研究最前線

掲載号NO.922 Jan.11,2001
田中愛治政治経済学部教授
「無党派層」の投票行動から読む政治
国民が政治に求めるものは?


 二十一世紀の日本を占う総選挙――しかし、閉塞した現代を変える人を選ぼうとしても、選挙広報やマスコミ報道では、なぜか「政治」が分かりにくい。そこで、「次の総選挙までに分かるようになりたい!」と、「無党派層」の投票行動を研究し、政治家の勉強会やマスコミでも引っ張りだこの田中愛治政治経済学部教授にお話を伺った。

コンピュータを駆使してデータを分析  「投票行動論」は、世論調査で収集されたデータをコンピュータで解析し、さまざまな角度から検証することで、「データを生み出した世界」を学ぶもの。つまり日本の投票行動を対象にすれば、日本の社会や政治が明らかになる。アメリカの選挙研究では、経済状況が良い時の選挙では政権担当政党が議席を伸ばし、不況時には減らすことが分かっているが、日本では従来、不景気の時ほど自民党が勝つと言われてきた。しかし、九八年の参院選ではそのパターンが変化。その鍵を握るものとして、「無党派層」が話題となった。「しかし、政治家もマスコミも、無党派層の実態が実際は良く分かっていないまま使っているように見受けられます。選挙を変え、政治を変えるためには、無党派層の投票行動を正しく認識しなければ」

図1  先生の研究によれば、「無党派層」と呼ばれる人々の類型は、(1)政治そのものに無関心な人、(2)政治への関心は高い無党派層、(3)政党支持を捨てた脱政党層、の三つのタイプがある。(1)が中心だった一九六〇年代は無党派層が全体の約十パーセントであったのに対し、(2)が出現した七〇年代頃二十パーセントと急増してから漸増し、八〇年代には三十五パーセント、(3)の出てきた九〇年代以降は五十パーセント以上、つまり、今や国民の二人に一人が無党派層である。さらに、この無党派層五十パーセントを三類型で分けると、(1)が約十五パーセント、(2)が約二十パーセント、(3)が十五パーセントとなる。政治そのものに関心が薄い(1)を除くと、(2)・(3)を合わせた三十五パーセントの人々が選挙を左右すると言える。

 「(1)を消極的無党派層とすると、(2)・(3)は積極的無党派層と言えます。一方、現在の政党支持層が約五十パーセント、うち自民党支持者が約二十二〜三パーセント程度を占める(図1参照)。さて、政党支持層と積極的無党派層、消極的無党派層にはどのような違いがあるか、図2を見てください。政党支持層がいわゆる"永田町"への興味が高いのに対し、積極的無党派層は国際政治や国際経済、生活に密着した問題に非常に関心が高い。従来の政党支持者は、農協や労組、青年団、宗教団体と言った組織加入率が非常に高く、国際政治や国際経済以上に派閥の動向や所属する組織への利益などに関心が高いのです」

図2  ちなみに、高学歴の若年層、かつ大都市に在住する…という意味で、早大生には(2)の積極的無党派層が多いと考えられる。となれば、積極的無党派層をどう取り込むかが選挙の争点となっている今、私たち一人ひとりが選挙結果を左右する要因となりうるのである。

 「積極的無党派層を惹き付けるには、政策が重要になってきます。つまり従来のように、組織票を集めたり、その利益を優先した政策では、積極的無党派層は惹き付けられない。ここで、図3を見てもらうと、有権者数が伸びている一方で投票者数はほぼ横ばい。さらに、自民党の得票数を見ると、九三年に底を打っていて、これが自民党の底力だと考えられる。ですから、従来型の政治や選挙では無党派層は選挙に出てきませんから、投票率が四十五パーセント程度であれば政党支持層を中心とした選挙であり、その二十二〜二十三パーセントが自民党支持ですから、自民党が勝つ。だから『無党派層は寝ていてほしい』は自民党のホンネなんです」

 一方、図2にもある通り、政策能力があり、永田町への関心が薄い無党派層に魅力的な候補者が出た場合は無党派層が選挙に出る分、投票率が上昇し、その結果が選挙の鍵を握る。つまり、東京都知事選挙での石原慎太郎都知事や長野県の田中康夫県知事の誕生がその好例だ。「彼らの共通点は、知的で政策能力がある、ということ。だから、単なるタレント候補では選挙には勝てない。タレント候補で喜ぶのは消極的無党派層ぐらいで、彼らは選挙に行かないから意味がない。逆に、タレント候補で政策能力が低下すればする程、無党派層は政党から離れていくんです」

図3  知名度があるだけでなく、政策能力の高い候補は、テレビ討論などでも明確な意見をズバズバと述べる。「政党議員は、政策能力が高くてもテレビに出演した時には政党の顔色をうかがってしまって、あまり意見が言えなかったりする。OGの田中眞紀子さんなどは、地元の地盤が強いから党の意向に沿わずとも選挙は戦えるし、ストレートな物言いが無党派層にも好印象となっている。自分の言葉で語れるかどうか、がポイントです。新聞記者の友人などに聞くと、候補者討論会に行くと、自民党の中にも政策の勉強を頑張っていて魅力的な人材がいるし、民主党の中にも組織票に寄りかかった政党的な候補もいて、政党より個人による差が大きいと言います」

 最後に、どうすれば政策が分かるのか聞いてみた。「まずは動くこと。一番簡単なのは投票所に行くことです。そうすれば何か考えるし、情報を得ようとしますよね。選挙ボランティアをやってみれば、自分の主張とは違うかもしれないけれど、政策や選挙が見えてくる。さらに、学内の講演会や候補者討論会に出向き、面白そうな人の話を聞いてみること。それから、ホームページをチェックすることです。皆で"政策が分かるホームページリスト"を作ってみるのもいいと思いますよ。ただ、現在は、自治省の判断で選挙期間中はホームページを閉鎖しなければならないのですが、これについては今後変わってくると思います。そうすれば、若い有権者が育ちますし、無党派層が選挙にきちんと参加するようになれば、政策を重視する政治になる。そうすれば意欲ある若い人材が政治の舞台を志すようになる。人材の登用と育成というのは大変重要なことなんです。政党が、きちんとしたビジョンを持って、意見を言う若手を育てれば政治の仕組みも変わるんですから。今は非常に悪循環ですね」

 投票行動という側面から、政治と現代社会を研究する田中先生。永年の研究に蓄積された言葉の端々に、閉塞した現代を切り開くヒントが見え隠れしている。二十一世紀の政治と社会は、私たち一人ひとりが担っているのだ。

田中愛治先生 ■たなか・あいじ
 政治経済学部教授。1951年東京都生まれ。本学政治経済学部卒。ジョージタウン大学などを経て、オハイオ州立大学大学院政治学研究科博士課程修了(Ph.D)。道都大学、東洋英和女学院大学、青山学院大学を経て、98年より現職。
【研究分野】政治学、政治過程論、投票行動研究。
【研究テーマ】日米欧における選挙行動の比較研究、デモクラシーへの支持態度に関する国民意識の比較研究。各種選挙結果や学術調査の分析、各マスコミの世論調査を駆使、いわゆる無党派層について詳細かつ実態的な動向分析を行っている。
【所属学会】日本政治学会、日本選挙学会、International Political Science Associate。
【著書】『政治学のすすめ』『クリントン政権の内政と外交』『ポリティカル・サイエンス事始め』『政治過程論』など(いずれも共著)。
【趣味】スキー、テニス、陸上競技などスポーツ全般。特に空手は、本学空手部で鍛えた松濤館流初段の腕前。

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