研究最前線

新時代の沿岸防災の再構築に向かって
東北津波の教訓を活かす

沿岸域は常に津波・高潮・高波などの災害の脅威にさらされています。最近では2004年のインド洋大津波、2011年の東北地方太平洋沖地震津波をはじめとして、大きな被害が続出しています。今回は震災後関心の高まる沿岸部の現状と今後について、被災直後から現地調査を実施し続ける柴山知也教授(理工学術院)に、被災低減のための方策を語って頂いた。

柴山  知也(しばやま・ともや)/理工学術院教授

柴山 知也(しばやま・ともや)
理工学術院教授

東京大学工学部土木工学科卒業。工学博士。東京大学助教授、Associate Professor, Asian Institute of Technology、横浜国立大学教授などを経て現職。著書に『Coastal Processes』(World Scientific刊)、『建設技術者の倫理と実践』(丸善刊)、『建設社会学』(山海堂刊)、その他、沿岸域防災に関する論文多数。


早稲田大学調査隊の活動

 本学では津波発生直後から「早稲田大学調査隊」 を編成し、津波被害の実態を調査してきました。その結果、津波の浸水高さは、三陸のリアス式海岸では概ね15mを越え、宮城県南部から福島県にかけての低平地では7~8m、茨城県、千葉県では概ね5m程度であったことが分かりました(図1)。また岩手県から千葉県まで広範にわたり津波による家屋の流出、港湾施設の損壊、船の乗り上げ等の被害がありました。福島県、宮城県、岩手県での調査地点では、堤防や防波堤の崩壊、侵食による海岸線の後退が多くの地域で見られ、早急な対策が必要です。

津波被害はなぜ起こるのか?

 海底で地震が発生すると、地盤が上下方向に変位するため、大きな水の波が発生して周囲に伝わっていきます。日本列島の周辺にはいくつもの海底プレートの境界があり、大きな地震が発生するため、何度も津波に襲われて来ました。特に東北の三陸地方は「明治三陸津波(1896年)」「昭和三陸津波(1933年)」「チリ津波(1960年)」など、100年程の間に3回も大きな津波に襲われてきたため、湾口防波堤、防潮堤、津波避難ビルなど、何重にも防護の方法を講じていました。ところが、2011年3月11日の東北地方の津波では、津波の大きさが予想されていたものよりもはるかに大きかった。そのため、地域社会を守る最後の砦である防潮堤が津波来襲時に各所で破壊され、破壊されなかった防潮堤も津波が乗り越えてしまい、集落を津波が襲いました。大きな津波に襲われた場合、防潮堤などの構造物だけで居住地を守ることは無理ですので、早めに高台に避難することが必要です。

今後の沿岸防災対策とは?

 今回の津波は、避難計画の前提となる予想を上回るものでした。私たちが直ちに着手すべき課題は、防災対策の策定において想定されている津波の規模を見直すことにあります。想定値に縛られずに、それを超える津波が来襲した場合にも対応可能な避難計画をあらかじめ作成しておくなど、全国的な防災計画の練り直しです。

 具体的には全国の都道府県で、この5年ほどの間に作成した「津波ハザードマップ」の再検討を行い、県レベルでの津波被害想定を見直す必要があります。これまで生起する確率が低いと考えられ、防災計画に含まれていなかった地震にも焦点を当てること。そして津波の歴史的検討とともに、津波の予測シミュレーションの「波源モデル」を修正して、来襲する津波の予想波高をより高く設定し直す必要があります。

 一方で今回の津波では、防波堤、防潮堤などの構造物のみで人命を守ることは困難であることがはっきりしたため、市町村レベルでの避難計画の修正というソフト面での対策を直ちに行う必要があります。これまで身近の避難できる場所として、一般的に「鉄筋コンクリート造建物の3階以上」と考えられていたものを、地域によって6階あるいは7階以上に修正する必要があります。陸上への氾濫が予測される地域では、その周辺にも避難地域を拡大する必要があります。さらに予想された津波よりも実際の津波が高く、速い場合にも対応できるように、避難場所の高さと避難に要する時間に、十分な安全率を見込む必要もあります。

 これから作成していく避難計画は今回の津波の経験と科学的知見をもとに、各地域で構造物による防護の水準を上回った場合に「何が起きるか」のイメージを練り上げ、地域でできる最大限の方策を考えるという手順で行うべきと思います。避難計画の策定に当たっては、避難場所の選定を地域の特性に応じて、適切に行う必要があります。  具体的には市町のおかれた地形条件を場所ごとに分析して

(A)背後に標高の高い後背地を有する丘
(B)堅固な7階建て以上の建物か、20m以上の地盤高の丘
(C)堅固な4階建て以上の建物


のように信頼度のランク(A/B/C)を付けて指定し、住民は状況に応じて避難場所を選ぶなどの方法を検討する必要があります。

 今回の津波災害は、東北地方では数百年に1回起こるか起こらないかの、本当に大きな災害です。私を含む沿岸防災の専門家たちにしても、これほどの災害が日本に起こることを具体的に予測することはできませんでした。沿岸域の復興には多くの困難がありますが、現地の復興を支え、世界の防災戦略を練り上げて行く方法を示すことが本学の責務だと思います。

柴山研究室
柴山研究室


大槌町の被災地
大槌町の被災地


田老地区の防潮堤跡
田老地区の防潮堤跡


図1 早稲田大学調査隊の津波による浸水高さの調査結果図1 早稲田大学調査隊の津波による浸水高さの調査結果




1244号 2011年6月2日掲載