第850号 October.22,1998
Helpless3
サイレンの音がだんだん大きくなってくる。気が付けばパトカーは元恋人・A子のマンションの玄関先で仁王立ちになっている自分の前にピタリと止まったのだった。
何故だ? 今やH山の頭は大混乱状態である。聞けば、A子が助けをもとめて駆け込んだ隣家の主婦が、彼女のあまりの動転ぶりに驚いて110番通報したのだった。
「別れた男が復縁を迫って押しかけてきた。何されるか判らない。」とかなんとか震え声で訴えたのだという。
パトカーの後ろには、お約束のように黒塗りの乗用車もついてきていた。
以下、刑事さんとH山の会話。
刑事「H山。悪いこと言わないからあきらめろよ。せっかく良い会社にも勤めてるんだし、こんなことで人生誤ってどうするんだ。」
H山「は、はい。」
釈膳としない。来いとA子に懇願されたから俺は来たのだ。あくまでも友達として。しかしここで反抗的な態度をとって1泊2日コースになっても困ると思い、H山は素直に頭を下げた。
刑事「ところでお前、手に持っているその袋、なんだ?」
H山「カ、カレーライス作ろうと思って、そこのスーパーで買ってきた材料でして・・」
気持ちは判らんでもないが、と人情刑事は一瞬哀れむような目を向け、とにかく家に帰れとH山の肩を叩いた。このおっさんに俺の気持ちなど判ってたまるか。心のなかで毒づきながら、けれど子羊のように従順な物腰でH山は自分の車に乗り込む助手席にはもちろん近所のスーパーの白い袋が…
(つづく)