先輩に乾杯!進路に迷ったときに読む、 身近な先輩へのインタビュー

リングで戦う電通社員

電通社員・プロボクサー
鈴木 基伸さん

■すずき・もとのぶ
1984年滋賀県生まれ。2003年函館ラ・サール高等学校卒業、本学商学部入学。2008年株式会社電通入社。新聞局、スポーツ局を経て、雑誌局所属。2009年春にボクシングを始め、2010年7月にライセンスを取得。2011年7月1日にはウェルター級のプロデビュー戦にて判定勝ち。現在、電通では小学館や主婦の友社などの女性誌を中心に担当する傍ら、伴流ジム所属のプロボクサーとして練習に励む。プロ2戦目、10月10日後楽園ホールでのウエルター級 4Rに出場。

 二足のわらじを履く――今回ご登場いただく鈴木基伸さんは、まさにそれを体現している存在だ。昼は大手広告代理店・電通の社員として忙しく働き、夜は伴流ボクシングジム所属のプロボクサーとして練習を積む。そんな“異色ボクサー”鈴木さんに、これまでの歩みを伺った。

しがみついても叶わなかった
ラグビーの夢

 “高校3年間はラグビー漬けだった。早稲田を志したのも、強いラグビー蹴球部に憧れたから。入部には厳しい試験が課せられるが、鈴木さんはこれをクリアする。憧れの早稲田でレギュラー入りを目指す…。夢に燃えていた鈴木さんに、思わぬ壁が立ちはだかった。「2年生のときです。当時の監督が部をさらに強くするために『少数精鋭』を打ち出され、活躍が見込めない者は退部を宣告されたんです。ぼくは、そのなかに入ってしまって」。

 「早稲田でラグビーをしたい」。そう強く思っていた鈴木さんは大学の外で社会人のクラブチームに所属し、孤独に練習を積んでいったという。春を迎えれば、再び入部試験を受けることも可能だったのだ。「入部試験のときは忘れられません。同じ学年の仲間が部に残り活躍しているなか、1年生に混じって試験を受けなくてはならない。20歳頃の自分にはつらいものがありましたね」。
 それでも、突きつけられた結果は“不合格”。諦めきれず、4年生の春にも就職活動に迫られながら再チャレンジを試みる。入部試験では「大学院に進学して、ラグビーを続けたい」と将来性もアピールし、熱意を持って意志を伝えた。しかしながら再入部は叶わず、鈴木さんは無念のうちに大学ラグビー生活を終えることとなる。

始めるなら、今しかない
 大学卒業と同時に、電通に入社する。配属先の新聞局では新入社員として先輩の指導を仰ぎながら、遅くまで仕事をする日々が続く。仕事に熱中する一方で、鈴木さんの胸には燃え尽きていない何かが残り続けた。入社後も体を鍛えることだけは止められず休日はジムに通ったが、次第に「何のために鍛えているのか?」と悲しい気分になってしまう。そんなとき鈴木さんが目をつけたのが、個人でも練習できるボクシング。電通には、仕事をしながらライセンスを取得した先輩、またK1選手として活躍する先輩もいた。彼らの「自分の気持ち次第でやろうと思えば何でもできる」という言葉も励みになり、ボクシングを始める決意をする。このとき25歳。「真面目に始めるにはぎりぎりの年齢で、“やるなら、今しかない”という気持ちでしたね。入社試験のときは、大学時代の悔しい思いから、反骨精神で頑張ります! とアピールしましたが、やはりスポーツの思いはスポーツで叶えたい、自信が欲しいという思いが強かったんです」。

 最初のジムでは夜10時に閉まってしまい、なかなか練習できなかった。仕事を終えジムを訪れても、電話があれば抜け出して会社に戻った。そこで、夜12時まで開いている現在の伴流ジムに移る。「練習しないと罪悪感でいっぱいになる」そう話す鈴木さんは、どんなに遅くても練習に訪れ、やがてジムの鍵を預かるまでになった。

 仕事の合間をぬっての練習だったが、徐々に力をつけていった鈴木さん。2010年7月には、ライセンス試験に合格する。当時を振り返り、鈴木さんはこう話す。「仕事でもまだ結果を残せてもいなかった上に、ボクシングも始めたばかり。どちらも中途半端で『お前、それでいいの?』と先輩に叱られることもありました。確かにそうかもしれない。でもここは『譲りたくない、貫き通したい』という気持ちを持って、何とか続けていました」。

周囲の応援を力に変えた初試合
 こうして、プロとして一歩を踏み出した鈴木さん。まずは初勝利を目標に、さらに練習を積んだ。迎えるはライセンス取得から約1年経った2011年7月1日の初試合。試合直前には過酷な減量が待ち構えていた。鈴木さんは試合前2〜3週間で11kgを一気に落としたという。「最後は水抜きといって、一切水分を摂取してはいけないんです。食事は、ゆでた味付けなしのホウレンソウやささみをタッパーに入れて、会社で食べていました。そのからっからの状態で練習もしますから、本当に倒れそうになったのを覚えています(笑)」。

 この頃になると、社内で鈴木さんがボクシングをしているという情報が広まっていき、徐々に応援してくれる人も増えていく。初試合の当日、鈴木さんの応援に後楽園ホールへ集まっていたのは、新人ボクサーでは異例の150人。「既に部署を異動して仕事のつながりはないのに、前の部署の人が横断幕をつくってきてくれたり、まだ雑誌局に異動して間もないのに、クライアントである出版社の役員の方が駆けつけてくださったり。さらには、かつてボクシングと仕事の両立を叱られたこともある新聞局の先輩の姿も…。緊張しましたし、それはもう負けられないという気持ちでした」。

 試合は、鈴木さんが効果的なパンチを繰り出すも、相手選手も攻撃の手を緩めず、目を見張る展開に。結果は判定にもつれ込んだ。判定は3対0、レフリーは鈴木さんの手を挙げる。その瞬間、後楽園ホールは150人の歓喜の声に包まれた。


信念を持って続ければ
必ず結果はついてくる!

 次なる目標は、10月10日のプロ第2戦でも勝利を飾ること。ボクシングを始めた頃と比べると、今の心境はかなり変わっているという。「大学時代が不遇だったためか、ぼくはあまり人に感謝できる人間ではなかった(笑)。自分は自分、人は人、ずっとそう思ってきたんです。でも応援してくれる人が増えていって、最初は“自信を持ちたい”という、どこか自分の気持ち本位だったのが、“応援してくれる人たちがいるから自分がいる”と素直に思えるようになり、周囲への感謝の気持ちが自然と芽生えてきたんです」。

 同じく夢を追い求める後輩学生に、こんなメッセージを残してくれた。「自分が『好きだ。これだけはやらないといけない』と思う信念を持って続けていれば、何かしらの結果がついてくると思います。ぼくも頑張ります!」。

 周囲の協力や支援を得ながら強くなった鈴木さんの今後に、さらなる期待が高まる。


鈴木  基伸さん

鈴木さんの強みは左フック ▲鈴木さんの強みは左フック

初戦を見事勝利で飾った瞬間
▲初戦を見事勝利で飾った瞬間

 

 
1254号 2011年9月22日掲載