を疾走している本学のロボット研究。昨年四月にはプロジェクト研究所「ヒューマノイド研究所」も発足、二十一世紀の人類社会全体に貢献する研究成果を目指し、広く学内外にその門戸を開いている。鉄腕アトムの夢が実現する日が、着実に近づいている。

高西淳夫理工学部教授 ■たかにし・あつお
 理工学部教授。工学博士。1956年福岡県出身。88年本学専任講師、90年助教授、97年教授。90〜91年米国マサチューセッツ工科大学客員研究員、98年3月〜4月イタリア聖アンナ大学院大学客員教授。2000年冬には世界で最も権威のある英国の青少年向け公開科学講座「クリスマス・レクチャー」講師を担当。
【研究分野】ロボット工学、機械工学、制御工学、人工知能工学。
【所属学会】IEEE、日本機械学会、日本ロボット学会、計測自動制御学会、バイオメカニズム学会、日本咀嚼学会等。
【著書】『マイロボット』(読売新聞社)、『人間型ロボットのはなし』(日刊工業新聞社)。
【表彰】98年日本ロボット学会「研究奨励賞」・「論文賞」、98年日本機械学会ロボティクス・メカトロニクスシンポジウム「ロボメック賞」、99年IEEE ICRA 1999 Best Paper Award Finalist賞、2000年日本咀嚼学会ポスター賞。
【愛読書】サイバネティックス、他、老子、吉本隆明。
【趣味】音楽(レコード鑑賞、ドラムス演奏)
【E-mail】[email protected]
【URL】http://www.takanishi.mech.waseda.ac.jp
■早稲田大学ヒューマノイド研究所
【URL】http://www.humanoid.rise.waseda.ac.jp/index-j.html


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