先輩に乾杯!進路に迷ったときに読む、 身近な先輩へのインタビュー

東京スカイツリー®で日本に明るい話題を

株式会社大林組 常務執行役員
新タワー建設工事事務所 総合所長
八木 和雄さん

■やぎ・かずお
1948年生まれ。1972年本学理工学部建築学科卒業、大林組入社。1993年東京国際フォーラムガラス棟新築工事 工事長、2000年株式会社電通新社屋建設工事 所長。2005年東京本社東京建築事業部統括部長。2008年常務執行役員。

 2012年5月22日の開業が待たれる東京スカイツリー(事業主体:東武鉄道・東武タワースカイツリー)。施工の現場で総合所長を務めているのが、八木和雄さんだ。採用された最先端の技術、東日本大震災の時の様子を含め、八木さんに仕事にかける思いを伺った。



時間の許す限り現場を回る
 八木さんが子どものころ、千葉県の稲毛海岸に行った時のことだ。当時は周囲には遮るものがなく、遠くまで見渡すことができたのだが、東の彼方に一つだけ、垂直に高く伸びた建築物が見えた。「あれが建設中の東京タワーだ」と、父親が教えてくれた。東京スカイツリーを建設するプロジェクトの総合所長になると決まった時、八木さんはその出来事を思い出し、しばし感慨に浸った。

 このプロジェクトは、3つの街区に分けて推進されている。複合商業施設を建設する西街区と東街区、そして東京スカイツリーを建設するタワー街区だ。八木さんが勤める大林組は、東街区とタワー街区を担当。東街区ではJV(共同企業体)を主導し、タワー街区では単独で施工を担い、八木さんは両街区を取りまとめる総合所長を務めている。「社会的に非常に注目度が高いプロジェクトです。ぜひ無事に竣工させて、日本に明るい話題を提供したいと思います」。

 最盛期には、タワー街区だけでも1,000人以上のスタッフ・作業員がかかわるほどの大規模な現場だ。まとめ上げるのはかなり大変なのでは?「人数が多くても、情報が職人一人ひとりにまで行きわたるようにしなければなりません。私は時間の許す限り現場を回り、作業員たちと会話をすることで、きちんと情報が伝わっているかを確認しています」。



並行作業で工期短縮
 東京スカイツリーの高さは634m。自立式電波塔として世界一の高さとなる。これだけの建築物だから、採用されている施工技術は最高峰のものだ。例えば、基礎杭に採用されている「ナックル・ウォール」。これは壁状の杭に節のような突起を付けたものである。「節を付けることで杭が地盤に固定され、タワーを支える力が大幅に増大します。また、壁状のため剛性が強く、地震時の水平力にも高い抵抗力を持っています」。

 タワーの中心部には鉄筋コンクリート造の円筒である「心柱」を構築する。これは、地震時などにタワー本体の揺れを低減する制振システムとして機能する。また、この心柱を構築する前のタワー中心の空洞部は、施工する際に有効活用されているという。「タワーの先端にある『ゲイン塔(アンテナを取り付ける部分)』を、タワー中心の空洞内の地上付近で組み立て、ワイヤーで吊り上げる、「リフトアップ」という工法で作業しました」。

 地上で組み立てることで安全性や品質が向上し、なおかつ、塔の上部の鉄骨組み上げ作業と同時並行で工事を進められるため、工期の短縮にもなっている。



大地震発生!
地上500m付近の現場は!?

 2011年3月11日、未曾有の被害をもたらした東日本大震災が発生した。現場は、ちょうどゲイン塔をリフトアップ工法で吊り上げていた最中で、地上500m近くのところに約50人の作業員が作業に従事していた。「現場事務所で緊急地震速報を受信したので、大きな揺れがくる旨を、作業員たちに電話で伝えました。それから約1分後に揺れが発生。この時は、全員の無事を祈っていました」。

 ワイヤーで吊っていた状態のゲイン塔最上部の揺れは、4~6m幅におよんだが、幸い、作業員は全員無事。構造体に被害はなかった。これは、着工前に入念に地震対策をしてきたことが功を奏したといえる。「建設のどの段階で地震が来ても大丈夫なように、着工前に綿密にシミュレーションをしていました。その結果を受けて、第1展望台に設置していたクレーンにも制振装置を設置。また、地上部の建設を始める前に、杭に数千トンの負荷を加えて耐久性を調べる試験も行いました」。

 東日本大震災後は、コンクリートの健全性確認、塔体の目視による安全確認やUT(超音波探傷)などを行い、安全性を確認した上で順次建設を再開していった。



大きな仕事をするコツ
 本学理工学部建築学科を卒業後、大林組に入社した八木さん。早稲田大学に通ったことで、今でも役に立っていることがある。「同業他社の役員になっている人で、早稲田大学出身の人は、実は結構いるんです。お互いに同じ早稲田出身なので、話がはずみますね」。

 社歴の大半を現場で過ごしてきた八木さんは、海外勤務も経験し、東京国際フォーラムのガラス棟や電通本社ビルなど、主に大きなプロジェクトに携わってきた。「大きなプロジェクトを担当できるのは大変誇らしいことなのですが、仕事が担当ごとに分かれてしまうので、中小のプロジェクトと比較して全体像が見えづらい面があります。そこで、とにかく現場を見まわして、自分が疑問に感じたことは、担当以外のことでもきちんと調べることで、知識をつけていきました」。

 これらを糧に、強い上昇志向を持って人生を歩んできた八木さんに、これから社会人となる学生へのメッセージをいただいた。「大きな仕事をしたいと思ったら、与えられた仕事をこなすだけでなく、自分から積極的に先輩や上司の仕事を奪い取るといい。意欲のある若手に、上の人はチャンスをあげようと思うものです。ただもちろん、ルーティンワークも大事な仕事。大学時代に、自分は何をしたいのか、自分のタイプを見極めることが大切だと思います」。

八木 和雄さん

八木 和雄さん

ゲイン塔の設置方法
▲ 第1展望台より上の鉄骨建て方工事と並行し、塔中心部にある空洞内でゲイン塔の組み立て工事を開始。 塔体鉄骨建て方が完了すると、空洞内で組み上がったゲイン塔を引き上げていく。 ゲイン塔にアンテナを付けながら突き出していき、塔体頂部が完成。この工事中に空洞部では心柱の施工が始まる。

 

 
1259号 2011年10月27日掲載