研究最前線

ANAが世界初導入の最新鋭機に注目
技術の進歩で、より便利になる航空輸送

 全日本空輸(ANA)が世界で初めて導入したボーイング787型機(以下、B787)。革新的な技術を実現した中型旅客機として注目が集まるなか、2012年1月からは国内定期便に加え、欧州定期路線にも就航します。B787で私たちの空の旅はどう変わる? 航空宇宙分野がご専門の手塚亜聖先生に教えていただきます。

手塚  亜聖准教授

理工学術院 准教授
手塚 亜聖(てづか・あせい)

1998年、東京大学工学部航空宇宙工学科卒業。2000年、同大学院工学系研究科航空宇宙工学専攻修士課程修了後、2003年、同博士課程修了(博士[工学]取得)。同助手、同助教、2008年早稲田大学理工学術院専任講師を経て、2010年より現職。航空宇宙分野における空気力学、特に物体周りの流れの研究が主。研究活動を通じて、未来の暮らしをより豊かなものに変えていくことを目指す。

フランクフルトへもB787で

 研究テーマの1つとして、空気の流れの安定解析を行っています。ドイツにあるダルムシュタット工科大学の学生が、2011年10月から半年間日本に滞在して早稲田大学で研究を行っており、来日前の打ち合わせのためフランクフルトの南約30kmに位置するダルムシュタットに行きました。フランクフルト空港へは成田から直行便が就航しており、空港からダルムシュタットの距離は東京-成田空港よりも近く、現状でもかなりアクセスが便利です。2012年初頭に、ANAが羽田-フランクフルト便を開設すると、さらに便利になるでしょう。この路線にはANAが世界で初めて導入した最新鋭の中型航空機B787が就航します。

航空機の進歩でより遠くへ、より快適に

 航空機の航続距離が短く、長距離の飛行には給油が必要だった時代、日本から欧米に向かう航空機の給油拠点、アメリカ・アラスカ州のアンカレッジ空港には多くの航空機が発着していました。大型機の開発により航続距離が向上し、ロシア上空の空路が解放され、日本から欧米への航路は直行便が一般的となりました。ジャンボ機と呼ばれた大型機のB747-400は航続距離が1万kmを優に超え、長距離国際線の花形だった時もありました。現在では、燃費が良く運航費がより安い、B777やA340への更新が進んでいます。

 最新鋭の航空機である中型機B787は、胴体や主翼を複合材にすることにより、機体はさらに軽量化されました。これにより離陸滑走距離の短縮が進み、滑走路が短い空港でも長距離国際線が運航可能となります。また、エンジンや機体形状の洗練化もあいまって、燃費はさらに改善されています。複合材を胴体に使用することで、機内の気圧変化が緩和され、窓が大型化されるなど、客室の快適性も向上しています。ちなみに、日本のメーカーが複合材による主翼や胴体の製作などB787の約35%を担当しており、複合材のカーボン素材も日本製です。

より多くの目的地に直行便で行けるメリット

 日本から欧米へは12時間ほどで行けるようになりましたが、乗り継ぎがある場合は、飛行機の遅延なども考えた余裕時間が必要です。乗り継ぎに間に合わなかった場合、毎日1便のデイリー運航では翌日の便になってしまいます。また、乗り継ぎ空港の天候などの影響により離着陸できない場合は、欠航になってしまいますが、直行便ならば影響を受けません。羽田空港は東京都心からのアクセスが非常に優れています。

 このように、最先端技術により開発された最新の旅客機は、より多くの都市への長距離直行便の就航を可能にして、より便利で快適な航空輸送を実現しています。研究室では、航空技術の将来を見据え、空気力学が貢献できるテーマとして、航続距離の向上を目指した摩擦抵抗軽減策、離陸滑走距離の短縮を図るための空力性能向上策、飛行時間短縮を目指す極超音速機の空気力学などの研究を行っています。

▲中型機B787は都心に近い羽田から
欧州への就航を可能にします
▲大型化された窓と液晶の「日よけ」

 日本の空が活性化していくことは、これから国際社会へ羽ばたく学生にとって多大な利点があるのでは? 読者(早稲田ウィークリーモニター)のみなさんからも、航空機の最新技術と就航事情についての質問が多く寄せられました。

質問1
 羽田-千歳(約900km)をB777-300で飛ぶ場合、約2.2万ポンド(1.2万リットル)の燃料を消費します。座席数が約500席ですので、1人あたりリッター約36kmになります。成田-ニューヨーク(約1.1万km)をB777-300ERで飛ぶ場合、約20万ポンド(11万リットル)の燃料を消費します。座席数が約200席ですので、1人あたりリッター約20kmになります。



質問2
 日本唯一の国産旅客機YS-11は、値引き、金利負担、為替差損などの影響により180機で製造打ち切りとなりました。その後は海外メーカーが主管となり、共同開発として民間機を製造していますが、プロダクト・サポートから得られる航空会社のニーズや不具合情報は主管のメーカーに集まります。ですから日本のメーカーが主管となって開発することが重要です。国産ジェット旅客機の事業化を成功させることは大きな鍵となるでしょう。



質問3
 三菱航空機が開発しているMRJは純国産機となりますが、国内のみならず海外メーカー製の部品も使用します。各国メーカーの先端技術を採用し、また、リスクを分散化するため、アメリカのB787やヨーロッパのA380の製造に日本のメーカーが加わっていることを考えると、国内だけで航空機を製造することはあまり現実的ではないと思います。


1265号 2011年12月8日掲載