とっておきの話

私と音楽

商学部 准教授
中出 哲

 音楽は私にとって特別の存在である。私の家は貧しかったが、小学生の頃、母が無理をしてオルガンを買ってくれた。私はオルガンに夢中になり、小学校の音楽の授業では担任の先生の代わりに、私がオルガンで伴奏することになった。勉強もスポーツも苦手で友達も少なかったが、オルガンの演奏がきっかけとなり、友達も増え、学校が楽しくなった。

 その後ピアノを習ったが、指の練習が苦痛で、2年間でやめてしまった。ところが、中学2年の夏に、楽器演奏が宿題として与えられ、私は、独力で練習してピアノを弾いた。音楽の先生がとても感激してくれたおかげで、私はいろいろなことにチャレンジしてみようという気持ちになった。それから今日まで、自己流のピアノを楽しみ、作曲などもしている。

 30代になってケンブリッジ大学法学部大学院に留学したが、ケンブリッジでは、寮やホールで自由にピアノを弾くことができた。ここでもピアノを通じて友人の輪が広がった。また、カレッジの先生の紹介で、パイプオルガンの指導を受けることになった。昼は図書館と教会、夜はカレッジのチャペルに行くのが日課になった。ステンドグラスに囲まれた古い教会での演奏は得がたい経験であった。私が練習するとパイプオルガンの音を聞いて観光客が入ってくるので、教会の売店のおばさんはいつも喜んでくれた。そして、思い出深いのは夜のチャペルである。譜面台のみ照らされた暗いチャペルで静かに演奏していると、神と対話しているような気持ちになる。パイプオルガンでは鍵盤をタッチしてから音が出るまで僅(わず)かなずれが生じる。ピアノの演奏では自分の体と一体になる感覚をもつが、パイプオルガンの演奏では全く異なり、天から音楽が降ってきて包み込まれるのである。とても神秘的な体験であった。

 私は、気分が落ち込んだり頭痛がしてもピアノを弾くと元気が出てくる。音楽は、本当に不思議である。


カレッジの夕食会のあとで
▲カレッジの夕食会のあとで

カレッジのチャペルにて
▲カレッジのチャペルにて

 
1268号 2012年1月19日掲載