研究最前線

NO.911 Oct.5,2000
永井猛アジア太平洋研究センター教授
二十世紀最後の市場"駅"を開拓!新しいビジネスモデルの創出を目指して


 「すぐに結果が出ますから」。永井猛アジア太平洋研究センター教授の力強い一言に、新しいビジネスモデルの提案を目指すこの研究会の意欲が伝わる。

 産学協同で駅の事業を検討するという世界初の試み「早稲田大学ステーションフォーマット研究会」(Station Format Research Unit of WIAPS)は、本年四月、JR東日本管区の駅構内を再活性化するために、永井教授が会長を務める事業化研究プロジェクトとして発足。「駅の業態開発は、欧米では行政が中心となってかなり盛んに行われていますが、日本ではまだまだ。不景気が続く今、駅は二十世紀最後の市場であると言われています。そこで、今年は、『なぜ今ステーションフォーマットなのか?』を明確にすることを一つの目標としています」

 JR東日本は、首都圏に約七千五百キロにも及ぶ鉄道ネットワーク上に千七百九の駅を保持し、一日の利用者が千七百万人に上るという巨大マーケットの中で、交通手段を提供し、沿線におけるライフシーンに貢献するサービスを展開。同研究会では、「ユーザーの視点」から駅の強大なマーケットパワーを再検証し、新たに求められる駅の機能を整理し、集客装置としての駅独自の業態開発と新サービスの開発を目指す。「今まで『間に合わせ購買』としてあった駅構内や駅ビル、移動機能最優先の駅作りが行われていたため、駅は"利用せざるを得ない場所"として存在していました。そこから積極的に利用したい空間としての駅、つまり"乗客"から"お客様"へと視点を転換する必要があります」。

 五十社以上から参加の申し込みがあったが、物理的な事情等から二十数社に絞り、一社から二人、計約五十人が参加している。会員企業を見ると、マスコミ、流通、食品、総合商社、情報等、業種は多様。一瞬、鉄道とは無関係そうなところも。ここでもたらされる新しい出会いも、新しいアイデアを創出する一つの要因となるだろう。「研究会は月例フォーラムやオープンシンポジウム、オリジナル調査などを通じて参加企業のシーズやニーズと駅利用者との接点を探り、それぞれの立場でオリジナル業態アイデアを出し合います。有望なプランは事業化可能性の検証や事業化デザイニングの提言をまとめた上で、来年度予定されている事業提案シンポジウムでJR東日本グループに対して具体的に事業提案されます。また、学生や社会人を対象とした事業アイデアコンテストも企画しています。これだけ多くの反響を頂いたことは、JR東日本管区の駅があらゆる事業可能性を秘めた市場であるということを多くの企業が認めていることの現れだと理解しています」と研究会アカデミックスタッフの毛谷村剛太郎氏。

 月例フォーラムでは、アカデミックセッションとプラクティカルセッションという学術面・産業面の二種類の講義、ディスカッション等が行われる。その他に、アカデミックスタッフによって、収集・厳選された情報がふんだんに提供され、知識をインプットする環境としては理想的。忙しいビジネスマンが、自分でさまざまな講演会に足を運んだり、いろいろな情報源から情報を集める時間と労力を考えると、半日の参加でこれだけの高密度の情報が得られるのはかなりコストパフォーマンスも高い。現に、取材した二回の月例フォーラムの内容と資料だけでもかなりの情報量があり、これらを集中的にインプットすることで発想力も増すと思われる。

 「ここでは、従来、交通論や都市計画、建築学や商業論等と、狭い領域の中で縦割りに研究してきたことに横軸を通して、研究します。過去にJRが行ってきたビジネスは、駅という立地を充分に活かしきれておらず、市中で対等に戦っていくには不充分なものが多かった。鉄道輸送業としてのノウハウしか有していないJRがすべての事業を自前主義で行おうとしてきたことに無理があったのではないかと考えられます。JRは昨年より鉄道輸送業以外の事業に対する取り組みを強化し始めました。そこで、JRの持つ資産と一般企業の有するノウハウのコラボレーションを創出する「場の創出」という意味を込めて当研究会を発足させるに至ったわけです。大学は中立的な立場で参加し、新しいビジネスを産み出すインキュベーションユニットの役割を果たす。そして、従来の研究会のように学術的ニーズを報告書にまとめるだけではなく、ビジネスプランの提案まで行います」

 さらに、研究会の活動と合わせて、永井教授らアカデミックスタッフで基礎研究を行う。「学術的ミッションとしては、"移動と消費の実態解明"に主眼を置き、そのメカニズムの解明と、そこから生まれる新たなビジネスモデルを理論的に追求していきます。今までのマーケティングは、"なぜ売れたか/売れなかったか"を結果論として研究してきたに過ぎない。現実すら説明できない理論というのは、二流の理論であるか、間違いなんです。今回の研究は、真に"使える"理論を構築することを目的とします。理論的な背景で実態を解明し、成功確率の高い提言を出すこと。結果はすぐに出るし、厳しく責任を問われます。そういう意味では、初年度に出すアウトプットが重要だと言えます」

 今年はビジネスモデルの構築を行い、次のステージを起こしていくことを目標とする。取材時点では、参加各企業個別のヒアリングを終えたところであったが、研究によって立てられた仮説を、このヒアリングの結果を生かして個々のニーズに合うような形で提供する予定。移動のネットワークによって顧客を創出する、というこの研究会であるが、参加企業に対する研究成果のフィードバックも丁寧だ。

 「駅が変わる、街が変わる、人が変わる、消費が変わる、生活が変わる」のコンセプトの通り、駅を手始めに、市場を変えていこうとする試みが今、始まった。顧客志向のマーケティングが、あなたの生活を変える日も近い。

※なお、研究会への入会希望は五月末で一次締切となったが、今後も企業・個人を問わず入会の募集を受け付けるとのこと。興味のある人は事務局まで。

■ステーションフォーマット研究会事務局(担当:大松・毛谷村・玉川)
【問い合わせ先】TEL03(3200)3186/FAX03(3634)5999
【E-mail】[email protected]
【URL】http://www.wiaps.waseda.ac.jp/user/snft

■ 永井猛(ながい・たけし)
システム科学研究所教授を経て、アジア太平洋研究センター教授。大学院アジア太平洋研究科、早稲田大学ビジネススクールで授業を担当。
【研究分野】商学、マーケティング戦略
【研究テーマ】マーケティング戦略の国際比較、新製品・新規事業開発戦略、戦略市場計画。
【所属学会】日本商業学会、広告学会。
【主要著書・論文】『ストック型社会のマーケティング戦略』、『マーケティング戦争』他。
【E-mail】[email protected]
【URL】http://www.wiaps.waseda.ac.jp/user/nagai/default.htm

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