こんな授業!どんなゼミ?
コーチング特論〜「適当」の奥にあるコーチングの真理〜

スポーツ科学研究科修士課程2年 田端 宏樹


 「コーチング特論」は、名門早稲田大学競走部の監督にして、自身も陸上競技1982年アジア大会110MH代表選手であった礒繁雄先生が担当する授業だ。毎回「コーチングとは?」「コーチングに必要なものとは?」に関するテーマを1つ取り上げる。例えば、「コーチングに罰は必要か?」などである。講義は主に、先生による講義形式、学生による発表形式があるが、どちらのときも、活発な議論が繰り広げられる。また、授業の中では、まだ公になっていないような最先端の研究結果が例に挙がることもあり、非常に興味深い。

 授業の雰囲気・内容を一言で表すとずばり「適当」である。とは言え、「いい加減」という意味ではなく「ちょうど良い」という意味である。何と言っても先生と学生との距離感が「適当」で、近すぎるわけでもなく、通り一辺倒に講義をするわけでもない。毎回、少なくとも3人の学生に意見を求めるのだが、考えを否定することはなく、それらを取り入れる形で授業がまとめられる。この絶妙な距離感こそが最大の魅力だ。

 コーチングというと、「何かを導くこと」と私たちは捉えがちであり、科学的なデータを用いることで、そこに一定の方策がある様に思われる。しかし、実際には、その折々で選手に「適当」なコーチングは異なり、あえてコーチングしないことが「適当」な場合もあり得る。コーチの最も重要な仕事は、「教えること」ではなく、選手に「適当」な環境(コーチとの距離感や練習環境など)を整備して「与えること」なのである。その点から見ると、この授業は講義というよりまさに「コーチング」に近い。学生と「適当」な距離感を保ち、学生が自発的に考えられる「適当」な環境が整備されているのだ。

 「俺の授業は適当だから」と豪語する礒先生。「適当」の真意を理解したとき、コーチングの真理に一歩近づくのではないだろうか。

礒先生(左)と筆者(右)
▲礒先生(左)と筆者(右)

授業の風景
▲授業の風景

 
1249号 2011年7月7日掲載