研究最前線

NO.898 Apr.27,2000
大師堂経明教育学部教授
FFT型電波干渉計早稲田大学那須パルサー観測所


那須に建設中のアンテナ アインシュタインの重力方程式を解くことから始まり、理論を中心に研究が進められてきた宇宙論が、革新的な変化を遂げたのは一九六〇年代。技術の進歩に伴って宇宙観測の多様化・精密化が飛躍的に進み、新発見が相次ぎ、観測的研究時代の幕が開けた。二十一世紀はさらに技術が発展し、観測的宇宙研究が躍進。それに伴って理論研究も進展すると言われている。

 その最前線で活躍する大師堂経明教育学部教授が、現在取り組んでいるのが「早稲田大学那須パルサー観測所」の建設。皆さんの中には先生が設置した西早稲田キャンパス十五号館屋上のアンテナ群をご存知の方もいるかもしれない。今回は栃木県那須にある自由学園那須農場内に大型研究設備を建設中で、現時点で五台のアンテナが完成。最終的には、十六台が設置される予定である。

 干渉計(interferometer)とは、光の干渉を利用して種々の物理量を測定する光学装置の総称で、 目的に応じてさまざまな形態のものが考案されている。一般に一つの光源から出た光を二つ以上に分割し、それぞれ別の経路を通した後に再会させて干渉縞を観測。 干渉計の精度は極めて高く、他の装置では不可能な精密測定ができる。

建設現場  今回、大師堂研究室で開発された電波干渉計は、皿のような形をした五台の二十メートルの固定球面鏡からなり、十二メートルのアームが立ちあがっている。一台の総重量は二十三トンにもなる。同研究室が世界で初めて開発したムール貝のような形の副鏡が使われていることが世界的にも注目を集めており、今年三月末にミュンヘンで開かれたシンポジウムで先生が招待講演を行ったところ、早速自国の設備に採用しようと熱心な質問が相次いだという。

 「カリブ海に三百メートルの直径を持つ球面鏡を使ったアンテナがあるんですが、従来の技術では、アンテナの表面積の全てを活用できないんです。ところが、新開発の副鏡を使用するとアンテナの表面を百%使って観測することができ、観測効率が飛躍的に上がる。那須に設置した直径二十メートルアンテナを二百五十六台まで増設すると、それだけで直径三百メートルのもの一台よりも高い感度が得られるのです。開発した信号処理方式を用いると、さらにその二百五十六倍の感度になります」

白鳥座のデータ  一九九八年十二月に基礎工事に着工し、翌年三月末に五台が完成。十月初めに副鏡を設置、十二月からテストを開始し、今年一月には観測が始まった。「これが、約十億光年先の白鳥座の銀河の観測データです。光の速度が有限であることから、宇宙を観測する時には距離が時間に換算される。つまり十億光年ということは、十億年かかって地球まで光が届く距離にその天体があるということです。だから、このデータは今年一月のものだけれど、十億年前の銀河の姿が見えているということです」。

 今、十億年前の過去が見えるとはどういうことか。ここで説明する紙幅はないので、頭が混乱してしまった人は先生の執筆した理工ジャーナル記事『ビックバン宇宙論 宇宙の外には何がある? 宇宙の始まりの前は?』(
http://www0.sci.waseda.ac.jp/journal/vol1/no1/daishido/dshd00.htm)を読もう。分かりやすく書かれた説明に、頭の中の霧があっという間に晴れわたっていくに違いない。

 さて、今後はこのアンテナを使って”パルサー”を探すと語る先生。「第一号は一九六七年にイギリスの電波天文学者・ヒューウィッシュたちが発見しました。パルサーは、非常に大きな質量を持ち、高速で回転しながら脈(パルス)を打つように規則正しく電波や光、X線を放つ星。現在発見されている約千個の中で、特別に大切なパルサーが二十個位で、その正確さは人類の持つ最も正確な時計・原子時計の精度を上回る程です」  パルサーの観測と同じ方式が活用されている身近な例に、カーナビゲーションシステムに使われる全地球測位システム(GPS)がある。最近では、有珠山の地殻変動の観測にも使われているが、パルサーの観測によって正確な時間を得ることで検証された物理理論、つまり一般相対性理論が、GPSの精度を高めるために使われているのだ。

 大師堂教授は、宇宙の観測によって、物理理論の正否を検証したいと言う。「人類がまだ観測できない宇宙を解く鍵の一つに、一般相対性理論の予言”慣性系の引きずり”があるんですが、これは連星パルサーの観測で検証できる。ゆくゆくはこの効果を実証したい、と思っています」と将来の目標を語る。

 また、「物理学の体系の中でも難しいランダム過程やフーリエ解析の実験コースを全学にオープンしています。希望者は物理学実験室(内線71−3854)へ連絡してみてください」とのこと。興味を持った人は、ぜひ連絡してみよう!

 画期的なアンテナの開発により、宇宙の深淵に向かってまた一つ歩みを進めた先生。その研究が二十一世紀の人類にもたらすものは何か。大きな夢が膨らんでいく。

大師堂先生 ■ 大師堂経明(だいしどう・つねあき)
教育学部教授。理学博士。1975〜77日本学術振興会PDF(東京天文台)、77年早稲田大学教育学部講師、81年助教授、85年より現職。

【研究分野】電波天文学、高エネルギー天体物理学、ディジタル位相制御アレイアンテナ、ナイキストレート空間・時間FFT信号処理。

【所属学会】日本天文学会、電子情報通信学会、米国物理学会。

【その他】文部省国立天文台運営協議会委員(1991-1996)、郵政省通信総合研究所外部評価委員(1996、1999)、日本学術会議電波研連委員(1994-1995)、通信総合研究所客員研究官(2000)、物理学誌パリティ編集委員・アドバイザー。

【好きな音楽、絵画、文学、関心事】J.S.バッハ、ベートーベン、ドビュッシーの鍵盤音楽。雪舟、蕪村。今昔物語、徒然草。物理学における概念形成史。

【E-mail】[email protected]

【HP】http://www.phys.waseda.ac.jp/astro/index-j.html

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