第865号 April 22,1999 


■百人一首かるた競技史上最年少名人になった

■西郷直樹(さいごう・なおき)さん

1978年大分県生まれ。教育学部教育学科社会教育専修3年。98年度小野梓記念賞特別賞受賞。早大かるた会に所属。

好きな百人一首の歌は「瀬を早み 岩にせかるる 滝川の われても末に 逢はむとぞ思う」恋人への愛を詠んだ歌。

 日本古来の百人一首が「競技」となった時、文学の域を越え、新たな日本のスポーツとして生まれ変わった。

 今年一月九日、大津市近江神宮で行われた全日本かるた協会主催第四十五期名人位決定戦で史上最年少かるた名人が誕生した。本学教育学部三年の西郷直樹さんだ。「小学一年生の時、百人一首の好きな三歳上の兄と遊んでいるうちに、かるた百枚の札を全部覚えてしまいました」。その年、低学年の全国大会で三位入賞。その後は小学・中学・高校・大学生選手権とすべての世代戦で優勝を果たした。

 しかしそんな彼も名人戦当日は苦戦の様子を見せた。「さすがに重みがありました。他の大会とは違って、会場には挑戦者の僕と名人の二人だけ。照明の光が照りつけ、テレビカメラと約百人の観客が静かにこちらを見ているんです。とても緊張しました。そんな中、歳も技術も格の上の名人に挑むことになったんです」

 名人戦は五試合中先に三勝した方が勝ちとなる。西郷さんは第一戦、二戦と敗退、名人の強さをまじまじと見せつけられた。「前半終了後に、家族や友人から『まだ若いんだからこれからもチャンスはあるよ』という励ましを貰ったんですが、なんだかその言葉が逆にやる気を起こさせたみたいです」

 勝負が決まる第三戦は絶対に負けられない。並べられた五十枚の札を暗記するのに与えられる時間は十五分。一枚一枚を頭に焼きつける。試合開始。上半身を乗り出し、構えの体勢。緊迫した会場内に勢い良く札が飛び交った。名人に疲労の色が見え始めたのを見逃さず、持ち前の若さと体力を武器に粘り続けた。ついに名人の勢いを食い止め初白星。その後も波に乗って連勝し逆転。七時間もの激戦の末、勝利の女神は西郷さんに微笑んだ。

 「百人一首競技の面白さは“スピード”を競い合うところです」と語る新名人。集中力、記憶力、瞬発力、そして最後は体力で勝敗が決まるというこの競技は決して遊戯ではなく、むしろ格闘技に近い。

 「名人は勝って当たり前の存在、絶対的な強さが求められます。またその座は一勝負で決まる厳しい世界です。今まで僕がそうだったように、挑戦者の意気込みは良く知っています。でも今度は名人。挑戦者の気迫に負けないで、それ以上の心意気で望んでいきたいです」。試合時の厳しい顔とは裏腹に爽やかな優しい二十歳の笑顔が溢れた。


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